賃金上昇は一進一退~2023年8月の毎月勤労統計(速報)
本日(6日)、毎月勤労統計調査の8月速報値が公表されました。日経電子版は実質賃金下落率が0.2ポイント縮小していることを報じていますが、それは名目賃金上昇率から差し引く消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)の上昇率が低下したためです。
本稿では引き続き名目賃金の内訳を観察していきたいと思います。
一般労働者の所定内給与伸び率は前月に比べて低下
2023年8月の毎月勤労統計調査では、フルタイムで働いている一般労働者の所定内給与上昇率が前年同月比1.5%と前月から低下しました。ちなみに、7月の速報では1.9%上昇でしたが、確報値は2.0%と上方改定され、2022年11月以来の2%乗せでした。
パートタイム労働者の時間当たり所定内給与(時給)上昇率は前年同月比3.3%と前月(4.0%)から低下しました。なお、「〇〇の壁」でパートは労働時間の調整が話題になっていますが、今月は前年同月比0.4%減と前月(2.0%減)ほどではなかったので、パートの所定内給与は3.0%増でした(前月は2.0%増)
就業形態計の賃金上昇率は前月から横ばい
注目後が高い就業形態計の現金給与総額の上昇率は、8月は1.1%。7月と同じになりました(7月は速報値では1.3%でしたが、確報で1.1%に下方改定されています)。一般労働者は7月の1.8%(速報時は1.7%)から8月は1.2%へ伸びが縮小しましたが、パートタイム労働者は7月の1.3%(速報時は1.7%)から2.9%へと伸びが拡大しました。7月ほど労働時間が減少しなかったことが寄与しています。なお、パートタイム労働者比率が上昇しているため、就業形態計の現金給与総額の上昇率は、一般、パートタイムそれぞれの伸び率を引き続き下回っています。
一般労働者の賃金上昇率、時間外を含めても伸び鈍化
一般労働者に限定する形で、現金給与総額、定期給与、所定内給与の動向も観察してみましょう。8月までの状況は下図の通りです。
定期給与は、所定内給与に残業代を加えたものです。所定内給与上昇率を上回る月が多かったですが、今年に入って両者の差はほぼなくなってきてましたが、8月はともに1.5%でした。
現金給与総額は、定期給与に特別給与、いわゆるボーナスを加えたものです。6月から8月にかけて、現金給与総額の上昇率は2.9%→1.8%→1.2%と減速しています。冬のボーナスによる賃金押し上げに期待したいところです。
共通事業所ベースでみても一般労働者の所定内給与の伸びは鈍化
最後に、前年同月も当月も調査対象となった事業所(共通事業所)のみを集計した結果も確認してみましょう。毎月勤労統計は全数調査ではないので、前年同月と当月の調査対象の違い(サンプル替え)の影響をどうしても受けてしまいます。共通事業所に注目することで、その影響を取り除くのが狙いです(ただし、サンプル数が少なくなるという問題はありますが)。
下図の青い線が全サンプルを用いて算出している一般労働者の所定内給与上昇率、オレンジ色が共通事業所に限ったものです。オレンジ色の線の方がぶれずにじわじわと上昇率を高めている姿がわかります。ただし、2023年8月の上昇率は1.8%と、7月の2.4%を下回りました。
ちなみに、共通事業所ベースでの一般労働者の2023年8月の現金給与総額は1.2%上昇。全サンプルを用いた1.2%上昇と同じです。さらに共通事業所ベースでの就業形態計の2023年8月の現金給与総額は1.3%上昇。全サンプルを用いた1.1%上昇より高いですが、かなり近づいています。
来月以降も、共通事業所ベースのデータも継続してウオッチしたいと思います。