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コオロギ食と成分表示

コオロギ食への反発


 新たなタンパク源としてコオロギを摂食する試みが推進されていますが、これに伴う反発が起こっています。そしてその反発に対して窘める側に回る人も出てくる…といった様相で、新たにちょっとした分断の種となりそうな気配になっており、SNS等では双方から議論が持ち上がっています。
 そんな中で、コンビニスイーツや無印良品からコオロギを使った焼き菓子が販売されているとの投稿を巡って意見が対立しています。コオロギ食へ反発する側の方が成分表示にドライクリケットと書かれているのは直接的にコオロギと分かりにくい表記をしているではないか(分からないようにしてコオロギが入っているという印象を曖昧にし抵抗なく食べさせることを意図した表記ではないか)と警戒感を表明しました。
 これに対し、商品名にコオロギ(コオロギチョコクランチと言った名称で)が入っているのだから誤魔化す意図などある訳がない、とロジックが持ち上がりました。コオロギというだけで忌避するのは理性的ではないと繋げて、反発する側の批判を展開する流れとなったのです。
 これはロジック的には正しいのかもしれませんが、いろいろな問題が見落とされた机の上で組み立てた理論かもしれません。少なくとも反発する側の人には納得いかないでしょう。材料として素直にコオロギと書かない理由・意図が不明だからです。
 実は、ここには食品の成分表示に関する仕組みがあります。それをご説明すれば自ずと製造メーカーの意図にたどり着くのではないかと思います。
 議論はそこまで言及したものではなかったので、互いの迷走から新たな対立に発展したり、加担する人が現れて激化させることを防ぐことができるかと思います。
 

成分表示の意味


 まず、商品の名前にコオロギとついていたらコオロギが入っているかといえば、これは保証されていません。コオロギが入っていることを確認するためには、成分表示を見る必要があります。今回の場合はそれだけでは分からない表示になっていましたが、成分表示を見る意味は材料を確認できることですし、材料を確認するためには成分表示を見なければならない、必要な行為なのです。
 窘める側の人はコオロギ食にケチをつけるために成分表示のあら捜しをしているのではないか?と反感を持たれたのだと思いますが、必ずしもそうとは言えません。
 例えば抹茶味の菓子に抹茶は必ずしも入っていません。緑茶(抹茶とは栽培品種から異なります)粉末にクロレラパウダーを添加したものが大変多くあります。安価な緑茶なのに抹茶味と言って売り、色味が悪くなるのでクロレラで着色している訳です。クロレラは分類上、着色料ではなく健康食品になるので添加した着色料とはなりません。これを知らなかった人は騙されたと思うでしょう。抹茶は入っていないのです。もっと言えば加工品に使われるような等級の劣る緑茶は農薬を多く使用しています。
 有名なきのこの山というお菓子には食べものであるキノコは入っていません。しかし、それは成分表示を見なければ確認はできません(名前だけから判断すると入っている可能性はあります)。メーカーは成分をこちらで公開してくださっています。

 たけのこの里も同様にタケノコは入っていません。が、入っていてもおかしくはありません。
 つまり、成分を確認しようとするのは自然な流れで、その時当該原材料が明記されていなければえっ、入ってないの?となるという事です。明記されていないと直接確認はできません。消費者にとって問題となる成分はちゃんと書くほうがどう考えてもサービスとしてすぐれている訳です。
 そもそも成分表示を見られて困る、分かりにくい、と言われるのがいやであればちゃんと直接的な表記を行えばよいのです。分かりにくくする意図がないことを証明する方法は他にありません。

 以上は主に食品表示上の一般的な話であって、コオロギ食にこだわった特別な話ではありません

誰でもわかる自然な表記か?


