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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (17)裏切りと暗殺の旅路 前篇

あらすじ

 アルデバロンの前に立ちはだかる存在となったマリン。殺すか味方につけるかしなければ勝てない、と言い放つ参謀まで現れる。デグラスはアラスカの地球の新基地で建造されているバルディオスを超えるメカを利用することを提案する。

Aパート:デグラスの作戦、新メカガムジャード登場、マリンの推察、憤るアフロディア
Bパート:マリン除外の通告、デグラスの策略、月影の決意、真相を語るデグラス

コメント

 アルデバロンでは、マリンの存在が地球侵攻の大きな妨げになっているとして問題になっていた。味方につけるか殺害するかしなければ地球征服の望みはない、と幹部たちは訴える。アフロディアの復讐心に頼るのは無理だ、というのだ。
 そこへ、マリンを味方につける方法がある、と進言するものがいた。デグラスである。地球のアラスカ地帯には世界連盟の第一秘密基地が完成していた。そこで、バルディオスに替わる巨大ロボットが造られているという情報があるという。デグラスは、このロボットをうまく利用するべきだと主張した。

 アルデバロン側の情報通り、アラスカ基地ファーストシークレットベースでは新型ロボ「ガムジャード」が披露されていた。バルディオスの長所を生かし、さらに改良を加えたものだという。「これなら敵も叶うまい」と希望的観測を述べる世界連盟幹部に対し、月影は「無理だな」と釘を刺した。

 基地に戻ると、敵襲の警報が入る。敵は巨大なメカを率いている模様だという。バルディオスチームを出動させようとする月影の前に、世界連盟代表のモーガンの横槍が入り、連盟ががムジャードを出撃させるという。月影ががムジャードの批判をしたことが咎められたのだ。
 出動しない理由を聞こうと詰め寄る隊員たちに、長官はガムジャードの図面を見せる。連盟はブルーフィクサーが力を持ちすぎることを恐れ、その勢力を二分しようと画策しているのだ、と月影は見ていた。その結果、第二のブルーフィクサー基地まで建設が中止されたという。

 しかし、クインシュタイン博士が断言した通り、ガムジャードの性能は抜群で、快刀乱麻の活躍を見せていた。それをいいことに、連盟はブルーフィクサーの人員を半分に削減したいと言い出す。月影は抗議しようとするが、モーガン代表への通信は遮断されていた。

 物語も中盤に入り、これまでの一話完結、単発式のストーリーに、大きな流れにつながる前後編の連続ものが織り交ぜられてゆくようになる。前後編シリーズの最初となるのは、地球側にいて強大な存在となったマリンを地球側から切り離すべく、アルデバロンの大規模な工作がスタートする、という話である。そこには、アルデバロン側の事情もある。これまでのアフロディアの度重なる失敗により、彼女のマリンに対する復讐心だけに頼っていてはいけない、という幹部からの声をガットラーも無視することができなくなったのだ。
 その結果、デグラスの作戦にGOサインを出すが、それでもアフロディアを庇い続ける彼の姿勢を見て、一体この二人の間には何があったのか、いや、あるのか…と、そんな興味も大いに刺激される展開となっている。

 世界連盟から突然遠ざけられることになってしまったブルーフィクサーだが、マリンは「この裏には何かがある」と考え込んだ。その様子を見たクインシュタイン博士は、彼の考えに同意する。「あまりにも敵が弱すぎる」ことに疑いの目を向けていたのだ。世界連盟は第二のがムジャード開発に乗り出したことで、マリンは、連盟がアルデバロンに踊らされているのでは、と気づき驚く。クインシュタインは頷き、このままいけば、ますますブルーフィクサーは必要なくなる、と危惧を口にした。

マリン、約束するのです。
どんな事態になっても、やけにならないこと。
私を信用するのです。
私には、嫌な予感がするからです。

 案の定、アルデバロンではデグラスがガットラー総統を前に、第一次作戦成功の成果を報告していた。世界連盟はブルーフィクサーを無用の長物と考え始めている、というのだ。次のターゲットはマリンであった。

 そこへ「総統、私の話を聞いていただきたいのです」とアフロディアがやってくるが、デグラスがそれを阻む。「このような卑怯な手段はSー1星の名折れ」とアフロディアは憤るが、デグラスは「戦いは勝つことが先決」と反論する。そして、幹部の誰もが今までの失敗の責任はあなたにある、と言いかけると、ガットラーから叱責を受けるのだった。 そのあと、ガットラーがアフロディアに語る言葉もまた、印象的である。

