#4.ASAYANとギター
―連載マガジン『ポンコツだらけの音楽会~私の夢の叶え方』第4話。
全話はこちら第1話、第2話、第3話―
2000年4月1日。
ミレニアムベビーという言葉が生まれたこの年、私は中学1年生になった。
浜崎あゆみや宇多田ヒカルが『歌姫』と称され、ベストアルバム1位争いをした2000年代は、私にとっても思い出深い時代だった。
当時、『ASAYAN』というオーディション番組が注目されており
鈴木亜美やモーニング娘。はこの番組から誕生し、デビューしていた。
中学入学前、私は『モーニング娘。第3回追加オーディション』を受けていた。
結果は一次予選敗退。
当時はデモテープを送付する選考を行っており、私も家のラジカセで歌を録音して送った。
高度な機械や技術力なんてあるわけもなく、録音した声をそのままテープに録って送っていた。
区の少年少女合唱団に入っていた。というのが、
私の中で唯一のステータスだった。
この時私は、発声練習が苦手でわずか半年で辞めてしまったことを
呪いたく思っていた。
歌が上手に唄えない。
デモテープで聴く自分の歌声に絶望した。
なんだ、この汚い声は…
自分の耳を通じて聞いている声と、
他人が聞いている声がここまで違うとは思ってもみなかった。
あの頃、ただ楽しく唄えればいいと思っていた。
しかし実際に声を録音してみると、
自分の思っていた声と違うことに戸惑い、
楽しく唄えればなんて甘い考えを持っていた自分が嫌になった。
やっぱり発声練習は大事だったんだ…
この頃、やっとそう思うようになった。
もし少年少女合唱団を辞めずに歌の練習をしていたら、
歌がもっとうまくなっていたら、
モーニング娘。第3期メンバーの辻ちゃん、加護ちゃんのポジションに
私がいたかもしれない。
そんな風に思っていた。
毎回オーディションの進捗をテレビで見ながら、
自分があそこにいたらもっとこうしていた。
選考曲を練習している姿を見ては、
こっそりラジカセに声を録音し、自分とテレビに出ている子との違いはどこかを、何度も何度も自分の声と聴き比べて探っていた。
そのたびに悔し涙を流した。
あんなかわいい声じゃない。
きれいに声が伸びていない。
リズム感がまったくない。
私が理想としている声はどこに行った?
私がなりたかった歌声はこんなんじゃない。
悔しい。
こんなはずじゃない。
ある日、そんな落ち込んでいる私を見て
母が勤め先の人からアコースティックギターを譲り受けた。
『Morris(モーリス)』と書かれたそのアコースティックギターは、
古い倉庫にしまわれている古着のような匂いを放っていた。
ハードケースに入れられ、次に弾いてくれる人をじっと待っている。
そんな様子だった。
私がギターに触るようになるのは、
もう少し先の話。
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