 ドライクリケットはドライフルーツなどと同じく乾燥コオロギの事に決まっているではないか、という言葉が批判に用いられました。少々脱線しますが、自然かどうか語学的に考えてみたいと思います。
 まず、コオロギ食の推進が始まるまで、コオロギを英語でクリケットということは認知していなかった人が多いと思います。ネットで話題に触れていた人はともかく、一般認知が浸透している言葉とは言えないと思います。
 その上で、コオロギを英語の文脈で使うとどうなるか(自然な言語として扱うとどうなるか)ですが、クリケットにはスポーツのクリケット(英文学など読むとよく出てくるポピュラーな球技)、スラングとしての沈黙(日本の漫画でいうところのシ~ンという描き文字表現でコオロギの鳴き声だけが響くの意)、家具などの意味がありますので、コオロギを指す場合は通常クリケッツ(複数形)で呼びます。
 批判が自己破綻しているのは、例に挙げたドライフルーツは複数形なのにドライクリケットは単数になっている所です。フルーツの場合は種類があるということもあって複数形なのだと思いますが、自然な言語感覚という主張をしながら複数形の差異を見落としているのはロジック的なエラーに感じます。
 以上から判断するとドライクリケットは会話的な自然言語ではなく、手続き的な造語と思われます。
 コオロギパウダーという材料もあるそうですが、こちらは完全に和製英語(コオロギが日本語なので)であり、同様に造語と思われます。一部の人間が粉末にしない限り存在しないもので、伝統的に生活に存在するものではないからです。

ドライクリケット、コオロギパウダーとは?


 それではコオロギの代わりに書かれたドライクリケット、コオロギパウダーとは何なのでしょうか?
この材料の素性を考えると、恐らく乾燥コオロギをドライクリケットという名称で材料として販売するメーカーがあるのだと思います。
 つまり加工食品の商品名ではないかと思います。
 今後はコオロギパウダーに統一されるだろうとの感想もありましたが、これらが何か推測しますと

  • コオロギパウダーは乾燥粉末

  • ドライクリケットは水分を取り除いた保存食品で必ずしも粉末でない(未粉砕)

 どちらも独立した一次加工品の名称で、どちらかに一本化するとか認知を競っている訳ではないのではないでしょうか。
 裏付けをとるために検索してみたいところ、参考になる商品がありました。

 栄養分やアレルギーの注意、一部の餌や衛生措置などきちんと書かれています。商品として最低限の詳細が書かれており、記載上は問題のない食品に見えます。名称はコオロギではありませんが、添加物などは明記されておりません。食品添加物(飼育上の薬剤などは通常書きません)ないと考えて良いと思います。
 もう一つのコオロギパウダーの商品例はこちらです。

 こちらも添加はなさそうですが、UV殺菌という処理を問題視する方はいるかもしれません。出力が分かりませんが、照射量が少ない・弱いと殺菌は不完全になり、多い場合は、活動していない元生物ですので変異などはないと考えられますが、変質している可能性はあります。毒性の有無は分かりませんし、十分なデータもないものでしょう。現在の食環境ではある程度こういった処置はされているものと思います。ただし、気になる人はいるはずです。

 なお、商品説明のページもあります。ドライクリケットはコオロギパウダーを使用しているとかクリケットパウダーを使用しているとか書かれています。経緯は分かりませんが開発段階では粉末にせず歯ごたえを残す意図があったのかもしれません。現状脚などの固い部分を分離できなかったので全粉砕した可能性はあります。


休憩とまとめ


 ここまでの所で、たしなめる側の提起した

  • いいがかりをつけるために成分表記を精査した。余計な行為である

  • 自然言語的に分かる名称である

  • 成分表記の方向を探ってメーカーが呼び名を付けたもの

 ではない、もしくはそうとは言えないことは分かりました。
 残ったのはこの表記が消費者を騙そうとしているかどうか?です。

なぜこのような原材料表記を行うか

 通常、加工食品を原材料に使用する場合、加工食品名を使用することは認められています。メリットがあるからですが、それは添加物や割合的に少ない混合食品の記載をまとめて、成分表記に使う文字数を減らし、記載内容を短くすることができるからです。
 ドライクリケットやコオロギパウダーといった商品には添加物の記載がありませんので、原材料にコオロギと書くことが可能です。
 しかし、この件に関しては、

