【詩】塀の中のキリスト
彼は現代に生きるキリストのひとりだった。
誰よりも理解されると同時に誰よりも誤解された。
キリストと同じように民衆の妬みをかきたてた。
道に迷う人々に手を差し伸べ、世の不正を糾弾した。
2000年前に生きたキリストは民衆によって十字架にかけられた。
現代の民衆は十字架にかける手数はとらなかった。
彼が隔離された日、民衆は豚のように安らかに眠った。
彼は塀の中で彼と同じく隔離された者に教えを述べた。
彼の言葉に耳を傾けた者は、自分が憎んでいたものは自分自身の弱さに他ならないと気付いた。
塀の中に祝福が訪れた。
粗末な食事が感謝と共に共有された。
どんな日も誰かの笑顔で始まるようになった。
彼の教えを受けてひとりまたひとりと俗世間に戻って行った。
かつて憎しみに満ちた目をしていた者が、希望に満ちた表情で塀を出た。
彼は静かにその場に残った。
その目には塀の中に光を灯し続ける覚悟が表れていた。
たくさんの者が彼を残して巣立っても、彼のほほえみは消えなかった。
人間の限界を知りつつも、光の存在を信じる者だけが浮かべるほほえみだった。
彼はいつまでも塀の中で彼の教えを伝えながら生き続けるだろう。