【詩】嘘は連鎖する
人が嘘をつかないことは象がライオンの速度で走ることより難しい。
嘘から全速力で逃れようとしても、悪魔のようにどこまでも追いかけてくる。
夢から醒めても嘘は人から離れない。
ある人は自覚的に嘘をつくことを覚えた。
嘘から逃れられないのだからと自分に有利な嘘を意識的につこうとした。
多くの人を騙すことに成功し、莫大な富を築いた。
莫大な富を築いた彼は、莫大な富によって欺かれた。
彼の得た資産は少しも彼を幸福にしなかった。
財産さえあれば幸福になると思っていた彼に果てしない幻滅が襲った。
幻滅をアルコールで振り払おうとした。
アルコールは彼に苦悩を与えるだけだった。
やがて彼の不正が明るみになり、全財産を失った。
嘘をつかないようにと生きる者がいた。
彼もまた嘘と無縁ではいられなかった。
意識しないところにも嘘は慄然と成立していた。
彼は自身の嘘を見い出したときに自分を責めた。
そのたびに次こそは嘘をつかないと誓った。
彼の表情は静かに満ち足りていた。
それが本当に幸福だったのかどうか、誰にもわからない。
ただ彼は静かに彼の道を歩み続けた。
その足取りは、ライオンに追われる象のようにゆっくりと、それでも止まることなく続いた。