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怪異を訪ねる【菅原別館】その一
この四年間を振り返れば、二〇二〇年は「コロナ元年」と言って良いだろう。私と「菅原別館」との物語の始まりはその前年であった。
世界へ徐々に忍び寄るコロナウイルスの気配を感じ取ることも知る由もなかった数ヶ月前、二〇一九年十一月二十七日の朝九時前。私は片手に携帯電話を持っていた。座敷わらしが出るとされる岩手県盛岡市の菅原別館へ宿泊予約を入れるためだ。
テレビ番組『世界の何だコレ!?ミステリー』(フジテレビ)内のコーナーで、俳優の原田龍二氏が検証を試みたこともあり、メディアで既に紹介されていることから座敷わらしファンの間では有名な旅館である。今回からの投稿では、複数回に分けて菅原別館で私が宿泊したときの記録をご紹介していきたい。
まず初めに、菅原別館の概要や由来をホームページ(座敷わらし 出世の宿 菅原別館 (zashikiwarashi.jp)から引用して記す。菅原別館には、大きく分けて二つの由来がある。
一つ目は、大女将の実家の由来である。大女将の実家は、先祖代々、江戸時代から旅館を経営しており、家から出た者は倣って各地で旅館を営んでいた。その大女将の実家には村の鎮守として火の神様が祀られており、この存在が座敷わらしであるとされている。また、火の神様であることから、江戸時代に起きた火災の際には、村の大半が焼失したにも関わらず、実家は火事を免れたそうで、炎を防いでくれたと言い伝えられている。この不思議な存在が、大女将の嫁入りのときに付いてきて、今となっては旅館に住み着き、宿泊者に怪異を引き起こすと考えられている。
二つ目は、先先代である小笠原謙吉の存在である。柳田國男と佐々木喜善は、それぞれ『岩手県紫波郡昔話集』を出版しているが、二人と交流があった小笠原は、祖母のユミから聞いた昔話を二人に伝えたそうだ。後に編集された書籍に影響を与えたことから、菅原別館のもう一つの由来とされている。
そんな旅館の予約方法は電話受付のみ。座敷わらしファンの一人として、見過ごすわけにはいかない。まずは予約が取れるかどうか次第なのだが、メディアの影響もあり、数年前から、予約はその電話をかけた日から一年後の同日しか取れない。このシステムは、記事を書いている現在でも変わっていない。予定を抑えることが難しいかもしれないが、先の話はどうにでもなるだろうと楽観視して、私は大まかな日程を組み、数回に渡って予約の電話を試みた。予約受付時間は午前九時から午後八時までだが、電話が殺到するので開始僅か数分で受付は終了する。予約に空きがなければ、電話が繋がったとしても受付終了の音声ガイダンスに切り替わる。私も何度か電話をしたが、振られ続けた。
数日、電話を掛け続けた当日、電話が繋がった。
「はい、菅原別館です」
電話に出て下さった声の主は男性で、メディアでお見かけした女将さんではなくご主人らしい。音声ガイダンスではない声が耳に響いて驚いた私は、緊張しながら、恐る恐る予約をお願いした。
「あの、予約をしたいんですけれど・・・」
「ご予約ですね。現在、二十五番のお部屋がご用意できます」
菅原別館では、一日三組まで予約を受け付けている。客間は二十一から二十六番まであるのだが、そのなかから宿泊希望者が部屋を選ぶことができる。だが、部屋はそれほど広いわけではないので、大人数での宿泊の場合は、二十二と二十三を合わせて一部屋として宿泊してもらっているそうだ。よって、すべての部屋が埋まるわけではなく、縁のあった一日三組だけが六部屋のなかから選ぶことができ、当日は、騒がしくなることもない。食事付きではなく素泊まりのみの受け付けだが、オペレーションを考慮すれば、一日三組がやっとなのだろう。宿泊者は検証をしたいと思って泊まりに来るわけであり、人数は少ない方が都合が良いので納得だ。ちなみに現在は一泊の素泊まりで一人八千円。
また、各部屋には謂れがあり名前が付いている。二十三の間は「一発逆転の間」、二十四の間は「出世の間」、二十五の間は「玉の輿の間」、二十六の間は「新しいことが成功する」と言われている。
ということは、私が電話を掛けたときには既に他の部屋は埋まっており、二十五番だけが残っていたということだ。
(うーん、玉の輿の間か・・・。)
正直、気持ちが逡巡へ傾きかけた。だが、電話が繋がる事に縁を感じて、次回はいつ繋がるかその保証もないと咄嗟に思った私は、宿泊できればどこでも良いではないかと決心して、二十五の間の予約を取った。
「それでは、一年後の十一月二十七日にお待ちしております」
こうして電話が切れた。無事に予約を取れたことに嬉々としたが、来年の当日には私はどうしているのだろうか。そんなことを考えずにはいられない。予約が取れた皆さんは同じことを思うのではないか。だが、明確な目標ができたと思い、そこからの一年を過ごすことになった。
次回からはいよいよ宿泊当日の様子を記す。お楽しみに。(続く)