ICTは「知の自転車」!戸田市のGIGAスクール構想(後編)
指導主事の布瀬川です。
前回、こちらの投稿で戸田市のGIGAスクール構想やICT活用のマインドセットについて紹介させてもらいました。
今回は具体的な取組などを紹介します。
「指導と管理」から「学びと愛用」のICTへ
2016年当初から、ICTを「たまに使う特別な道具」ではなく、「子供たちが日常的に、当たり前に使う文具」としての活用が必要であると考え、教師による「指導と管理」から子供たちの「学びと愛用」のICTを合言葉に活用を進めてきました。
どのように活用が拡がっていったか
まずは、校務や校内研修で先生方がICTの有用性や可能性に触れるところが出発点ではありましたが、同時にICTを使うよさや必要性を実感できる学びも一体的に推進してきました。
また、活用促進に向けては、2016年当初、ICTのスキルを中心とした「使い方研修」を各学校の担当者向けに実施していましたが、それだけでは思うように活用が進まなかったことから、前述の産官学の知のリソースも活用し、時代に即した研修にも取り組んでいます。
産官学との連携は同時に、閉じられがちな学校文化に社会の風を取り入れることにもつながり、マインドセットの変容にも大きな影響を与えてくれています。
マインドセットの文脈では、先生が「ICTの普段使いは子供たちの方が上手い」ことを認められるかどうかもポイントの一つです。教師が知識の伝達や技能の習得に終始し「すべてを教え切ろうとすれば」教師自身の扱える範囲内でのICT活用に止まります。それは教具的活用の域を脱するものではありませんし、何より先生自身が苦しくなってしまいます。
結果論ではありますが、各学校の様子を見ていると、(発達段階が上がるほど)子供たちに活用の仕方を委ね、良い活用を取り上げたり、詳しい子を生かしたりしている先生の教室ほど活用が進んでいます。その点においては、子供たちの機微を知り、授業力のあるベテランの先生ほどICTを教室の中に上手に取り入れられていると言えます。
最大の敵はネットワーク?
ICTの活用を進める上では、行政事務やネットワークの運用に詳しい市役所のプロパー職員(戸田市では教育総務課)とチームを組んで事務を進めています。
その中で腐心していることは、「いかに現場の先生方の障壁を減らすか」、そして一定のセキュリティを確保しつつ、「学校の『やりたい!』を実現するか」です。
例えば、ICT支援員は「保守・点検業務」と「授業支援業務」の異なる業務委託をしたり、コールセンターを設置したり、著作権に関する授業目的公衆送信補償金の支払いを行ったりするなど、先生方がICTを安心して活用ができる環境整備などに努めています。
中でも最大の課題は快適なネットワーク環境の構築です。クラウド利用がデフォルトである今、滞りなくオンラインに接続できるかどうかは生命線と言えます。
これまで何度もアセスメントを行い、結果3度の回線増強を行ってきました。この投稿をしている今現在も、CBT利用や学習者用デジタル教科書の活用に向けた負荷対応と悪戦苦闘中です。そこに心強いパートナーと事に当たることができるのが戸田市の強みです。
活用推進に当たっての留意点と学校支援
こうしたネットワーク対応を含めて、様々な取組が順風満帆で進んできたわけではありません。当初は「ICTを使うことで準備等に時間がかかり負担感が増す」「子供が機器を使うことで授業が中断してしまう」といったような否定的な意見もいただきました。
そうした中、課題解決に向けて留意してきたことは、先生方の「腹落ち」に時間をかけることでした。
冒頭のとおり、まずは校務・学習を問わずJust Do it!で使ってもらうこと、そしてICTを使うよさを十分に感じてもらった上で、新たな学びの内容や教材を先生方と共に考え、実践する・・・そうして各学校の推進リーダーの先生などの御尽力もあり少しずつ少しずつ「腹落ち」が進んでいったものと考えています。
教育委員会としては、人的支援を含む図のような学校支援を行ってきましたが、いずれにしても一朝一夕で今日に至ったわけではなく、各学校の協力と創意工夫のもとに今日があるのは間違いありません。
また、ICT活用の方向性や学びづくりの重点を「戸田市 指導の重点・主な施策」に毎年掲載して学校に示しています。
ICT該当部分や下記で紹介する動画等と合わせてポータルサイトにまとめていますので、こちらもよろしければ御覧ください。
「戸田市版SAMRモデル」の共有
戸田市では、SAMRモデル(Ruben.R.Puentedura 2010。ICTを授業等で活用する場合に、テクノロジーが授業にどのような影響を与えるのかを示す尺度)をアレンジし、ICT活用の視点から学びのバージョンアップが行われているかを測る指標として、4段階の「戸田市版SAMRモデル」を作成し、市内の学校と共有しています。
各段階のイメージについて、子供たちにワークシートを使って表現させる場面を例に考えてみます。
【S(代替)】
