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#14 この夢だけは偏っちゃおうか

空き教室で、本を読んでいた。

すると、前の方の席で話している女の子二人の会話が聞こえてきてしまって。


教室内には、僕とその二人とはるか後方に二人ほどしかいなく、彼女たちは普通の声量で話をしていた。
どうやら、病み期の対処法や他の授業での話、さらには夢の話。
いま読んでいる殺し屋の物語とのギャップに耐えかねた私は、本を読んでいるフリをして、少しだけ身を乗り出して話を聞く姿勢を取った。

二人だけの世界で繰り広げられていく二人の会話は、徐々に熱を帯びていき声も次第に大きくなっていった。


「病んでいるときって誰にも相談できないよね。」
「うんうん、わかるわ~。ひとりでトイレにこもって泣いちゃったりするよね。」
「部活の時、とくにコンクールとかの前だと、当日に近づくにつれてやること多すぎてパンクしそうになるよね。そのうえ、下級生の面倒とかも見なくちゃいけないし、同級生もピリピリしてるから下の子に『そんくらい自分で考えなよ』とか言って、余計に圧かけるし。それで下級生に相談されてこっちだってもうパンクしそうなのに、フォローしなくちゃだしもう、うわあああああってなる。」
「それでトイレ直行パターンだよね」
「そうそう。(笑)もうそういうときは、自分で自分の身を守るムーブ入ることにしてるもん。トイレ行ってひとしきり泣いた後、『ごめん、今日は体調悪いから早めに帰らせてもらうね』って。あとが怖いけど。(笑)」
「そうなんだよねえ、あとがね。あとあとなんか言われてたりするんだよね。」
「まあ、そんなのは勝手に言わせておけ!って感じよ。自分は自分を守ろうとしましたよって格好だけでも事実が大事だもんね。病み期の対処法。」
「たまに”相談”って危険だもんね。片方しか見えてない価値観を押し付けられることもあるし、かえって苦しくなっちゃうこともあるから。」
「相談する相手、大事だよね。」
「感情にまかせて相談しちゃうと痛い目あう。(笑)」
「でももう病み期入ってると、正常な判断効かなくなっちゃってるから、間違えちゃったりするんだよね、相談する相手。」
「そうそう、さらにさ、親友とかに相談したいんだけど、あっちも今就活とかで忙しかったり、苦しかったりするのも分かってたりもするから、相談できなかったりするんだよね。お互いのこと思いやり合ってるからこそ、今は違うな、駄目だよなあ。ってやつ。」
「うんうん、お互いが疲弊している状態でセンシティブな相談しちゃうと、すれ違い起きる確率高まるし、それこそ一方の側面しか見れてないまま価値観押し付けっちゃったりするんだよね。余裕がないから。小さなことで喧嘩して絶交とかしたくないし。これこそ本末転倒よね。まあよくある話ではあるんだけど。」
「うんうん。」
「でも、〇〇ちゃんはあんまりそういうことないよね。どちらかに偏った意見を言うことって。頭いいでしょ。」
「いや、まあこの学校では上位の方だとは思うけども。(笑)△△ちゃんだってそうでしょ?」
「まあね。(笑)時事問題の授業の時、進んで発表してる〇〇ちゃんには敵いませんが。(笑)あのときも〇〇ちゃんは水平な目線で意見を発表してるなあって、すごいなあって思ってるよ。」
「まあ記者目指してるからね。でも全然ダメ。難しいことばっかりでさ。偏った意見が大嫌いで、いつだって中立な立場で判断していたいし、記者はそうあるべきだって自分では思ってるんだけど、その事柄において自分が今どこにいてどのような意見を持てているのか、まだはっきりと分かっていないし、それどころか見失ってしまう。全然ダメだよ。」
「そっかあ、でも〇〇ちゃんが書く記事、とってもいいだろうなあ。読んでみたい。」
「なれたらねいいんだけどね~。」
「なれるよ。きっとなる。偏った意見かもしれないけど、これくらいはいいよね?(笑)」
「じゃあ、あたしもこの夢だけはそっちがわに偏っちゃおうかな。」


予鈴が鳴って、二人は別れる。
どうやら、一方の子は次ここで行われる授業を取っていないようだった。


もう二人でラジオやってくれねえかなあ。


私は偏り過ぎているかもしれない。

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