そんなバーガーな
※毒にも薬にもならない物語
「月に向かえ」
振り向いても誰もいない
「月に向うのだ」
聞いたことのない
声色
これだけは分かる
言葉として聞こえるが
人間から発している
音ではない
大きなトンネルの奥から
響くような声だ
発声源を探すが
見当たらない
頭の後ろから聞こえるのだ
「月に向かい、割るのだ」
何を?
…声が止んだ
どんなメッセージなんだ
何を割る?
何のために?
そもそも月へ
どうやっていく?
しばらく考えた
でも
やがて忘れた
その声のことも
記憶から薄れた頃
夢から覚めると
月にいた
え?
月??
「来たのか、割れたか?」
目の前には
眼光鋭い赤髪で
赤っ鼻の道化
「割れたんだな、おめでとう」
今度は低い声で
しっかり聞こえる
「ピンコン、ピンコーン」
突然のチャイムが
静寂を切り裂く
「はい♡確認させていただきますね♪」
「……のセットにネクターペッパー」
「マスタードチョコレートのシロップに」
「カスタードケチャップをトッピング」
「お間違えないでしょーかー♪」
「……」
いちいち違うけど
「お間違えないでしょーかーー♪」
おいおい困惑してっぞ
まぁいい
フロントは分野外
フ、フ、
フロント!?
手元には
熱を帯びた鉄板
足元は油染みた
コックシューズ
今日から始まった
このバーガーセット
そのおかげで大繁盛だ
もう150回は割っている
ふぅ…
私は卵が嫌いだ
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