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十年前に死んじゃってたらしい

 高校生の時に付き合っていた彼氏が居たんだけどさ。すごく好きで、お互い付き合うのとか初めてで。


 それまで『好き』とか『付き合う』とかよく分からなかったし、周りのみんなが幸せそうなストーリーとかあげてても、別に羨ましく思ったりなんかしなかった。だって、私たちの方が幸せだったから。


 二人で色んな所に行って、色んな思い出を作っていったあの時間は、人生の中で一番きらきら光っていて最高な時間だったって今でも思う。


 朝に最寄りの駅で待ち合わせして、地元の小さな遊園地に行って、一日分の乗り物券を買って閉園時間になるまではしゃぎ倒した。「こんなに楽しそうに遊んでくれるお客さんは久しぶりだよ」って管理人のおじさんが涙ぐみながら喜んでくれた。それくらい私たちの笑顔は輝いていたんだと思う。


 そんな彼とのきらきらな日常は簡単に終わりを告げた。些細な喧嘩だったと思う。内容は思い出せないけど、ほんの些細なすれ違い。そんな小さな溝が、やがて大きな溝になって私たちの仲を切り裂いた。一瞬だった。彼とはそれっきり連絡も一切取ることなく卒業を迎え、私たちは離れ離れになった。


 あれから、何年が経ったんだろう。私は結婚して子供が生まれた。もうすっかりおばさんの仲間入りを果たしてしまった。物忘れは昔より酷くなっているし、天然には磨きがかかったらしい。「ボケている」と言われないだけマシである、と自分を慰めている。

 この間、こんな歳になってもあの頃を忘れないようにしようって変な理由で同窓会が開かれた。どうせ、未だに独身なことを焦っている奴らの出会いの場と化すことは間違いないのだけれど、仲の良かった友達がしつこく誘ってきたから、仕方なく"出席"に丸を付けた。


 今では、行かなきゃよかったと後悔している反面、行ってよかったと思っている自分もいる。そんな同窓会で聞いた。

 「〇〇、十年前に死んじゃったらしいよ」

 絶対に忘れることのない名前。聞き間違えるはずがない。それは私の記憶に忘れらない煌めきを残した彼の名前だった。


 私は急に涙が止まらなくなってしまって、二次会には参加せず、おじさんとおばさんの二度目ましての場をあとにした。

 家にはもう十歳になる私の息子。すやすやと寝息を立ててベッドの上で眠っていた。生まれ変わりなんて信じる性質ではないけれど、不思議には思っていた。息子の口癖が彼と一緒だってこと。成長するにつれて、どんどん彼の面影を帯びていく。そんなはずないのにね。私は息子に元彼の姿を見ていたのかな。

 旦那にはそんなこと言えないよね。この想いは。ずっと胸の中にしまっておかなくちゃ。

 私の人生に癒えない煌めきを残した男の話。いつか、この子にもそんな相手が現れたら、聞かせてあげようかな。もちろんパパには内緒で。


 「〇〇、十年前に死んじゃったらしいよ。地元の小さな遊園地憶えてる?そこの管理人してたんだって」

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