#12 季節は遅刻しても怒られない
梅雨入りをしたらしい。
例年より二週間くらい遅いらしい。
大遅刻だ。
でも梅雨は四時間目の授業中に教室に入っても、みんなに振り向かれたりはしないだろうし、反省文も書かなくていいんだと思う。
挙句の果てに一番前の窓際の席でノートも開かずに頬杖をついて中庭をのぞいてる。先生は何も言わない。
昼休みはお弁当も食べずに中庭のベンチに寝っ転がって本を読んでる。きっと遅めの朝ごはんを食べてから来たんだろうな。
午後の授業も一緒。
ぼけーっと窓の外を眺めている。たまに目を大きく見開いて、流れる大きめの雲を見つけては、ノートに雲のスケッチをしていた。彼女にはよほど面白い形に見えたんだろうな。僕には普通のかたちにしか見えないけど。ひとしきり描いては眠ったりもしてた。
午後の授業が終わって放課後。
彼女は誰よりもはやく教室を出る。逃げるみたいに。でもそのまままっすぐ家に帰るわけじゃない。中庭の花壇で咲く花に水をあげてから帰るのだ。いつも花の近くまで顔を寄せて何かを囁いている。
僕には彼女のことが全くわからないけれど、ひとつだけわかることがある。
とても自由な奴だ、ということだけ。
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