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「家計の平均負債額が初の平均年収超え」って意味あるの?
少し前の日経電子版の記事ですが、「住宅ローン膨張、すり減る家計 負債額が初の年収超え」という記事を見つけました。「家計調査」(総務省)の2人以上世帯のデータによると、2023年の負債残高の平均が655万円で年収(642万円)を超え、「1950年代から一度もなかった事態」といいます。これって意味があるのでしょうか?私の場合、長らく、住宅ローン残高は年収を上回っていたんですけど(笑)。
負債なしの家計が6割。平均を見て良いの?
確かに2023年の家計調査年報をみると、記事にあるような数値が出てきます。ただし、2人以上世帯の負債額の平均値を見ることにあまり意味はありません。実際、総務省の資料(2023年 貯蓄・負債の概要)には下記の図が掲載されています。全世帯の6割(60.7%)が「負債なし」の中で、それを含めた2人以上世帯の平均は低めに出ます。負債保有世帯に限った平均は1667万円で全平均(655万円)の2倍以上になります。ちなみに、負債保有世帯の負債額を多い順に並べたときの真ん中(中央値)は1422万円。多額の負債残高を抱える世帯がいることで平均値が高めに出ている可能性もあります。貯蓄残高と同様、こうした分布が均等ではないデータは平均値だけでなく、中央値を見るべきと教科書にも書かれています。
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世帯分類によって大きく異なる負債残高
この記事は住宅ローン世帯のことを書きたかったようです。そうであれば、「家計調査」から住宅ローン世帯のデータを抜き出し、そのデータをもとに書けばよかったのではないでしょうか?
家計調査年報の「貯蓄・負債編」の第6表には「住宅の所有関係別 貯蓄及び負債の1世帯たり現在高」というデータがあります。下図は2023年のデータを用いて描いたものですが、勤労者で持家かつ住宅ローン返済している世帯の負債残高は1967万円、年収(831万円)の2.37倍と他の世帯分類よりかなり高くなっています。だいたい、年収の範囲内の住宅ローンで家が買える人ってどんだけ自己資金があるんじゃという話ですよね(笑)。
なお、記事が扱っている2人以上世帯より、勤労者世帯の方が負債残高も年収倍率も高いです。これは、2人以上世帯には勤労者ではない世帯が含まれ、そうした世帯は負債が少ない(例えば、高齢で住宅ローンの返済を完了したとか)ためと推察されます。
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住宅ローン世帯の年収倍率もじりじり上昇
家計調査ホームページで遡れる2002年以降の負債残高の年収倍率を描いたのが以下の図です。勤労者で持家でかつ住宅ローンを返済している世帯の負債残高の年収倍率は、2002年には1.78倍だったのが2023年には2.37倍。20年ちょっとで0.6ポイントも上昇しています。
一方、記事で扱っている2人以上世帯の負債残高の年収倍率は、2002年の0.79倍から2023年には1.02倍と0.23ポイントの上昇にとどまっています。勤労者世帯だと2002年の0.81倍に対して2023年は1.31倍とい0.5ポイントの上昇とだいぶ近づきますが、住宅ローン世帯について記事にしたかったのであれば、住宅ローン世帯に限った年収倍率のデータを使っても良かったのではないでしょうかね?
なお、2人以上世帯でみて負債残高の年収倍率がじりじり上がっているのは、住宅ローン世帯の年収倍率の上昇だけでなく、2人以上世帯に占める住宅ローン世帯の比率の上昇も影響しています。2002年には2人以上世帯の18%程度だったのが2023年には24%弱まで高まっています。上昇トレンドも2018年あたりから高まっているように見受けられます。
「住宅ローン膨張ですり減る家計」という記事の認識は間違っていないと思いますし、今後、金利が上昇する局面で影響を受ける家計は増えていると政策当局も認識すべきでしょうね。
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借入直後の年収倍率は近年上昇か?
最後に。上記の住宅ローン世帯の負債残高は、借り入れ当初の家計も、返済がだいぶ進んできた家計も含みます。そこで、家計調査年報の「貯蓄・負債編」の第14表の「[持家世帯]住宅の建築時期別貯蓄及び負債の1世帯当たり現在高(2人以上の世帯のうち勤労者世帯)」も見てみましょう。
最新の2023年年報で、建築時期が2023年の場合、負債残高は3580万円で年間収入は777万円となり年収倍率は4.6倍となります。5年前の2018年年報で建築時期が2018年の場合、負債残高は2157万円で年間収入は780万円となり年収倍率は2.8倍です。
足元で物件価格の高騰などを背景に年収倍率が上昇していることにも注視しておきたいと思います。