『そうなのか』5話目
あれからまったく手がかりのないまま大人になった。家族も誰から連絡きたのか分からないらしい。
あゆかがトレーニングの場所を知っていてくれたので真っ先に駆けつけてくれた。すれ違いで顔を見ることはできなかったとのこと。
山小屋カフェのマスターが言うには。あの人は若く見えたそうだ。すべての行動に無駄がなく慌てずに静かに対処していたらしいので人生の経験値は高そうだった。
お礼も伝えたかったけどそれも叶わないと諦めてしまい、しばらくして徐々に記憶は薄れていった。
あゆかとのデートも1,000回は超えた頃。わたし達は決断する。一緒になる。当てはまる言葉がないので婚外婚とでも言っておこうかな。
恋愛感情とは少し違う気持ち。彼氏がいたっていいし婚外子も大丈夫。でも一生側にいたいし、いて欲しい人。それを形にして暮らしていきたいと思ったんだ。あゆかと。
家族には同意を得て身内だけのほんの数人でお祝いをしてくれることになった。あの頃、走り込んでいた丘陵地に手作りで会場を用意した。
日が沈み辺りをキャンドルだけで灯すささやかなパーティー。ピークを過ぎる頃に見知らぬ青年がやってきた。
「美咲成花さんですか?これ父から預かってきました。どうぞ。」
あの人からだ。
古風なようなモダンなような中身が透けるくらいの藍色の和紙に手紙が包まれていた。
最終話へつづく
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