よく見ろ、この亜空間を。何もない。
この無限で、かつ閉ざされた世界に、我々は永久にいることはできない。
目的通り地球を手にするか、あるいは死か。
私はおまえを信頼している、他の奴がなんと言おうとな。
だが、いつまでも庇ってばかりはおれんのだ。
勝たねばならん。勝たねばSー1星人は滅びる。
今より、Sー1星のため私情は捨ててくれ。

 マリンを味方につけるというのか、というアフロディアは、その作戦を「無駄です」と言い切る。
 今回、ブルーフィクサーの月影長官、アルデバロンのアフロディア、双方がその立場を脅かされ、組織が二分されてしまうという展開。「このままでは滅びる」という危機感が双方のトップにあるのだが、その打開策に対して月影もアフロディアも「無理」「無駄」の一言で切って捨てるなど、頑なで柔軟性に欠ける一面が伺える。そのどちらもが、結局のところ、マリンに依存しているという構図がユニークである。

 新型メカ、ガムジャードの大活躍によりブルーフィクサーはリストラされることになり、マリンは追放されることになる。そこに待っていたのは、さらに心を引き裂くような裏切りの言葉、だったのだが・・・。

 組織の存亡さえ危ぶまれるほどの危機を招いたのは誰なのか、今回はその点を掘り下げてみようと思う。

キャラクター紹介

デグラス

 アルデバロン軍幹部の一人。アフロディアの地球侵攻作戦の失敗の原因は、マリンの存在にあると見抜き、地球側にマリンが居続けられなくするように仕向ける作戦を立案、ガットラー総統に承認される。マリンを味方につけることに拒絶反応を示しつつ、彼はそんなことをする男ではない、とマリンを高く買っているかのような言動のアフロディアに疑いの目を向けている様子が伺える。

メカ紹介

ガムシャード

 世界連盟がブルーフィクサーを差し置いて開発された新型巨大ロボット。バルディオスが、Sー1星の技術を転用しているためマリンなしでは動かせないことを問題視したことから開発され、実戦投入されるやいなや、透明円盤を相手に大活躍し、ブルーフィクサーを「不必要」だと思わせてしまう。


今回のポンコツ指揮官:月影長官

 新型メカが開発されることで、組織存亡の危機に立たされてしまったブルーフィクサーだが、今回はその原因の一つを作った人物として、月影長官の名を挙げないわけにはいかないだろう。
 というのは、新型メカを見せられた際の不用意な一言はもちろんあるが、それ以前のこととして、地球侵攻のため大軍を繰り出してくるアルデバロンに対して、マリン頼みのバルディオス1機で応戦し続けるのはどう考えても無理があり、指揮官としては、超有能なクインシュタイン博士に命じて、マリンなしでも動かせる量産型バルディオスを開発するなど、取り組めることがあったはずだからだ。  

 新型メカ・ガムジャードを一目見るなり「無理だ」と断言した月影だが、彼は世界連盟幹部にその理由をこう説明する。

どんなにメカが優れていようと、
動かすのは人間だ。
これを使い切れる人間は地球にはいない。


 まさに、だったらどうするんや? という話だが、そこで思考停止してしまっているところに月影のポンコツさが表れている。ましてや15話で、平和会議の名の下に集結した両陣営幹部らが、アルデバロンの策謀で多数死傷し、世界連盟軍だけでなく民間にも多くの犠牲者を出したばかりではないか。ここで、世界連盟本部と連携を取り、次の段階としてどうすべきか、危機感と戦略を共有すべきだったと思うのだが、かえって組織の分断を招いてしまっているところに、月影のみならず、世界連盟代表モーガンの無能さを感じる。

 作品の展開としては、この辺りでテコ入れを図り、終盤の29話に登場して絶大な人気を集めることになった超イケメン・生意気追加戦士のデビッド・ウェインを、ちらほら出し始めればよかったのに、と感じる。ブルーフィクサー・地球側の登場人物がかなり固定化し、話を広げるのが難しくなっているのでは、と感じる面もあるからだ。

 マリンにとっては父のごとき存在になっていた月影だが、やはり、つまらぬことを口走りネガティブな方向に向いてしまうなど、指揮官として「こいつで大丈夫か?」と思わせていまう人物であることは、いまだ変わらないのであった。

評点

★★★★
 前後編になったことで、展開に落ち着きが生まれ、地球側、アルデバロン側双方の心理劇に深みが出た。


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