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トコラ版そねざき心中#3 トク(徳兵衛)の母

近松門左衛門作 =曽根崎心中=
を現代語訳・・・というか、近未来SF化して上演を試みています。

場面ごとの上演テキストを順次公開しようと思います。
現代語訳に相当するものと、
原作に登場しない人物のものとあります。
引用した原作の場面を、下に原文引用として記載しています。

「トコラ版そねざき心中」については、
作品紹介記事をご覧ください。

トク(徳兵衛)の母

原作の登場人物ではありませんが、#2のトク(徳兵衛)の台詞中に登場します。

はい、もしもし。
ああ、醤油屋さんの。
はい、トクがまあ、誠にお世話になっております。
はい・・・。
ええ、あの子はね、母親に早く死なれたもんですから
気難しくって育てるのは苦労しました。
おや、そうですか。それはそれは・・・。ありがとう存じます。
それはもう、そちら様のご指導のおかげでございますよ。
はあ。なんでございましょう。
ええ。ええ。
まあ、そんな、よろしいんですか?
奥様の姪御様を。ええ。
それはまた結構な。釣り合いもよろしくて・・・。
そうですか、いえいえ、
わたくしには異存なぞあるわけもございませんよ。ねえ。
主人も喜びます。
この家は私ひとりになってしまいまして、ええ。
屋根の修繕なんかも女ひとりでは大変で困っておりますんですの。
あら、そうですか?
まあ、ねえ、主人は家のことなんてまったく構わない人でしたから、ぜ~~んぶ、私ひとりで。
はい。あら。なんだか申し訳ございませんねえ。

いえいえ、わたくしが参ります。いいえ、ご足労おかけせずとも、
わたくしもそちらに行く用がちょうどね、ございまして。
はい。はい。来週の金曜日。
よござんす。まあ、そんな。よろしいんですか?
ええ、リニアならひとっ飛びですけれども、
わたしは普通の電車でようございます。
年寄りですのでね、のんびりと行かせていただきます。
いえいえ、トクに否やはございませんですよ。男はなんといっても身を立てるのが第一ですから。
・・・え?・・・。はあ。まあ、こんな遠くにも噂は伝わっておりますんですよ。
でもね、そちら様とご縁づけば、自然とおさまると思います。
ちなみに、その、先方様の・・・方は、いかがなんでしょう。
そこらあたりのことは・・・。
はい・・・。
そうですか・・・・。
いえね、私が身なりに構いつけなくなったりすると、
途端に機嫌が悪くなるような子でしたから。
なんですか?その、文句めいたことも言うかも知れませんが・・・。
そこは、はい。言い聞かせてやってください。
いやね、私の子供の頃なんぞは、
こんなやりとりもネットでポチッとすれば終わりだったものですのにねえ。
今じゃまあ、重たいお金を手で運ばなければならなくなったんですから。
ええ、ご心配なく。最近ね、力がいらずに動かせるカートが出てまいりまして。
けっこう重宝してるんですのよ。

いえいえ、私は成人前にネットが崩壊したので。
知らないんですよ。そのあたりのことを。
親はね、ネットにどっぷり浸かっていたもんですから、
それはもう、ひどい有りさまでした。
ええ、そうですね、商売をなさっている方は、
システムが根こそぎ変わられたんですから、継がれてからは大変だったのではありませんか?
こうやって電話が残っただけありがたいと思います。
はい、それでは。

=曽根崎心中 徳兵衛長話 生玉社内の場=
(徳兵衛)
隠すではなけれども、言ふても埒の明かぬこと。
さりながら、大方まづ済みよったが、一部始終を聞いてたも。
俺が旦那は主ながら現在の叔父甥なれば、ねんごろにも預かる。また身共も奉公にこれほどの油断せず、商い物も、文字ひらなか違へたことのあらばこそ。
この正直を見て取って、内儀の姪に二貫目つけて女夫にし、商ひさせふといふ談合。去年からのことなれど、そなたといふ人持ちて、なんの心が移らふぞ。
取りあへもせぬ其の内に、在所の母は継母なるが、われに隠して親方と談合極め、二貫目の銀を握って帰られしを、此のうっそりが夢にも知らず。跡の月からもやくり出し、押して祝言させふと有る。
そこで俺もむっとして、やあら聞こえぬ旦那殿。わたくし合点いたさぬを老母をたらし、たたきつけ、あんまりななされよう。お内儀様も聞こえませぬ。今まで様に様を付け あがまえた娘御に、銀を付けて申受け、一生女房の機嫌取り、この徳兵衛が立つものか。いやと言ふからは死んだ親父が生き返り申すとあってもいやでござると、言葉を過す返答に、親方も立腹せられ、おれがそれも知っている。蜆川の天満屋の初めとやらと腐り合ひ、嬶が姪を嫌ふよな。よい此の上はもう娘はやらぬ。やらぬからは銀を立て、四月七日までにきっと立て商ひの勘定せよ。まくり出して大坂の地は踏ませぬと怒らるる。
それがしも男の我。オオ、ソレ畏まったと在所へ走る。また此の母といふ人が此の世があの世へかへっても、握った銀は放さばこそ。京の五条の醤油問屋、常々金の取り遣りすれば、これを頼みに上って見ても折りしも悪う銀もなし。引返して在所へ行き、一在所の詫言にて、母より銀を受け取ったり。追っ付け返し勘定しまい、さらりと埒が明くは明く。されども大坂には置かれまい。時にはどうして逢はれふぞ。たとへば骨を砕かれて・・・・・

近松浄瑠璃傑作集 上巻 (大日本文庫)
近松門左衛門 著, 高野辰之 校訂
春陽堂

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(トコラ版上演記録)
ステージ上演時の映像です。記念すべき初上演(๑>◡<๑)




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