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lisa500ml
『そうなのか』1話目
「なるちゃーん」振り向くと、あゆかが手を振っている。信号待ちでトコトコと足踏みする仕草がかわいい。
長身のわたしにこの小柄な友だちが待ち合わせの度に突進して抱きついてくる。あゆかのこのルーティンを気に入っている。
「なるちゃん!今日は中華だから。ちゅーか!」口を尖らせて張り切っている。彼氏よりわたしとお祝いをしたいらしい。
ちゅーかでお祝いか笑。なんともあゆからしい。食べることが好きなので全然かまわないけど。小籠包にスパークラーも楽しいかもね。
「なるちゃんなるちゃん」こう繰り返す時の次のセリフは決まっている。
「手つなごう!」わたしの許可なんて気にせず瞬間握りしめてくる。でも許してしまう。
寒い時はポッケでモゾモゾ。夏はブンブンと振り回す。人懐っこいと思っていた。でも彼とはしないらしい。わたしは特別らしい。
「なるちゃ、」ここでわたしはあゆかの口を塞いだ。キスをしたわけではない。「あゆか。もういいけどさ。」彼女の唇を指で押さえた。
「わたし、成花だよ。」
なるかじゃない。なのかと読むの。何度言っても聞いてくれないのはわかる。でも、もしかしたらを期待してる。
「なるかなのかなぁ」
でた。この上目使いはずるいよ。それを言うならさ。なのかになるかでしょ。普通は。
「そうなのかなー」と被せてくる。
なるようになるか。とも言える。そんなくだらない会話を頭の中でしながクスッと笑けてしまう。
あゆかと目があった。結局わたしが折れる。なるちゃんでいいよ。家でもなのかとは呼ばれてないし。
自分の名前は気に入っている。けど、わたしはなのかと呼ばれることはほとんどない。両親からも。友達からも。
不思議に思わず大人になったけど。
「なのか」と呼んでくれるのはあの人だけ。それに気がつくのが遅かった。
つづく