「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (18)裏切りと暗殺の旅路 後篇
あらすじ
ガムジャードの成功に気を良くした世界連盟はマリンを追放し、デグラスの勧めでマリンはガットラー総統との面会を決意する。一方アルデバロンの要求を飲んだ世界連盟だったが、地球領土の4分の1は返還されず、ブルーフィクサーはマリンの裏切りを知る。
Aパート:ガムジャード破壊、マリンの裏切り、ガットラーとの面会、秘密の暴露
Bパート:ガットラーの思惑、基地攻撃、モーガンの謝罪、マリン逃亡
コメント
「こんな美しい地球に住んでいながら、地球人はどこまで汚いんだ。もう俺は愛想が尽きたぜ」
ブルーフィクサーから追放されたマリンは、デグラスに、ガットラー総統に会うよう勧められる。地球人の汚さにうんざりしたマリンはその話に乗り、デグラスとともに飛び立っていった。
前篇となる17話で、ブルーフィクサーから追放されてしまったマリン。そではアルデバロンの幹部、デグラスの計略だった。アルデバロンが占領した地球の4分の1を返還することの交換条件だったのだ。新兵器ガムジャードがあるならもうバルディオスはいらない、とばかり、世界連盟はこの条件を飲んでしまったのだ。マリンには、さらに基地を出た後、月影の命令で謀殺されかけるという憂き目に遭い、完全に人間不信に陥ってしまう。
マリンが去った後のブルーフィクサー基地では、緊急出動の警報がなっても、もう出動する必要がなくなった、と雷太とオリバー、ジェミーが嘆いていた。バルディオスのかわりにガムジャードがすべての敵をやっつけてくれるからだ。だが、ジェミーは疑問を口にする。長官は、ガムジャードを操縦できる人間は世界連盟にいない、と断言されたはず、と。オリバーは、そこで、これは敵の罠ではないかと気づく。
世界連盟では、デグラスが約束を守らず、マリンを追放したにもかかわらず、侵攻された領土の4分の1の返還に応じず、それどころかカナディアンを攻撃していることを糾弾していた。しかし、デグラスはいう。「地球人は甘いな。乗っ取られた領土がほしいなら、力で奪い取れ」と。そして彼らの目の前で、ガムジャードを破壊してしまうのだった。
その様子を見ていたバルディオスチーム、長官は、敵はいつでもガムジャードを叩くことができた、それをしなかったのは、世界連盟の力を利用してブルーフィクサーを窮地に陥れるためだったのだ、と真相を明かした。しかし、マリンを呼び戻せばいい、という声を「それはできん」と即座にはねつける。マリンが、裏切ったのだ。
「裏切りと暗殺の旅路」というサブタイトルがつけられた17、18話。前篇で裏切られ、追放され、暗殺の憂き目に遭うマリンだったが、後篇ではマリンの逆襲が始まる。だが、本当にマリンはブルーフィクサーの仲間たちを、そして地球を裏切ってしまうのか、その真意がどこにあるのかをめぐって、見るものはハラハラさせられる、という面白さがある。
マリンはデグラスに連れられ、アルデバロンの亜空間要塞にいた。ガットラー総統に謁見するためだ。マリンの戦いぶりを褒め称えるガットラーに、マリンは今更ながら、地球人のために戦うことの無意味さを知った、と冷めた口ぶりで答える。そしてガットラーに、S-1星人のために戦うことを約束するのだった。
しかしそこに進み出てきたアフロディアが、マリンを信じてはなりません、と進言する。そんなにたやすく信念を変える男ではない、というのだ。そして、ところが変えたのさ、というマリンを平手打ちした。
裏切りの証拠をガットラーから求められたマリンは、ブルーフィクサーの基地の場所を教えてしまう。ここから、この重苦しい鬱展開なストーリーが、俄然面白くなってくる。17話までしっかりとストーリーを追ってきたものならば、マリンがここで仕掛けた「罠」に気づくはずだからだ。
裏切るか、と見せかけて実は…というのは、もう2回ほど出てきたパターンだが、今回は主人公で、地球でただ一人の異星人という立場もあり、地球を裏切るのに十分すぎる理由があったため、よりスリリングな展開となっている。
「こんな美しい地球に住んでいながら、地球人はどこまで汚いんだ。もう俺は愛想が尽きたぜ」というマリンのセリフからは、裏切りの動機が十分に考えられるが、そもそも彼の戦いの動機は、父を殺したガットラーへの復讐であった。地球の人々の手を借りず、シンプルにその目的だけに徹しよう、というのが彼の考えであることが、やがて明らかになる。
しかし、そこに不確定な要素が紛れ込み、マリンの「裏切りと暗殺の旅路」は、その目的を果たせないまま終わってしまうのだった。
その不確定要素とは、アフロディアの存在である。地球を裏切ってガットラーの前に現れたマリンに対して、彼を仲間とは認めない、と強い口調で退ける彼女の胸中には何があったのだろうか? そしてマリンはなぜ、ガットラー暗殺の好機を得ながら、それを成し遂げられなかったのだろうか?
