《灯台訪問を楽しむための六ヶ条》後編
こんにちは。これまで200基以上の灯台訪問経験のある記者が、実践できる灯台訪問の「楽しみ方」をご紹介する《灯台訪問を楽しむための六ヶ条》。
この記事では後半部分の第四条から第六条を「実践編」としてお伝えします。前半の第一条~第三条の「知識編」をまだお読みになっていない方は先にそちらをどうぞ。
《灯台訪問を楽しむための六ヶ条》前編
《灯台訪問を楽しむための六ヶ条》
◆第一条:灯台の「名前」を覚えよう
◆第二条:灯台の「歴史」を知ろう
◆第三条:灯台の「高さ」を意識しよう
◆第四条:灯台は「三景」で感じよう
◆第五条:灯台訪問は「エンタメ」のつもりで
◆第六条:灯台を「見上げて」笑顔になろう
いずれも「のぼれる灯台16」で(勿論それ以外の灯台でも)実践できる内容です。ちょっとした心構えの違いで灯台訪問が楽しい旅の思い出の一つに変わりますので、灯台を訪れる機会に思い出して頂ければ嬉しいです。
では早速本編後半をどうぞ。
◆第四条:灯台は「三景」で感じよう
夜の灯台はロマンチックなデートにピッタリですが、多くの人は旅行の「ついで寄り」として日中の灯台訪問が多いのではないでしょうか。そんな方には是非とも「灯台との距離感」を満喫して旅の思い出にして欲しいです。
旅の思い出というと昨今では写真か動画です。
つまり「灯台のある風景」が欲しいところ。
灯台のある風景には「三景(遠景・中景・近景)」があります。
それぞれの距離感で、それぞれの楽しみ方がありますので今回はその一部をご紹介します。
※今回は「三景イメージモデル」として、1枚目:水ノ子島灯台(大分県)、2枚目:日立灯台(茨城県)、3枚目:蓋井島灯台(山口県)と異なるシチュエーションの灯台モデルを使用しています
◇遠景では「灯台と風景との一体感」を感じる◇
灯台の遠景は、まさに絵本の世界に出てくるような灯台描写に近いイメージです。遠景では周辺の岬や森林、海岸段丘や断崖絶壁など「灯台と自然や景観との一体感」を感じ取れるのが醍醐味です。
灯台訪問では、まずは灯台の遠景が見えてきた所で一度足(車)を止めて、旅の記念の1枚を撮られてはいかがでしょう。
灯台に向かう道中も、何処から撮影するのが面白いかなとイメージを膨らませながら進んで頂くとワクワク感がより一層醸成されると思います。
◇中景では「灯台の造形美」を感じる◇
灯台の中景は、灯台の全体像が画面一杯に収まる程度の距離感で、一番「灯台にきたぞー」という画が撮りやすい位置関係です。
中景では、特に「灯台外観の造形」に注目してみてください。造形の違いは、少し意識して見て頂くだけでも印象が違って見えてくると思います。
たとえばこんな部分(↓)ですね。
・塔部分はどんな形か(円柱形、八角形 など)
・塔部分の窓はあるか、あるならどんな形か
・灯室《※レンズ収納部分》の向き(方角)
・灯室の玻璃(はり)板《※窓ガラス》デザイン
・灯室の欄干(らんかん)デザイン
・塔頂部の冠蓋(かんがい)《※屋根部分》や風見鶏のデザイン
◇近景では「灯台の素材・音・香り」を感じる◇
灯台の近景は、足下から灯台を見上げる位置です。
近景では灯台のスケールの大きさを間近で感じて頂くとともに、灯台を「五感」で感じて頂きたいです。
灯台には石造り、鉄造り、レンガ造り、コンクリート造りなど「素材の違い」があります。素材の違いで灯台の「見栄え」は勿論のこと「手触り」や「温度感」も異なります(石造りはゴツゴツとした感じ、コンクリート造はペタペタとした感じ)。
遠景・中景では視覚情報を中心に刺激してきましたが、近景では更に触覚(手触り、温度感)や聴覚(潮騒の音、海風の音)、嗅覚(磯の香り、森林の匂い)と、五感を総動員して灯台を感じてみてはいかがでしょうか。
◆第五条:灯台訪問は「エンタメ」のつもりで
もしも「灯台を訪問する」という行為を「お城を見に行く」「寺社に参拝に行く」というのと同じ感覚で訪問すると、"えっ、こんなものなの!?"と自身の期待とのギャップに戸惑われるかもしれません。
ただ、これらは似て非なるものと私は考えています。キーワードは単なる『観光』と捉えるか『エンタメ』と捉えるか、です。
例えば、お城や寺社への訪問は「歴史ある文化に触れたい」「御利益を分けてもらいたい」という意味合いで訪問する人が多いのではないでしょうか。お城や寺社はその建設目的から、荘厳な造りや絢爛豪華な装飾が施されていますので、受動的な『観光』だけでも十分満足できます。
一方、(特に日本の)灯台には華美な装飾などありません。だって灯台って単なる標識!灯台訪問は、道端の信号機をわざわざ訪ねているのと意味合い的には一緒です。※勿論、灯台にも歴史的・文化的価値はあります
そんな灯台訪問で、やりがちな最大の失敗は「灯台を道なりに同じアングルからしか眺めていない」ということです。
