
【バビロニアン・キャッスル・サーガ】って何?
先立って発表されました、「ドルアーガの塔」40周年記念公式記録全集。
『ドルアーガの塔』40周年記念イヤーにおけるこのビッグニュースに、驚かれた方も多いでしょう。
この全集の反響をいろいろ見ておりますと、やはり40年前のゲームだけあって、シリーズを知ったタイミングもかなりまちまちであることがわかります。
シリーズ最終作『ザ ブルークリスタルロッド』が発売されたのが30年前、遠藤雅伸さんが2ちゃんねる(当時、現5ちゃんねる)に降臨し内なる設定が公開されたのが23年前、僭越ながら管理人(私)がトークイベント“四神降臨祭”を開催したのが10年前。
ヘタすると、これらの後に生まれた方が『ドルアーガの塔』や『カイの冒険』なんかを遊んでいる可能性もあるわけです。怖っ……!
そうなりますと、そもそもこれらシリーズってどんな設定なの? という方も多いのかもしれません。
そこで、この「バビロニアン・キャッスル・サーガ」というシリーズにつきまして、あらためて解説してみようと思います。
■かんたんなすとーりーかいせつ
シリーズのストーリーを大まかに解説すると、こうなります。
カイがドルアーガに奪われたブルークリスタルロッドを奪還しに塔を登る(が、囚われる)
ギルがブルークリスタルロッドとカイを奪還しに塔を登る
ギルとカイが塔を降りる
塔を脱出したギルとカイが試練を超えてブルークリスタルロッドを神に返還する
……と、これだけならシンプルな話のように思えます。
しかし、これらはあくまでゲーム内での話。
この前には、「神と悪魔の争い」「悪魔ドルアーガの封印」「ブルークリスタルロッドによる地上界の繁栄」「ロッドを狙った外敵の侵略」「戦争での敗北と隷属」「天に届く塔の建造と神の怒り」「ドルアーガ復活と神の遣わす試練」という、長い長い序章があるのです(詳細は前回の記事を参照ください)。しかもこれ、ゲームの前段階で語られるだけで、実際にゲーム内では展開されません。
当時からのファンには、こうした深遠な世界設定に魅せられた人々も多いのです。
驚くべきことに、創造主の遠藤雅伸さんは初期段階で三部作を構想しており、それを10年かけてゲームに落とし込んだのです。
偶然に生まれた“エピソード0”も含めた4作品は、いわゆる「ドルアーガシリーズ」としてファンに親しまれてきました。

ポスター下部に書かれた「TO BE CONTINUED」の文字が続編を示唆している
……と当時から言われていたのは覚えております。
■正史と外伝
シリーズの終了から7年経過した2001年3月20日、2ちゃんねるに遠藤さんが【バビロニアン・キャッスル・サーガ】というスレッドを立てました。

満を持してご本人によるスレ立てだったような記憶。
今でこそ著名なゲーム開発者とSNSでやり取りすることは、珍しくありません。
しかし2001年当時、そうした事例はほとんどなく、当時の遠藤さんの“降臨”は大事件でした。今だったら――桜井政博さんや小島監督とLINEを交換するぐらいのインパクトでしょうか?
それはそうと、スレッドのタイトルにもなった「バビロニアン・キャッスル・サーガ(以下BCS)」は、誰にも耳馴染みのない言葉でした。それもそのはず、遠藤さんがこの時初めて世に明かしたシリーズ名だったのです。
遠藤さんの定義では、BCSに含まれるのは以下の4タイトルです。
ドルアーガの塔(1984年)
イシターの復活(1986年)
カイの冒険(1988年)
ザ ブルークリスタルロッド(1994年)
ちなみにですが、『ザ・ブルークリスタルロッド』ではありません。
『ザ ブルークリスタルロッド』が正しい表記です(パッケージ等を参照のこと)。
この4作品は、遠藤さんいわく「正史」とされています。いわゆる「本筋のストーリー」とも言えましょう。
一方、これ以外にも“ドルアーガ”の名を冠する作品は数多あります。
遠藤さんは、これらを「外伝」と呼んでおります。
ゲームブック(鈴木直人、東京創元社、1986年)
悪魔に魅せられし者
魔宮の勇者たち
魔界の滅亡
攻めCOM(コム)ダンジョン ドルルルアーガ(ナムコ、2000年)
ザ・ナイトメア・オブ・ドルアーガ ~不思議のダンジョン(アリカ、2004年)
ドルアーガオンライン THE STORY OF OAN(ナムコ、2006年)
ドルアーガの迷宮 THE LABYRINTH OF DRUAGA(ナムコ、2011年)
じつは遠藤さんがBCSスレッドを立てた時期は、『ドルルルアーガ』が2000年12月に発売されて3ヶ月ほど経った頃でした。
