特別給与の2ケタマイナスは実勢か?~2023年11月の毎月勤労統計
本日(10日)、毎月勤労統計調査の11月速報値が公表されました。日経夕刊は実質賃金のマイナスが20ヵ月連続で続いていることに注目していますが、今月は名目賃金が前年同月に比べて0.2%しか増えなかったことがポイントといえます。フルタイムで働いている一般労働者だけに限っても0.3%増です。しかし、そこには統計のクセが潜んでいる可能性もあります。
就業形態計の特別給与が前年同月に比べて2桁減だが…
いつもと順番を変えて注目度が高い就業形態計の現金給与総額の上昇率から確認しましょう。きまって支給する給与(所定内給与と所定外給与の合計)は1.2%増で、10月と変わりありません。一方で、特別に支払われた給与(いわゆるボーナス)が13.2%減と際立った減少幅になっているおり、これが現金給与総額の伸びの大幅縮小に寄与したことが確認できます。
この13.2%減は実勢なのでしょうか?例えば、日本経済新聞社がまとめた2023年冬のボーナス調査(12月1日時点)によると、全産業の平均支給額は前年比2.62%増の86万5903円で、増加率は22年に比べ鈍化したものの支給額は過去最高となっています。日経は大企業中心の調査だから中小企業を含めるとマイナスという可能性はあるかもしれませんが、だいぶ印象が異なります。
実は、毎月勤労統計調査の特別給与は月単位でみるとプラスマイナスに大きくぶれることが時々あります。下の図は就業形態計の現金給与総額、定期給与、所定内給与の前年同月比上昇率の推移を示したものですが、定期給与、所定内給与の変動と現金給与総額の動きがかい離している月が時々あります。これは特別給与が大きく伸びたか、大きく減少した月に当たります。
直近でその差が最も大きくなったのは2022年12月。定期給与が1.4%増だったのに対し、現金給与総額は4.1%増となりました。特別給与が6.5%増と久々の高い伸びになったためですが、毎月勤労統計調査で別途集計している2022年冬のボーナス(労働者一人平均賞与額)は前年比3.2%増であり、上振れしている印象があります。
就業形態計・共通事業所ベースでは現金給与総額は2%増
なぜ、こういうことが起きるのでしょうか?一つの可能性は前年と今年の調査対象の違いが影響していることです。例えば、前年は11月にボーナスを支払う企業が多かったのに対し、今年は12月にボーナス支給する企業が多いとなると、冬のボーナスの支給金額が前年と今年で変化がなくても、11月の特別給与は大きく減少します。
この仮説を確認するために、前年同月も当月も調査対象となった事業所(共通事業所)のみを集計した結果を見てみましょう。毎月勤労統計は全数調査ではないので、前年同月と当月の調査対象の違い(サンプル替え)の影響をどうしても受けてしまいます。共通事業所に注目することで、その影響を取り除くのが狙いです(ただし、サンプル数が少なくなるという問題はありますが)。
下の図のオレンジの線が共通事業所の現金給与総額の前年同月比上昇率の推移ですが、直近の2023年11月でも2.0%増であり、伸び率が縮小する姿は確認できません。特別給与は1.0%増とわずかながらプラスになっています。
一般労働者ベースでも共通事業所とのかい離大きく
就業形態計ではパートタイム比率の影響なども含むので、一般労働者に限定した形でも、全サンプルを用いて算出している実績値と共通事業所ベースとの比較もしてみましょう。
11月の一般労働者の現金給与総額は前述の通り前年同月比0.3%増ですが、共通事業所ベースでは1.8%増とかい離があります。10月までは、全サンプルと共通事業所ベースの動きは沿っていましたので、11月は特別給与が実績値に何らかのゆがみを生み出している可能性がありそうです。
基本は一般労働者の所定内給与上昇率の観察ですね!
このように、就業形態計の現金給与総額の動きには様々なノイズが入ってきます。ですので、毎月書かせていただいているように、一般労働者の所定内給与の前年同月比上昇率と、パートタイム労働者の時間当たり所定内給与(時給)の前年同月比上昇率のチェックが基本と思われます。
2023年11月の一般労働者の所定内給与の前年同月比上昇率は1.5%でした。10月の1.7%からわずかながら伸びが縮小し、2023年7月に2%に乗せて以来、2%に届かない状況が続いています。
一方、パートタイム労働者の時給上昇率は前年同月比4.6%と前月(3.8%)から上昇しました。人手不足を強まりを反映していると推察されますが、この勢いが一般労働者へ波及していってほしいものですね!