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瀬戸内の潮騒を聴きながら旅をする
サンライズ瀬戸号に揺られて歯磨きをしている時、初めてつり革に捕まりたくない野田クリスタルの気持ちがわかったような気がした。確かにこの揺れは心地よい。
しかし揺れによる衝撃で歯ブラシが喉に刺さってしまうのは避けたいところ。歯を磨き終えてから歯ブラシを洗い、うがいをするまでも揺れとの格闘が続く。
なんとか歯磨きを終えて、私が寝泊まりをしている個室へと戻る。個室の窓から朝日が差し込み、車内ではもうすぐ高松駅に到着するという案内放送が流れている。
荷造りを始めなくては。だが、その前に車窓からの景色も写真に納めておきたい。
私は知人に借りたカメラのシャッターを切った。
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瀬戸大橋を渡る時島々と海が見え、四国へたどり着いたことを実感した。
私はとある日、仕事のない日に一人旅をしようという計画を立てた。完全な思いつきである。いや、思いつきでは無いかもしれない。
以前からSNSで拝見して気になっていたイベントがあった。それに足を運ぼうかどうか、その決断を保留していたと言うべきだろうか。
最終的に「行く」という結論を出したのは、旅の2週間前である。座席が埋まらないうちに乗車券を買い、宿泊するホテルを予約した。なんとも突発的な計画だが、だからこそ旅は楽しいのだろう。
私がずっと気になっていたイベントというのは、「瀬戸内国際芸術祭」である。なんとも、3年に1度の周期で瀬戸内の各島で様々なアーティストの展示を行うらしい。
芸術祭会期以外でも開放されている展示もあるそうだが、会期中でないと見に行けないという展示も多く存在するとのことだ。
直島や豊島がSNSで有名な観光地だということは知っていたが、その他の島についてあまり詳しくは知らなかった。そこでガイドブックを購入し、気になる展示を巡回することにした。
そんなこんなで旅当日。仕事を終えた私は日本で唯一毎日運行している寝台特急サンライズ号へと飛び乗った。旅の交通手段にサンライズ瀬戸を利用した理由はいくつかある。
その中でも大きな理由が、電車での長旅に憧れていたからだ。列車の中で気がついたら眠ってしまい、朝目覚めて知らない土地を目の当たりにする。得も言えない高揚感に包まれ旅が始まる。この一大イベントを体験してみたい!という気持ちが強かった。(実を言うと1度飛行機でその体験はしているのだが電車では未経験なのである。)
ブルートレインやらさくら号やらトワイライトエクスプレスなどの寝台特急への憧れは幼少期から薄々あったものの、私が歳を重ねるにつれ軒並み運行が終了してしまい、寝台特急の存在は私の中で幻となりつつあった。そんな中、YouTubeでサンライズ瀬戸・出雲に乗車して感想レポートを載せている動画がたくさん見つかった。そこで私はサンライズ瀬戸・出雲が現在日本で唯一毎日走っている寝台特急ということを知った。
これは乗るしかない。覚悟を決めて私は寝台特急の切符を手にした。
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無事香川県に到着してから、たくさんの島を周り展示作品を拝見した。
作品ひとつひとつに魂や伝えたいことを感じ、芸術の壮大さを実感した。
その中でも特に魂が震えたのは、モネの睡蓮だった。この作品は直島の地中美術館に存在している。
展示部屋に入ると目に飛び込んでくるのがこの睡蓮という作品である。連作になっているのだがそのメインはとてつもなく大きなキャンバスに描かれたその油絵である。
おそらくA2あたりのサイズのキャンバスをふたつ繋げて描かれており、近づいて見てみると何度も何度も絵の具を塗り重ねた跡がある。命を削りながら描いた結晶というのはまさにこの事なのだろうか。私はこの作品に生命の重みを感じた。
残念ながら館内は撮影禁止のため写真がないのだが、美術館の道中に咲いていた花がとても綺麗だった。モネは生前、こんなふうに花を、自然を愛していたのだろうか。
自分だけのお気に入りを配置した庭園を眺め、その絵を描き続ける。それが彼にとっての幸せだったのだろうか。
モネと会って話をした訳では無いから、描かれた色に、筆先に、気持ちを推し量ることしか出来ない。あの絵の持つ力強さを目の前に、私は初めて絵画を見て涙を流した。
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モネの愛した庭園に行ってみたくなった。
