#3.芸能人になりたい。
―連載マガジン『ポンコツだらけの音楽会~私の夢の叶え方』第3話。
第2話はこちら―
少年少女合唱団の在籍期間は、わずか半年だった。
合唱団の一員としてステージに上がることもなく終わってしまった。
それでも私はステージに上がりたいという思いは持っていた。
ダンスや演技でもいい、とにかくステージに立ちたい。
私を見て、笑顔になってほしい。
そう思っていた。
そんなとき、家に置かれていた雑誌の表紙裏にある広告に目が留まった。
テアトルアカデミーという養成事務所のオーディション情報だった。
私は親に内緒でオーディションに応募した。
(結局は、一次審査合格通知書が届いた時点でバレてしまったけど)
二次審査は、養成所での選考だった。
初めての養成所、芸能界という世界の入り口。
私の胸は高鳴っていた。
小学校6年生の私にとって、そこは夢の世界だった。
選考内容は、数人でステージに上がり流れている曲に合わせて自由に踊るというものだった。
当時の記憶はほとんどないが、一生懸命踊ったのは覚えている。
ステージの前に置かれた長机に座る大人たちは、一切笑うこともなく
ただ私たちを見つめていた。
人を笑顔にするのは難しいと、小さいながらに思ったことだけは唯一覚えている。
しばらくたつと、オーディションの結果が届いた。
合唱団の時点で少し自信があったせいか、手紙が届くと同時に『合格』の文字が頭をよぎった。
開封すると、予想通りだった。
「これで芸能人になれる!」そう心の中で叫んでいた。
まだまだ世間知らずの私の頭の中は、想像で埋め尽くされた。
子役としてドラマに出ている姿や、テレビ番組に出ている姿。
雑誌にモデルとして載っている姿…
目をキラキラと輝かせていたに違いない。
私には何か特別なものがある。みんなとは違う何か。
だから合格したんだ、と。
その日の夜、キラキラと輝いていた希望は
一瞬で真っ暗になった。
「ドラマやテレビに出られるのは、ほんの一部の子だけ。その一部になることは想像以上に難しいのよ。」
お母さんが大反対をした。合唱団の時は応援してくれたのに、今回はノーの一言だった。
「その一部になれるかもしれないじゃん!なんでダメなの?」
「本当に才能があって、ドラマに出られるような機会がある子は、養成所なんて行かない。こんなに高い月謝払えないわよ」
お母さんが反対したのは、芸能界に対してではなく
養成所に入ることだった。
テアトルアカデミーは芸能事務所というより養成所だった。
入所金と月謝を払い、レッスンを受けるものだった。
私の両親は離婚していて、お母さんと私と弟の3人で暮らしていた。
お母さんは安定した収入を得ていたので、生活に困ることはなかったが、
プラスして何かをするまでの経済力は我が家にはなかった。
お金をかけても、ほんの一握りに入れる可能性は低い。
だったらお金をかけなくても芸能人になる方法を探してみせる!
テアトルアカデミーへの入所は断念することになったが、私は諦めなかった。
絶対に、芸能人になってやる。
そう、心に決めて中学生に進学した。
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