道なりに灯台に着いたらその足で入口に向かい、灯台を登って景色を見て、その壮大さにワーっと少し盛り上がるものの、降りたら殆ど振り返りもせずにそのまま帰路につく。
■大王埼灯台(三重県)※灯台入口付近
これはミュージシャンの音楽ライブ会場に足を運んだのに、ずっと同じアングルでの観覧、同じ曲調の音楽しか聴かせられていないようなものです。簡単に言うと「物足りない」という状態。
普通は音楽ライブに行くと、ミュージシャンの皆さんがステージ上を動き回り色んなアングルから表情を眺めたり、様々な曲調のセットリストで演奏され演出してくれますよね。それを隣の友人たちとの共通体験として記憶に刻み「ライブ感」を共有することが一番の思い出となります。
帰り道に「あの曲のあそこが最高だったねー」と語る余地が生まれます。
灯台の楽しみ方もそれと似ていて、様々なアングルから灯台を眺めることで全く別の表情を味わうことが大事です。ただ、音楽ライブと異なるのは、灯台それ自体が「決して動かない」ということ。そのため、自分たちから能動的に動かなければいけません。
■大王埼灯台(三重県)※色々なアングル
※見出し画像も大王埼灯台です
恐らく「ついで寄り」の皆さんが灯台訪問に掛けられる時間は、せいぜい1時間程度ではないでしょうか。限られた時間内で訪問するので、ほぼ流れ作業的になってしまうことは致し方ありません。
ただ「灯台訪問する」というのをもう少し踏み込んでとらえて頂き、「灯台周辺を散策する」「色んなアングルで灯台を眺めてみる」という能動的な『エンタメ』として灯台訪問プランをスケジュールに組み込んでみてはいかがでしょう。
◆第六条:灯台を「見上げて」笑顔になろう
人間の眼は2つ横に並んで付いています。
横並びに眼がついているということは、ヒトはヨコの動きにはある程度は対応出来ますが、タテの動きには不得手なんです。その証拠にヒトの視界は両眼では、左右で約180度〜200度まで見えますが、上下では約120〜130度に留まると言われています。
つまり、ヒトは首を左右に振るよりも上下に振る動きの方が、より意識的に行わなければいけません。
前置きが長くなりましたが、ここからが灯台訪問の楽しみ方です。
既にお察しの方もいるかと思いますが、灯台訪問して是非ともやって頂きたいのが「見上げる」というアクションです。
「見上げる」と何が良いのか。※ここからは全く科学的根拠はありません
先ほどお伝えしたように、ヒトは身体構造上「見上げる」という行為は意識的にしないとなかなか日常的にはやりません。
つまり「見上げる」ということ自体が、既に「非日常体験」なのです。
灯台が「見上げたくなる」構造をしているのはやっぱり灯台が『塔形』だから、というのが大きいと思います。灯台にはそのような構造上の仕掛けがあるのです。
さらに「見上げる」という行為には、リラックス効果もあり「笑顔になりやすい」とも言われています。
笑顔の表情は口角を上げてつくります。つまり見上げた方が自然と口角が上がって、"笑顔になる準備ができる"ということなんですね。
また、雲一つない青空や満天の星空、スポーツで優勝した時、音楽で最高潮に盛り上がった時…ヒトは高揚感や開放感を感じた時には必ず「見上げる」というアクションをとります。
逆に言えば「見上げる」ことで、そのような効果を得ることができるということではないかと考えています。
ここまでご説明すれば、灯台に行って見上げない理由がありません。
灯台を訪問したら自然と「見上げる」とは思いますが、お忘れでしたら是非とも「見上げる」ことで皆で笑顔になりましょう。
灯台が世界を救うかもしれません。
◆終わりに
今回お伝えしたように、灯台訪問というのは、いわば「音楽アーティストの生ライブ」や「スポーツの生観戦」を体験することと同じだと私は考えています。初めは距離感が遠く限定された情報を頼りにした体験を、最終的には五感をフル稼働させて身体に刻み込むことになります。
質の良い悪いや興味の有る無しを抜きにして、訪問することによって自分自身で「語れる体験」が格段に増えます。それはコミュニケーションを生むきっかけになることでしょう。それが何よりの「旅の思い出」となるハズです。
殆どの人は人生で灯台訪問をする回数は両の手で数えられるほどでしょう。それでも、限りある灯台訪問経験で少しでも灯台との「距離感」を近づくきっかけにして頂ければ幸甚です。
ここから先は
《灯台訪問を楽しむための六ヶ条》
これまで200基以上の灯台訪問経験のある記者が、実践できる灯台訪問の「楽しみ方」をご紹介します
年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台を訪れる魅力などをお伝えするプロジェクト。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、地元の原風景を護りたいと願う方々の想いを大事にしていきたいです。