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小さくカラフルで可愛らしい。
(ゴーストや玉ボケを上手く撮れた)
それから、カフェの作品も印象に残っている。
歩き疲れた身体を休めようと、ふらっと立ち寄ったカフェがあった。女木島の「Cafe de la plage」である。
海沿いの道にあるこのカフェは、壁やテーブルが特殊なインクで塗られており、外の気温によって色を変える仕掛けが施されている。
旅の道中、私の相棒と化していたカメラを机に置き、持ち上げた際に色の変化に気づいた。海の色のような水色から、青と緑を混ぜた淡い色へと変わっていく。
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私はこのカフェに入り、窓際の席へ座りアイスコーヒーを注文した。晴天の中、歩き疲れた身体にアイスコーヒーが染み渡る。しかもこの海を眺めながら頂くことが出来るのである。なんて美味しいのだろう。
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そして、カフェの窓から見える景色も良いのだ。窓の外には一面の海が広がっている。その近くには港も存在しているため、時々本土と島を繋ぐフェリーの往来が見えるのである。
運良く私もそれを見ることが出来た。
波の音、穏やかな海、時々来るめおん号、アイスコーヒーの香り、ゆったりと流れる時間が私をここへ留めた。
私はその当時、見たい島の展示やフェリーの発着時間などをガイドブックで確認していたのだが、あまり時間にとらわれずにゆっくりと楽しもう、とすこし力が抜けた。
コーヒーを飲みながら、いつまででもこの海を眺めていたい。せっかくの旅で気持ちが急いでしまっては勿体ない。
こんなにゆっくりと過ごせる場所なら何度でも足を運びたい。私は、ゆったりと流れる時間や空間が大好きなのだ。その後帰り道に調べてみたところ、芸術祭会期中でないと営業していないとのことだった。衝撃的すぎて言葉を失った。
瀬戸芸の運営さんへ、どうか会期中以外でも営業して頂くことは出来ませんか? 3年経たなくても、また足を運びたいんです。
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あちらの船は高松と男木・女木島を繋ぐめおん号。
他にもたくさん魅力的な作品が数多くあり、見た作品をすべて紹介したいのだが、このnoteが長くなりすぎないように割愛させていただく。
特に私のお気に入りは「ガラス漁具店」、「リサイクルショップ複製遺跡」、「女根」、「I♡湯」、「ナビゲーションルーム」だ。
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ハートの釣り針が無数に垂れ下がっている
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ここからも海を一望できる。
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この象を見ながらお風呂に入れる、なんていい時間
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「女根」、「I♡湯」は大竹伸朗さんの作品である。カラフルでビビッドな世界観がとても素敵だった。調べたら東京国立近代美術館で展示を行っているらしい。今回の旅で大竹さんやその作品を知ることが出来たので、展示も見に行ってみたい。
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窓の外の海も含めて透明感のある作品でした。
オルゴールの音も落ち着く。
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初めての一人旅、初めての寝台特急、初めての四国、初めての香川県、初めての瀬戸芸、と初めて尽くしの旅だったがとてもいい時間を過ごすことが出来た。念願の、本場の讃岐うどんを食べることも出来たし大満足。
旅の間、瀬戸内の島々や海の穏やかさに心が解き放たれる感覚がした。個人的に海とは深い関わりがあるので、時間制限なく海を眺めていられることにこの上ない幸せを感じた。やはり私は、自然が好きなのかもしれない。
私は何も無くても、嬉しい時でも、辛い事があった時でも、もう一度この場所へ訪れて心を浄化させたい。