【詩】珊瑚からの祝福
海の底には炎が広がっていた。
珊瑚が一面に広がっていた。
甲羅に乗りながら見上げると魚の群れがいた。
彼はそれを見て美しいと思った。
藻を掬うと手の中でふんわりと広がった。
海の姫のもてなしを受けた。
海には陸にはない馳走がたくさんあるようである。
彼は海の暮らしを満喫した。
もう陸での暮らしのような嫌な思いをしなくて済むと思った。
けれども、彼は陸の生まれだった。
陸に残してきた子供や両親はどうしているだろう。
村の働き手は足りているだろうかと気になった。
帰り際に姫から珊瑚の箱をもらった。
彼は上の空で、けっして開けてはならないという声を聞いた。
彼が陸に戻ると、そこは荒れ果てていた。
人の姿はどこにも見えなかった。
大声を出して人を探し回った。
途方に暮れた彼はついに珊瑚の箱を開けた。
ーーその後どうなったかは、読者もよく知るところであろう。
彼は海での生活のつぐないのために老いたのであろうか。
私にはそうとは思われない。
彼にとっては老いる事自体がすでに救いだったのだと思う。
誰もいなくなった土地で長い時間を生きなければならないとすれば、残酷な話ではないか。
珊瑚の箱はまさに海の姫からの祝福だったのだ。