▶紙のワークシートをデジタル化して配布し、子供たちに記入させ、提出させる。
→先生にとっては負担減につながってはいるものの、子供の学び自体にはアナログとの差異がほとんどない段階。
【A(増強)】
▶さらにワークシートをクラウド上で共有。考えを比較させたり、相互にコメントを入力しあったりさせる。
→クラウド利用による即時性や共有性など(この場合であれば対話的な学びが効果・効率の面から促進されるなど)デジタルの特性(前編参照)が生かされている段階。ただし子供たちの主体的な活用には至っておらず「教師が○○」させている。
【M(変革)】
▶子供が表現方法を選択(スライドやドキュメントに止まらず紙の利用、カメラ機能等を駆使)し、記述だけに止まらず、Web検索や相互のコメント等、複数の機能を組み合わせて表現活動に取り組む。
→A段階までのICTスキルの習熟によって子供の能動的な活用が拡がり、同時に教師の授業の在り方自体に変革が見られ、子供主体の学びにICTが位置づく段階。子供に学びのハンドルが委ねられつつある。
【R(再定義)】
▶検索、コピペなどの他、チャット等のコミュニケーションを含めた多様な情報活用・編集能力が発揮され、子供が闊達にICTを利用して学習活動に取り組む。
→M段階以上の学びを想定した段階設定。今後のさらなるテクノロジーの発展等によりスタディログの利活用による子供によるメタ学習などが考えられる。
M段階を目指して
市内では今年度、「A段階を当たり前に、M段階の実践創出を」をテーマに取組を進めています。
M段階に至るには、教師主導から子供主体へ学びのバージョンアップが必要です。
そのために戸田市では、PBL(Project Based Learning)や1人1台端末の持ち帰りによる学校と家庭とのシームレスな学びの実践に取り組んでいます。
例えばPBLは、そもそも子供主体の探究的な学びの手法であって、その各過程において下図のようにICTを活用する必然性が生じます。
また、家庭に端末を持ち帰れば、反転学習など空間・時間も軸とした新たな学びづくりも可能であり、学びのバージョンアップにICTは心強い味方です。
こうした学びの様子については、動画でも紹介しておりますので、是非御覧ください。
ICTは「魔法の杖」ではない
ここまでICT活用推進についてお伝えしているところでありますが、ICTは活用する=学びが深まる・負担が減る・子供が生き生きする、という「魔法の杖」ではありません。
教師の視点においては、子供理解や教材研究の深さ、発問・指示、ファシリテーション、人間関係調整の力、さらには今後のテクノロジー発展の見通しetc…いわゆるこれまでも「匠の技」と言われてきた指導力を「知の自転車」として拡張するものであって、主体的・対話的で深い学びの視点に立った授業改善は欠かせません。
「ただ使う・使わせる」ことを含めてS(代替)段階の活用では、逆効果になることもあるでしょう。
こうした点も踏まえ、戸田市では「アクティブ・ラーニング指導用ルーブリック」による授業力向上の取組や最新テクノロジーを活用した教師の匠の技の可視化(匠の技の伝承)にも取り組んでいるところです。
さらに、子供たちにはデジタル社会の担い手に求められるデジタル・シティズンシップの育成も必要です。
今年度は、ICT抑制の文脈で語られがちな情報モラルから、ICT活用を前提とした学びへの質的転換を目指して、研修会や市内の先生方との教材作成などに取り組んでいます。市内のある学校では、保護者を巻き込んだ取組を始めているところもあります。これらについては、また別の機会に紹介できればと思っています。
今後に向けて
テクノロジーは日進月歩で進化を続けています。国の方でもCBT(MEXCBT)や学習者用デジタル教科書をはじめとしたEdTechの実証等が進んでおり、今後は様々な最新アプリのトライアルにも積極的に取組ながら実証知を蓄積していかなければ、来るときに備えができません。
さらに、校務のデジタル化のさらなる推進を含めた先生方や保護者の負担減、教師のICTリテラシー(活用スキル、個人情報、セキュリティ、知財などの理解等)向上に向けた研修の実施、それらの土台となるクラウド利用とゼロトラストセキュリティの実現、GIGA端末の更改、次世代のメディアルーム構築、SINETへの接続も視野に入れた一層快適なネットワークの整備、個人情報の取り扱いetc・・・目まぐるしく変化する中でやるべきことは山ほどありますが、ファーストペンギンを目指して課題解決に取り組んでいきたいと考えています。
GIGAスクール構想においては、ICTの活用自体が注目されているものの、本質はICT活用ではなくM段階にあたる時代に即した学びの実現です。そうした上位目標を見失わず学びの改革を進めていけば、自ずと「知の自転車」たるICTの活用につながるものと信じて、これからも取組を続けていきます。
今後も戸田市の取組に御注目ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?