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関西カッパ考察#3「福崎町の赤河童・ガジロウ」(フィールドワークレポ)

赤い河童をご存知か

カッパというと一般的には緑色であるが、今回は赤い河童を紹介する。

2024年5月、兵庫県神崎郡福崎町を訪れた。
駅前広場に水の入った円筒状のオブジェ。
人が集まっている(主に子供たち)。
高まる緊張、フツフツとのぼる泡。

かぶりつきで楽しむ子供たち

ゴボゴボォと下から現れた、赤い河童。
広場は悲鳴と歓声につつまれ、だれもが我先にと写真を撮ろうとする。
(筆者も大人げなく、子どもたちに交じって満面の笑み。)
水中に乱れる黒髪、赤い皮膚、
頬まで裂けた大きな口。
金色のぎらぎらした目。
この、おぞましい容姿とはうらはらに――
「ようこそ ふくさきへ」と友好的。

彼の名は「ガジロウ」。
この町をPRすべく、くまモンのごとく日々働いている。自称・非公式キャラクター(町のHPでは公認されている)。
X(旧Twitter)のアカウントも運営。

「日本一健気な勤労河童」

ガジロウは、駅から少し離れた辻川山公園の池にも定刻で出現する(駅と池が管でつながっているのだそうな。多忙)。

きたきた。
お疲れ様です!

濁った池からブクブクと泡が立ち、
ザバァーーー!と赤い怪異が顔を出す。
ここでも幼児や児童が悲鳴と歓声をあげる。
隣にいた乳児はキャッキャッと笑っていた。
大人たちは最初は冷静を装っていたが、泡が出始めるとすっかり童心にかえって「おぉ~」「うふふ」「でた~~」と声を漏らしていた。
喜ぶ子供、冷静を装う大人、
特撮怪獣のごとき赤河童。

この光景は、まじでここでしか見られない。
素晴らしい体験であった。

柳田國男のジモト→妖怪観光スポット

福崎町には民俗学者・柳田國男の生家がある。國男は、医学や儒学に優れた松岡家の六男だった。
國男は、のちに「遠野物語」出版で世を戦慄させ、日本の民俗学という概念を構築し、多々の偉業を成した。
遠野物語をはじめ、各地の民俗文化、口伝の怪異、妖怪、異常現象などについて様々な記録を残した。
これにちなみ、町全体が妖怪観光フォトスポットとなっている。
先に紹介した河童以外にも、天狗、鵺(ぬえ)、ヤマバヤシなどの像のほか、町中に『妖怪ベンチ』と称する妖怪観光の仕掛けが点在するのだ。詳しくは公式紹介ページをご覧いただきたい。

「猫また」の精肉店のコロッケが美味であった。
(筆者のお気に入りはスネコスリ。てっきり猫型妖怪だと思い込んでいたが、福崎町のスネコスリは犬のようなカピバラのような、尾が巻貝状の異形)

柳田國男の地元の河童

柳田國男が書いた著作のうち、自身の回顧録「故郷七十年」の『其の七』で河童が登場する。

辻川あたりでは河童はガタロというが、ずいぶんいたずらをするものであった。子どものころに、市川で泳いでいるとお尻をぬかれるという話がよくあった。それが河童の特徴なわけで、私らの子ども仲間でもその犠牲になったものが多かった。毎夏一人ぐらいは、尻を抜かれて水死した話を耳にしたものである。市川の川っぷちに駒ヶ岩というのがある。今は小さくなって頭だけしか見えていないが、昔はずいぶん大きかった。…鰻のたくさんとれる所で、枝釣りをよくしたものであった。

「故郷七十年」『其の七 駒ヶ岩の河太郎』(柳田國男)

登場するのは「ガタロ」。これは個体名ではなく、主に関西エリアでの河童の総称である。
「(駒ヶ岩は)昔はずいぶん大きかった」とあるように、國男にとってはノスタルジックな風景なのであろう。

民俗学オタクの聖地なのである。

遠野由来・特撮仕立ての赤い河童

観光PRキャラクター・ガジロウは、柳田の回顧録の「ガタロ」とは区別され、2014年2月14日に福崎町辻川山公園の池で発見されたことになっている。
ガジロウは全身が赤黒く、金色の眼、大きく裂けた口が印象的。
柳田の回顧録には河童の外見描写がないが、代表作「遠野物語」では赤い河童の目撃情報が記録されており、これに倣ったのだろうか。
ガジロウの仕掛け人は、小川知男氏(当時福崎町役場職員でありながら造形作家。2021年没)。
デザイン案を披露した当時は批判されたが、造形作家としての直感で押し通し、妖怪ベンチや観光土産などの企画の先頭に立って盛り上げ、大成功したのだという。
小川知男氏は趣味の延長で円谷プロ特撮作品のソフビフィギュアACRO「KRS35シリーズ」(特撮怪獣)などの原型製作を手掛けていた。
恐ろしくもどこか親しみ深い造形は、たしかに特撮怪獣を思わせる。

相撲ではなく、将棋で勝負!

カッパによる町おこし例

キャラクター化したカッパを観光資源として活用する例は全国各地にある。
九州で有名なのは、
福岡県の田主丸町
鹿児島県薩摩川内市
・熊本県天草の栖本町河童街道
・佐賀市の松原川
・宮崎市三股町(長田峡)
……など。
九州外では、
岩手県遠野市
・宮城県の色麻町
・福井県美浜町(佐田地区)
・北海道の温泉地「定山渓」
・埼玉県志木市
……等。ここに挙げきれないほど多くの地で、河童が観光資源に昇華されている。

まとめ

ヒトは、なんと身勝手で、「河童贔屓」な生き物なのだろうか。
いつの時代も河童に頼ってばかりである。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
水災害や祟りをもたらす神(耕作や狩の荒神)として畏怖し、河童信仰
   ↓
乱暴ないたずらもの(水の事故の犯人、川辺に住む余所者)として河童懲罰
   ↓
口減らしや不義、事件の犯人探しをしない口実として河童活用
   ↓
キャラクターとして再認識(デフォルメ)、商業利用、河童観光
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しかしながら、今回の福崎町で聞いた歓声・悲鳴──。
2024年(令和6年)であっても、人々の河童への好奇心が冷めていないことが分かった。
(正直、現代で河童にこれほど執着している人間は筆者だけだと思っていた)
河童というのは、それだけ普遍的な「ヒトの業を映す怪異」なのである。
ヒトの生活(生業)が変われば、カッパの在り方も変わる。
数十年後、河童はどのようなかたちで我々のそばに居るのだろうか。
とりあえずサイバーパンクな河童を想像して満面の笑みの筆者である。

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