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死にゆくおじいちゃんの4つのお願いが胸に染みている話


前に母方のおじいちゃんを看取ったことは書いたけど、今回は父方のおじいちゃんの話です。
僕が20代半ばの話。


「◯◯ー、今日は◯◯の人生に、言いたいことが4つあるんだよ」


80を過ぎて寝たきりになり、もう大往生が近いと認めざるをえないおじいちゃんに顔を見せにいったら、理路整然と物を言われてびっくりしました。


おじいちゃんも、もう孫と会える機会が少ないことをわかっていたのだと思います。


「うん、聞くよ」と僕は、身構えながら。


「まず、就職しなさい、、、」


いきなり火の玉ストレートが投げ込まれました。FXのデイトレーダーとして小銭を稼いで生きている僕が、不安で不安で仕方ないのでしょう。

(まあそりゃ大学生の時はしたかったんだけどね。企業がとってくれなかったからさ。縋りつくのもムカつくし、もうFXを頑張るって決めちゃったからさ、、、)

「わかった。近いうちに探すよ」

普段、誰かに言われた時のように反論してしまうと、おじいちゃんは心配と失意のうちに旅立ってしまいます。それなら大嘘をついてでも安心させてあげた方が、おじいちゃん孝行になると僕は判断したのです。死後、神様に裁かれるのは僕だけで良い。


「そして、結婚しなさい、、、」

(僕は結婚どころか彼女もいないんだよおじいちゃん。いま好きな女の子がいるんだけど、僕が知り合う前から彼氏がいて一筋縄じゃいかなくて無理ゲーだと思ってるよ)

「うん。いつかはね!!」


「そして、車の免許をとりなさい、、、」

(おじいちゃん、僕は自転車に乗るだけでも人とぶつかったり電柱にぶつかったり盗まれたりトラブル起こしまくってるんだよ。免許をとらないのはわざとなんだ、人を跳ね飛ばす自信があるんだ)

「うん。そろそろ教習所、通おうと思ってたんだ!!!」


「そして、為替(FX)は辞めなさい、、、」

(ごめん!そこまで嫌だったとはそんな生き方しておじいちゃん本当にごめん!!!!!!!!)

「就職が決まったら辞めるよ、、、」



「そんなところだなあ、、、。頼んだよお、、、」



おじいちゃんが微笑んだので、連続の嘘の決意表明に心を痛めながらも、僕はなんとか、現実より前向きな孫の姿をみせることができました。


就職、結婚、運転免許、ギャンブルを辞めろ。ほんとだったら、理想的に育っていたら、ひとつも言われなくていいことです。こんな当たり前なお願いをおじいちゃんに言わせてしまった。20代半ばで、この4つを4つとも満たしていない人は数少ないでしょう。




◯◯ー、とおじいちゃんにまた名前を呼ばれました。



「なに?」



「生まれてきてくれてありがとう」



不意を突かれて僕は涙が出そうだったけど、おじいちゃんが見つめているので我慢して、



「おじいちゃんとおばあちゃんのお陰よ。……間接的にね!」


とおどけてみせるのでした。



それから数週間後、土曜の夕方。おじいちゃんが意識不明の危篤状態で、おそらく明日の朝を迎えることができないと、おばあちゃんから連絡がきました。


両親はすぐに病院に向かう支度を始めました。土曜日に仕事がある弟も、早退して病院に駆けつけるそうです。


「なにぼーっとしてんだ!」とせかす父親に、僕は、


「外せない用事があるんだ」と言いました。


僕は好きな女の子にこれから会いにいくところでした。


今日は好きな女の子が、彼氏と会う約束を断ってまで、僕と会ってくれようとしていた日だったのです。


たとえおじいちゃんが危篤という理由があろうが、ここで彼女と会うのをやめたなら、僕はもう絶対にこの子と付き合えないと思った。そういう運命を受け入れてしまうと思った。


バカじゃないの? おじいちゃんの死に目を優先するべきだろう、と思う人もいるでしょう。でも申し訳ない、この時ばかりは罪悪感はなかったです。



だって死にゆくおじいちゃんの4つのお願いのひとつが「結婚しなさい」だったから。


就職もできず事故るから免許もとれず、生きるためにFXを辞められない僕が一番おじいちゃんの願いを叶えられそうだったのが、結婚だったから。



絶対に行くに決まっていたのです。



それで、好きな女の子とご飯を食べにいきました。


「ごめん急用ができて、一時間くらいしか会えなくなっちゃった」


で始まり、


「振り回してごめんね。でもどうしても会いたかった。今日、君に会えてよかった」


で終わる逢瀬でした。



その後、僕は電車に飛び乗って病院に向かい、おばあちゃんと両親と弟と、おじいちゃんが旅立つのを見届けました。



おじいちゃんは安らかでした。



それから、この時におじいちゃんを差し置いて一時間会いに行った女の子と、僕はお付き合いすることになります。



急用ができても、一時間だけ会いにきた僕のシリアスな感じが、決め手のひとつになったそう。


つまり、おじいちゃんのお陰なのです。僕が彼女と付き合えたのは。




それが今の嫁さんです。





で終われればXでもバズるような最強エッセイになるんですが、とっくにお別れしています!!!!!!!!!!泣



おじいちゃん僕は残念ながら、30過ぎても4つの願いをひとつも叶えられてないよ。そしてたぶん、これからもひとつも叶えられそうにない。



でも代わりに、弟が4つとも願いを叶えているぜ!!!!



ごめんね。



生まれてきてくれてありがとうと言ってくれてありがとう。




おしまい





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