異例のGDP2次速報の改定~公共投資の速報推計にも課題
本日(7/1)、内閣府が2024年1~3月期のGDP2次速報の改定値を公表しました。GDP速報は1次(2024年1~3月期であれば5月16日に公表)、2次(同6月10日に公表)と公表された後は、新たな情報などがあれば次の四半期(今回であれば4~6月期)の公表の際に過去に遡って実績を改定するのが一般的であり、かなり異例な対応です。直近で2次速報の改定値が公表されたのは2000年7月27日に公表された2020年1~3月期ですが、コロナ禍にあって「法人企業統計季報」(財務省)が速報、確報と2段階で公表されたためです。コロナ禍でもない今回、なぜこのような異例の対応がとられたのでしょうか?
原因は統計のミスも原因とする「建設総合統計」の遡及改定
今回の改定は、6月25日に内閣府からアナウンスされていました。以下のリンクのニュースリリースによれば、「建設総合統計」(国土交通省)の2024年4月分が公表された際に、2020年度以降の実績値が遡及改定されたためとのこと。そして、その遡及改定の原因には、建設工事受注動態統計の訂正(6月11日(火)公表)が含まれるといいます。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/reference1/siryou/2024/pdf/announce_20240625.pdf
今回の改定についていち早くレポートを出した第一生命経済研究所経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミストの新家義貴氏は以下のように解説しています。要は建設工事受注動態統計の訂正があまりに大きく、2次速報の改定値を公表せざるを得なくなったということ。建設工事受注動態統計は、2021~2022年に統計不正問題を起こしたばかり。過去の失敗に学んでいないのでしょうか?
公共投資を中心に下方修正
今回の改定で実質GDP成長率はどれだけ改定されたのでしょう。いつものように前年同期比ベースで確認してみよう。以下の図は2次速報と今回公表された2次速報改定値の実質GDPの前年同期比成長率を比較したものです。公共投資の前年同期比伸び率がプラスからマイナスに転じ、実質GDP成長率が0.6ポイントも下方修正されました。2023年10~12月期も0.1ポイント下方修正され、成長減速度合が強まっています。
建設総合統計の改定は、総固定資本形成の遡及改定につながる
GDP統計のうち、「建設総合統計」の改定に影響を受けるのは、総固定資本形成、とりわけ民間企業設備投資と公共投資(公的固定資本形成)です。詳しい推計方法は下記のコラムを参照いただきたいのですが、速報も年次推計も影響が出ます。名目GDPの2次速報から2次速報改定値への改定額とその内訳を確認すると、下記の表の通りに総固定資本形成の改定額でほぼ説明できます。
公共投資は速報は建設総合統計、年次推計は財政統計
公共投資は2023年度が1兆円弱の下方修正になっている一方、2022年度以前は改定されていません。これは、速報では「建設総合統計」の中の公共工事出来高をもとに公共投資が推計されている一方で、年次推計では財政統計が用いられているためです。下記のコラムの図で示しているように、建設総合統計の各年度の前年比と、各年度の2次速報段階の公共投資の前年比の動きはほぼ一致しています。一方で、今回再改定された2023年度の公共投資の金額が、年次推計で財政統計が反映されるとまた改定されるのです。
速報段階から財政データを使えないのか?
そもそも公共投資は、国や地方公共団体が支出の主体となるものです(公的企業の投資も含まれますが)。月次、もしくは四半期単位で決算を行い、内閣府が集計を行うことでGDPの公共投資の推計に使えるのではないでしょうか(10年ぐらい前から同じことを言っておりますが(汗))。
実際、統計委員会の国民経済計算体系的整備部会QEタスクフォース会合では、四半期ベースで利用可能な決算データ等を利用して、年次推計の定義により近い「公共投資活動指数」を試算する動きもありました。
速報も財政データを用いることで、2次速報から年次推計にかけての公共投資の改定幅を小さくできる可能性もあると思います。直近の2022年度でも2次速報で1.3%増であった名目公共投資が、年次推計では1.7%減となりました。東日本大震災直後の2012年度には、2次速報で14.6%増だったのが年次推計では1.1%増へと大幅な下方修正となりました。
2023年度の公共投資も、2次速報段階では7.0%増でしたが、今回の2次速報改定値では3.7 %まで下方修正されました。年次推計ではどうなるのでしょうかね?