イエローグレイ ひと色展
「ここに、種を蒔くといいよ」
イエローグレイの子供が言った。
イエローグレイの子供は、ホームセンターで買った土の中にいた。
私はずっと、東向きのマンションの一階に住んでいた。
朝しかうまく太陽が当たらなかったのに、ちょうど私の住んでいる部屋の真前に、5軒並べて建売住宅が造られてしまって、朝の貴重な日差しも遮られるようになってしまった。
だから、転勤で引っ越しが決まった時、私は「絶対南向き!」を譲らなかった。
出来れば2階以上、マンションの前は広々とした空間が欲しい。
「そんないい物件、みつからないよ」夫はそう言ったけど、私の執念の方が強かったらしい。
南向きの部屋のベランダからは畑が見えた。
菜の花も咲いている。
そうだ、私もこのベランダで花を咲かせよう。
ホームセンターに行って、土を買った。
プランターに入れて、水を撒いてから、少し匂いを嗅ぐ。
袋から出されて、ようやく光に当たった土が、水を浴びたことで急に命を帯びたようだった。
「いい香りでしょう」
小さな、親指ほどの子供が、プランターの縁にちょこんと座っていた。
「やぁ、僕はイエローグレイの子供。ちょっとみんなとはぐれて袋に詰められちゃったんだ。ようやく光の下に出られたよ、ありがとう」
ポサポサの髪の毛が、あたたかい光に反射して、柔らかく揺れていた。
「イエローグレイ?」
驚くより先に、懐かしさを覚える。
そのポサポサの髪の毛は、どこかで見た。
「そう、イエローグレイ。花を咲かせる仕事をしてるんだ。僕はまだ、一度も花を咲かせたことがないから子供。僕、一生子供のまま、袋で過ごすんじゃないかって心配してたんだ」
ああ、私、イエローグレイを知っている。
茨城の母の畑でも、ポサポサした髪の子をみた。
「ムスカリと水仙、チューリップなんかをね、ここに咲かせたいのよ」
母がそう言って、野菜畑の一部をお花畑にする計画を練っていたら、イエローグレイが来て言ったのだ。
「いいね、この庭には花も似合うと思ってたんだ」
あの時の子供が、私の、南向きのベランダに現れた。
「ここに種を蒔くといいよ。ところで何にするか決めてる?」
うん、決めてるよ。
ひまわり。
あなたの名前にぴったりでしょう?
ひまわりの種を見せると、彼はにっこり頷いて「まかせて!」
そう言って、種と一緒に土に潜った。
きっと彼は、私のベランダで一人前のイエローグレイになる。
私は、もう一度、土の匂いを嗅いだ。
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イシノアサミさーん!
締め切りを数分過ぎてしまいました…泣
ごごごごめんなさい!
でも、可愛い過ぎて、どうしても書きたかったので、自己満足で届けます…!
「なけなしのたね」で用意したひまわりの種を蒔きました。
あっという間に芽🌱が出て、毎日私をベランダに誘います。
きっとイエローグレイの子が、キレイなひまわりを咲かせてくれると思います。楽しみ!
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