 コオロギ(4文字) →ドライクリケット(8文字
           →コオロギパウダー(8文字

 と文字数が反って増えており、わざわざ無駄なこと(不自然なこと)をしている事になります。
 以前の記事に書きましたが、不自然な表現には、必ず表現者の意図があります。わざわざ利益のない事をした動機があるのです。
 少なくともコオロギ食の菓子を作ったメーカーの一方は、加工済みの原材料を使ったので、仮に何か問題が出たとしても、それは自分たちの瑕疵ではなく製造元の製品の問題だと主張できるよう、製品名を記載した可能性があります。ほかにこういった事をする理由がないからです。
 その場合、製造者はコオロギ食のリスクを警戒して責任回避手段をとったという事になります。そうであれば消費者を騙そうとしたわけではない、ということになります。
 完成した食品の安全性について確認したり試験したりはしていないのではないでしょうか。このように書くと、後付けで形式上の食試験など行われたりしますが、初出荷の段階でそういった安全確認をしているかは不明確です。行っていないと考えた方がよいと思います。前段の商品説明ページにもそういった安全上の製造後の検証内容については書かれていません。
 もう一方のメーカーは原材料を同様に製造しているので、原材料の名称を宣伝したかったのかもしれません。パウダーだけでなく身が残っている食材という宣伝のためにドライクリケットとしたのかもしれません。いずれにせよ、こちらの場合も消費者を騙そうとしたわけではありません。

最後に


 筆者のコオロギ食に対する考えも少し付け加えさせて頂きます。昆虫食は食文化の中にあるため、当初は特に抵抗なかったのですが、ここまで行政が表裏で動いて推進(今のところSDGs活動や産業として)してくる気配があるとやはり警戒はしてしまいます。
 理由は色々あると思うのですが、一つには酪農家の激減する状況を深刻化させないため、タンパク源の視線を飼育負荷の少ないコオロギに向けさせようとしているのではないかという事です。そういった意図がなくとも酪農家救済の政策は後ろ向きで対応する気がないのではないかと思われますので、結果的に打撃を与えることになってしまうのではないかと思います。現状酪農製品を消費する方が社会のためになるかと思いますが、以前政府が牛乳を飲んでくださいとのアナウンスを行った時点で相当深刻化しており、打つ手なしと思ったのかもしれません。そこへ戦争による飼育負荷が増大しました。施策を打つのでなく口だけで消費を促そうとして警戒されたことが失敗原因だと思いますが、そのような方針(手も金も出さない)である限りこれが現状なのでしょう。

 そして、今までの食習慣にないものをいきなり多量に摂食するのはリスクがあると思います。毒性は定かではありませんが栄養分が偏ることで体の不調を招くからです。既に指摘されていますが、コオロギは高プリン体食品と言われていますので、人によっては深刻な体調悪化をもたらす恐れがあります。そういった意味でも成分表記は分かりやすくコオロギとするとか、パッケージの目立つ位置に「コオロギが入っています」と書くべきかと思います(アレルギー表記などと同様に)。

 一般的に言えば、ジビエ含め食肉は生物が大きいため、体の中心の比較的安全な部位から食べる十分量を切り分けることができ、さらに調理で安全性を高めることができますが、コオロギの例で言えば、食べる部分が微量で切り分けることができず、さきほどの加工過程の推論に書いたように固い部分をより分ける技術がまだないかもしれませんので、全体を粉末にして使用するという方法がとられているようです。粉末というのは良いものも悪いものも一緒にするということ、混ぜるのに都合がいい状態で、薬品(何らかの毒性を持つ事が多い)にも使われます。食品としての信頼性とか、単独でこれを食べたら体に影響があるということが切り分けにくいと言えます。調理手順で異常があっても分かりにくいかもしれません。

 これらをよく考慮して扱う必要はあると思います。

 変なことを書きますが、私が調理する立場であれば手間でも部位を分けて使うと思います(あるいはその方法を考えます)。全部粉末というのは芸がなさ過ぎて調理手順として不満が残りますし、素材の特徴を生かしているとは言えません。

以上です。ありがとうございました。

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