スレッド内では「『ドルルルアーガ』はBCSに含まれないのか?」という疑問も寄せられました。
それに対する遠藤さんの回答がこちら。
世界観を継承しているのなら、ゲームブックなどと同じく、立派な外伝なのではないでしょうか? もし今後、イシターとドルアーガの聖戦を描く物が登場したとしても、やはり外伝の位置付けになると思います。
正史にはQOKがギリギリ入ってるという感じですかね。
つまり、創造主たる遠藤さんとしては、あくまで正史の4作品こそがBCSとの定義づけをされているのです。しかも『カイの冒険』は「ギリギリ」とのこと(開発の経緯としてシリーズ作品が出発点でないことは、先ごろのハムスター社の生配信番組「第506回アーケードアーカイバー VS. カイの冒険スペシャル!」でも内藤智さんより語られております)。
創造主たる遠藤さんが明言されているのですから、BCSとは『ドルアーガの塔』『イシターの復活』『カイの冒険』『ザ ブルークリスタルロッド』の4タイトルで語られるストーリー、ということは確固たる定義となります。
■これは正史か外伝か
さて、じつは上記の「外伝」リストですが、意図的に省いていたタイトルがあります。それはこちら。
ドルアーガの塔 the Aegis of URUK(テレビアニメ、2008年)
ドルアーガの塔 the Sword of URUK(テレビアニメ、2009年)
ドルアーガの塔 ~the Recovery of BABYLIM~(ゴンゾロッソ→ウィローエンターテインメント、2008年)
後に『~the Phantom of GILGAMESH~』に改題
これらは新生「ANIMATION×ONLINE RPG」として、遠藤さんの肝いりで進められたプロジェクトです。
テレビアニメについては、かなり入念なおふざけが仕込まれており、さらにネット配信での「裏1話」「横1話」など、遠藤さんご自身もかなり体を張っておられました(ピザーラのキッチンでピザを焼いたりもしてましたね……)。
ただ、本筋は大真面目で、遠藤さんも自身のブログ「ゲームの神様」で、全話スクリーンショットを交えつつ遠藤さんの解釈を詳細に解説されています。興味のある方は、同ブログでテーマ「ドルアーガ研究」をご参照あれ。
そして、もうひとつのMMORPG。
こちらは遠藤さんの定義からすると、疑いようもなく「外伝」となります。
しかし、じつは2010年に遠藤さんからこのような声明が出されました。
原作となるアーケードゲームが発表されて四半世紀、アニメ化と共に始まった『ドルアーガの塔』も2年が経とうとしています。本作の舞台となる時代は、邪神ドルアーガを倒したギルとカイが、天界に昇る旅に出掛けている間になり、ストーリーは2人の足跡を追う形で進んでいます。
昨年アニメに触発され、「バビロニアンキャッスルサーガ」として知られる物語を、「the Origin of URUK(ウルクのあけぼの)」としてリライトしました。その新シナリオに準拠して、今後のエピッククエストが語られます。自分でもプレイしているゲームなので、一緒に楽しみましょう。
なんと、そもそものバビロニアン・キャッスル・サーガがリライトされたというのです。
こうなると、もう正史も外伝もあったものではないような気がしてきます。
ただ、このMMORPGも2016年にサービスは終了。
それにあたり、最終盤は一応ドルアーガとの対決までは解放されました。しかし、上記引用にもあるようにストーリー上はギルとカイを追いかけているものの、結局二人は姿を現すことがないまま終わってしまいました。
今のところ名前のみの存在となってしまった、“真の正史”とも呼べる「the Origin of URUK(ウルクのあけぼの)」。
これが日の目を見たとき、本当の意味でシリーズは完結するのではないかと思います。
ちなみに、遠藤さんはこんな興味深いことも2ちゃんねるでおっしゃってました。
ふと感じたんですが、「正当な続編」ってなんでしょう?
たとえば、「ドルルルアーガ」がナムコ以外の販売元から、遠藤作品としてリリースされたら、どうなんでしょう。BCSの世界観を継承することなくても、続編足りうるんでしょうか?
たとえばナムコが、BCSのキャラクターを使った対戦格闘を作ったとしたら、続編足りうるんでしょうか?
不毛な議論になりそうなので、もうやめますね。
2001年の問いかけは、2010年に思わぬ形で現実のものとなりました。
そして2024年の今現在も、ファンに問い続けています。