「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー(1)孤独の追跡者
はじめに
本作は1980年に全39話の予定でテレビ放映がスタートしたものの、スポンサーの経営が立ち行かなくなったことから打ち切りとなり、ストーリーの結末を見ないまま突如終了するという不幸に見舞われた作品として知られる。筆者は「ガンダムブーム」が起こり始めた当時、アニメ雑誌を通してその存在を知ったが、視聴する機会のないまま40年という歳月が流れた。2000年代に入り、「スーパーロボット大戦シリーズ」においてゲーム化という形で登場、未放映だった数話を加えてDVD化されるなど、長く埋もれた時期を経て再評価されていることから、全話レビューという形で取り上げることとした。
放射能汚染されたSー1星を棄てた人々が、青く美しい地球への移住を企てる、というそのストーリーは、明らかに「宇宙戦艦ヤマト」を意識したものであろう。おそらく、本作の前年から放映がスタートした「機動戦士ガンダム」と同様、「宇宙戦艦ヤマト」によって掘り起こされたティーン層のアニメファンを狙っていたのではないだろうか。
それは、主人公がSー1星から来た「異星人」であること(ファーストコンタクト)、異星人のもたらす災害と世の終わり(ディザスタームービー)、終盤であきらかになるSー1星と地球との関係(タイムパラドックス)など、SF的要素を根幹に多分に組み込んでいることからも伺い知れる。巨大ロボットものというジャンルにおいて、ストーリー重視の本格SFを目指した意欲作といえるだろう(それは各話に散りばめられた、有名SF小説由来のタイトルからも見てとることができる)。
そして何よりも本作の魅力となっているのは、主人公のマリン、アフロディアという美麗な男女のキャラクターである。この二人の「因縁」がストーリーを動かしていく一方、地球とSー1星両軍の指揮官のポンコツ作戦が、破滅的な結末を引き寄せていくことになる。
本レビューでは、折にふれて「因縁あるふたり」「両軍のポンコツ指揮官」にもフォーカスを当てながら、この鬱作品を楽しく視聴していきたい。
あらすじ
放射能汚染で死に瀕したSー1星では、新天地を求めて移住するべきかどうかで軍部と科学者が対立。放射能除去装置開発を手がけていたレイガン博士の息子マリンは皇帝暗殺の汚名を着せられる。
Aパート:Sー1星の惨状、軍部と科学者との対立
Bパート:皇帝暗殺、追い詰められるマリン、移民要塞ワープ
コメント
主役ロボが登場しない第1話、というのはある意味画期的ではなかっただろうか。それだけでなく、いわゆる地球人は一人も登場せず、荒廃し移住を余儀なくされるSー1星と、そこで繰り広げられる軍部と科学者との争い、その結果陰謀と武力行使により故郷のSー1星を捨てて、Sー1星人らが母艦で遠い宇宙の果てにある青い惑星を目指して旅立つまでが描かれる。
放射能汚染された惑星、という発想は「ヤマト」を連想させるが、こうした設定はやはり当時の世界情勢と深く関わりがあるだろう。東西冷戦の只中であり、地球を数十回滅亡させることができる核兵器を保有したアメリカ・ソ連という二つの大国が睨みあっていた。そして核保有国は競って地下核実験を実施していたのである。
そんな中、1999年に人類が滅亡する、と予言した「ノストラダムスの大予言2」が出版されたのが本作放映の前年の1979年。そう遠くない未来に、地球の終わりが来る、という終末思想が、10代の若者たちにも広く受け入れられていた。そうした時代背景が、本作の設定にも影響を及ぼしていると思われる。
本作の主人公はマリン・レイガン。放射能濾過循環システムを開発中の科学者レイガン博士を父に持つ若者で、父とともに汚染されたSー1星を再生させるため、研究に取り組んでいたが、軍人ミラン(実はアフロディアの弟)に因縁をつけられ殴られたことから運命の歯車が狂い出す。ちなみにSー1星は環境とともに人心も荒廃しており、治安維持のため軍部が大きな力を持つに至っているようである。
殴られた勢いで落とした身分証を悪用され、皇帝暗殺の汚名を着せられたマリンだが、すべてを企てたのはアフロディアであった。皇帝暗殺の罪で科学者らを処刑する、として研究所に踏み込んできた軍人ミランを自己防衛のため殺してしまう。それが、彼にとってはすべての始まりとなるのであった。
弟を殺されて怒りに燃えるアフロディアを、総統ガットラーは戦闘最高指揮官に取り立てる。マリンは「ガットラーの思い通りにさせてはならん」という父の遺言を胸に旅立つが、その先には過酷な運命が待ち受けていた。
キャラクター紹介
マリン・レイガン
Sー1星で暮らす青年で、科学者である父レイガン博士とともに、放射能汚染された惑星を蘇えらせるため、放射能濾過除去装置の開発に取り組んでいた。しかし軍部との対立から皇帝暗殺の罪を着せられ、追い詰められた父から一人、脱出するよう諭され宇宙へ飛び立つ。
ガットラー
Sー1星の軍部総司令官。そのベタな名前からもわかる通り、本作の敵のトップに立つ人物である。移住か環境美化かで科学者と対立すると、皇帝暗殺とともに自ら総統となり、母艦を発進されて国民を強制移住させる。総統就任とともに、アフロディアを戦闘最高指揮官に任命した。
アフロディア
ガットラーの親衛隊隊長で、彼の意志を忖度し、政治犯の処刑、皇帝の暗殺などを実行する冷徹な軍人。マリンが落とした身分証を悪用し、彼を皇帝暗殺の実行犯として処刑しようとした。総統とは浅からぬ関係らしく、その功績や忠誠心が評価され、戦闘最高指揮官に任命される。
ミラン
アフロディアの弟で唯一の肉親。姉とは対照的に短絡的な性格らしく、父のもとを訪れたマリンにいきなり殴りかかるなど粗暴な一面を見せる。皇帝暗殺の罪で科学者らを銃殺し、マリンも殺害しようとするが、返り討ちに遭いあえなく死亡。これが因縁となり、アフロディアは仇討ちを誓う。
今回のポンコツ指揮官:アフロディア
「口を慎みなさい。感情の高ぶりは、思わぬミスを招きます」
ガットラー総統の前で、弟である軍人ミランらをたしなめるアフロディアは、沈着冷静、冷徹に任務を遂行する軍人の鑑。その手腕に期待をかけて、ガットラーは彼女を最高指揮官に任命するのだが、その矢先、宇宙船で脱出したマリンを発見して逆上し、母艦がこれからワープするというときに、自らの手で仇を討つと飛び出してゆく。こんなことをしなければ、あるいは地球の運命は…、と思うと、なかなかに感慨深いブーメランな一言である。
今回の謎用語:次元嵐
ワープによる次元嵐に巻き込まれたマリンはいつの間にか太陽系にたどり着いていた、というところで最初の場面に戻って第1話は幕を閉じる。何気に聞き逃してしまうのが、このときの「次元嵐」という言葉である。ずっと、母艦のワープに巻き込まれて一緒にワープしてきたと思っていたのだが、この第1話ラストのさりげない謎用語に、本作の恐るべきラストが暗示されていたのだ。
ところでこの第1話のラストシーンだが、どこかで見たような絵ではないだろうか。私はふと「機動戦士ガンダム」最終話のラストシーンを思い出した。本作はガンダムの放映終了から半年後に始まった。ガンダムはアムロの(戦線からの)脱出によって終わるが、本作はマリンの(本星からの)脱出から始まるのである。
評点
★★★★★
遠く離れた異星の危機的状況に引き込む力のある脚本。主役キャラも魅力的。
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