今回のスポットライトでは、そんな二人の心の変化を、この心理劇から読み取ってみたい。
今回のスポットライト:マリン VS アフロディア
マリンを信じてはなりません!
デグラスに連れられ、ガットラーの面前に進み出たマリンに対して、アフロディアは冷水を浴びせるかのように、厳しい言葉を投げつけた。マリンは「そんなにたやすく信念を変える男ではない」というのだ。
アルデバロンの最高戦闘指揮官として、敵の寝返りを疑ってかかる姿勢はごく真っ当なものだ。しかも、その策を持ち出してきたデグラスとも因縁がある。彼女の言葉は、冷静に思えた。だが、マリンの一言で、その冷静さは失われる。マリンは、そんな彼女に対して「ところが変えたのさ」と茶化すように言ったのだ。
本来なら、マリンさえいなければ赤子の手をひねるように、地球はたやすく陥落したはずだった。だから、このマリンの寝返りは、地球侵攻計画完了への最終ステップになってもおかしくないものだった。彼らS-1星人の真の目的は、新たなる惑星への移住であったから、勝利は目前といっていい状況になったのだ。 だが、アフロディアは「(信念を)変えたのさ」と口にしたマリンに平手打ちを食らわす。それだけマリンを信用していない、ということなのか? と思いきや、彼女は、こともあろうに、こんなふうにその思いを吐露する。
マリン、私の信じるマリンであってほしい。私が怒りと憎しみの炎を燃やす男であってほしい
ガットラーは、マリンからブルーフィクサー基地の場所を聞き出すと、あとは用済みとして彼を殺害するつもりであることがわかる。寝返った彼に、ガットラーは失望していたのだ。アフロディアとガットラー、この二人は、マリンに対する視線が実に似通っていて面白い。二人とも、彼を、たとえ自分たちに敵対しようと、どこまでも自分の信念を貫き通す者であってほしいと願っているからだ。ある意味で、デグラスのように、単純には彼の寝返りを信じてはいないし、信じたくなさそうである。
こと、アフロディアにとっては、マリンへの憎しみこそが、彼女の戦闘意欲を高めているのであり、敵対するマリンなしに、指揮官としての自分はない、と思っていそうである。しかも、その実、憎しみという感情が時間とともに薄れていく中、まるで自らを奮い立たせるように彼を憎むべき存在たらしめようとする自分、というアンビバレントな感情の中に置かれて戸惑う様子が、実に面白い。
寝返りの証拠としてブルーフィクサー基地の秘密を暴露したあと、軟禁されているマリンのもとを訪れたアフロディアは、護衛の兵士を全員麻酔銃で眠らせてしまい、あっさりとマリンに倒されて彼の脱走を幇助してしまう。1対1になったマリンを自らの手で殺す好機だったにもかかわらず、彼女はそうしなかった。
11話「情け無用の戒律」で直接対決した二人だったが、アフロディアはマリンに命を助けられた、ということもある。そこで彼女は、マリンの中には自分が自分を縛っているような憎しみの感情がなく、また、彼女がガットラーに従属しているような被支配の関係を持たず、あらゆるものから自由であるがゆえの強さを見たのではないだろうか。それゆえ、彼女のマリンに対する憎しみは、自分自身とは対極にある人間への憧憬を背後に隠すものになっているような気がする。
一方マリンは、ガットラー暗殺の好機を得るが、総統の前にアフロディアが立ち塞がると、あっさりと殺害を諦め退散してしまう。彼女もろとも殺してしまっても全然いいはずなのに、そうはしないところに、彼の純粋さがあると思う。
ただ、世界連盟に裏切られ、フルーフィクサーから追放された彼が、いつ、デグラスの陰謀に気づいて、その裏をかくことを思い立ったのか、そして11話に続いて今回も、アフロディアに手をかけることなく、みすみすガットラーを暗殺する機会を逃して地球へ戻ってゆくのか、彼自身の心の変化が読み取れないために、ややストーリーから置いてきぼりを食らってしまう感も否めない。
敵を愛してしまう女性指揮官、という構図を作るための一話とも言えるが、ではマリンはアフロディアの中に何を見出したのか、主人公の心理と葛藤が見えないところに、やや難を感じる。前篇では追放されるマリンにクインシュタインが「どんな事態になっても、やけにならないこと。私を信用するのです。私には、嫌な予感がするからです」という言葉をかけていた。このことをマリンがどれほど心に留めていたのか、そうした前篇からの流れをもうすこし意識できたらよかったのに、と感じる。
物語も中盤まできた今、マリンが裏切るのかどうか、というハラハラ感だけでは物足りないのだ。ある意味地球の存亡の鍵を握るキーマンになってしまったマリンを、彼自身がどう捉えているのか、その内にある葛藤も描く必要があったのではないか。
評点
★★★
展開は面白いが、主人公であるマリンの心の変化が見えないことに、やや戸惑う。