延べ宿泊者数が伸び悩む~2024年8月の宿泊旅行統計調査と2024年7月の出入国管理統計
観光庁の「宿泊旅行統計調査」の2024年8月分が本日(9月30日)公表されました。「出入国管理統計」の「短期滞在」の入国外国人の動向ともにポイントをまとめます。また、百貨店のインバウンド需要に相当する「免税売上高」の推移も引き続き示していきます。
2024年8月の延べ宿泊者数、前年同月比2.7%増
2024年8月の延べ宿泊者数は6611万219人泊であり、前年同月比で2.7%増加しました。7月の4.1%増(1次速報段階では8.6%増)から伸びを縮小させました。7月の1次速報段階では延べ宿泊者数が増加に転じたかに見えましたが、7月の2次速報と8月の1次速報を見ると、7月、8月と2ヵ月連続で伸びを縮小させる結果となっています。
1次速報段階では7月の日本人観光客の寄与がプラスになったと喜んでましたが、2次速報ではマイナスの寄与(▲2.6%)。8月の1次速報でも▲0.7%と4ヵ月連続のマイナスの寄与となりました。外国人の寄与は3.4%と2024年3月から6ヵ月連続で1ケタにとどまっています。
2019年の同月比でも伸び鈍化
コロナ禍前の2019年の同じ月との比較もしてみましょう。2023年6月から15ヵ月連続でプラスになり、8月は4.5%増と伸びを縮小させました。7月も第1次速報の14.2%増から9.4%増へと下方改定されており、伸びが鈍化しつつある可能性があります。
内訳をみると、外国人の寄与が5.3%、日本人の寄与が▲0.7%となっています。日本人の寄与は3ヵ月ぶりのマイナスになってしまいました。日本人観光客の動きが鈍いのか、2次速報で上方改定されるのか?
「短期滞在」の入国外国人の伸びは続いている
90日以内の滞在予定で入国する「短期滞在」の外国人、多くが観光目的と考えられる外国人も増加を続けています。現時点で判明している2024年7月において「短期滞在」の入国外国人は298.8万人で11ヵ月連続で2019年同月を超えました(1.15倍)。
一方、観光目的以外も混在していると考えられる2024年8月の訪日外客数は、293万3000人。2月以来の300万人割れですが、2019年同月比は1.16倍と7月の1.1倍から上昇しています。
こうした入国外国人の伸び拡大と、宿泊者数(人泊)の伸び鈍化というズレが今後どうなっていくのか注目したいと思います。
客室稼働率、8月は伸び悩む
このところコロナ禍前水準に並んでいた客室稼働率は、8月は伸び悩みました。2024年8月の客室稼働率は63.9%。コロナ禍前の69%前後とかなり差が開きました。
前年同月と比べた改善幅は緩やかに縮小傾向です(1月から、5.2ポイント→4.8ポイント→3.2ポイント→4.8ポイント→3.3ポイント→3.2ポイント→3.3ポイント→1.3ポイント)。
書き入れ時の8月の客室稼働率が伸び悩むというのは、あまり嬉しい話ではありませんね。日本人旅行客の伸び悩みが原因でしょうか?
宿泊施設タイプ別にみても、8月の客室稼働率の伸び悩みが確認できます。7月までコロナ前水準を確保していたビジネスホテルとリゾートホテルが、8月ははっきりとコロナ前水準を下回っています。旅館は2023年水準をわずかに下回りました。
2024年7月のビジネスホテルの稼働率は74.8%と前年同月に比べて1.4ポイントとわずかな上昇にとどまりました。観光需要が中心のリゾートホテルのの8月の稼働率は63.7%。2023年に比べて3.5ポイント上昇したものの、コロナ禍前の2016~2019年とまだ距離があります。
1~7月平均の客室稼働率が例年の値を上回ったのは15県
1ヵ月遅れで確認できる都道府県別データを用いて、2024年1~7月平均の都道府県別の客室稼働率を例年の値(2015~19年の1~7月の平均値)と比較すると、15県(青森県、秋田県、茨城県、栃木県、新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県、岐阜県、三重県、滋賀県、鳥取県、島根県、大分県)が例年の値を上回りました。1~6月平均に比べて1県増えました。
例年は外国人観光客が多かった都道府県の客室稼働率はまだまだ例年の値には及びません。落ち込み幅が大きい順に、(1)沖縄県(マイナス10.3ポイント)、(2)佐賀県(マイナス7.8ポイント)、(3)大阪府(マイナス7.6ポイント)、(4)千葉県(マイナス6.5ポイント)、(5)群馬県(マイナス6.4ポイント)となっています。
延べ宿泊者数が2019年同期を上回ったのは19都道府県
2024年1~7月合計の都道府県別の延べ宿泊者数の前年比を確認してみましょう。減少しているのは15県(岩手県、秋田県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、神奈川県、富山県、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、沖縄県)で、1~6月合計から1県減りました。石川県が49.3%増と断トツの伸びになっていますが、徐々に伸びが落ち着いています。
次に高い伸びとなっているのが鳥取県(26.1%)、岐阜県(24.5%)、三重県(23.7%)です。
一方、4年前(2019年1~7月合計)と比較すると、19都道府県で延べ宿泊者数が増加となっています。1~6月合計と比べて2つ減りました。東京都が外国人観光客を中心に2019年対比でも41.9%増と最大の伸び。日本全体で延べ宿泊者数が増えていても、一部に集中している姿が確認できます。
クルーズ船観光客、さらに増加
次に、「出入国管理統計」の「入国審査・在留資格審査・退去強制手続等」の中で把握される「船舶観光上陸」を許可された人数を確認してみましょう。いわゆるクルーズ船観光客で、宿泊需要にはなりませんが、お土産などの消費につながる可能性があるものです。
2024年7月は14万6286人と前月に比べて大きく増加しましたが、2019年同月比は56%と6月(58%)に比べて縮小しました。2019年のクルーズ観光ブームにはまだまだ及ばないようです。ちなみに、クルーズ観光客も訪日外客数には含まれています(出入国統計の「短期滞在」には含まれません)。
8月の免税売上高合計は前年の1.5倍
最後に、日本百貨店協会が毎月発表している「免税売上高・来店動向」を確認しましょう。直近の2024年8月は463.2億円と前年の1.5倍です。1-8月累計は4441億円と2019年通年の1.3倍となっています。
ただし、前年同月比の伸びは2024年5月の3.3倍をピークに縮小傾向にあることには留意しておきたいですね。