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「宇宙戦士バルディオス」全話レビュー (19)亜空間に架ける橋

あらすじ

 一夜にしてスイスラーで国民の大半が異星人の空母に連れ去られるという事件が発生。さら亜空間の研究者クラン博士も消息を絶った。クインシュタイン博士は、先ごろ発見された第10惑星との関連を指摘し、ブルーフィクサーは海王星へ向かう。

Aパート:事件発生、バルディオス出動、マリン潜入、クラン博士の苦悩と決意
Bパート:クラン博士の密告、マリンの提案、人工惑星潜入、残りあと2分

コメント

 スイスラーの住民の大半が、一夜にして異星人の空母に連れ去られるという事件が発生。さらに、亜空間研究の権威、クラン博士も消息を絶った、とブルーフィクサーに連絡が入る。その目的を、クインシュタイン博士は先ごろ発見した「第10惑星」にあると見ていた。どんな小さな星でも発見できる科学力を有する今になって、第10惑星が発見されるということは、何か敵が企んでいるに違いない、というのだ。おそらくそこに連れ去られたと思われるスイスラーの住民とクラン博士救出のため、バルディオスチームは出動する。

 亜空間飛行により海王星までやってきたバルディオスは、その向こうに確かに小さな惑星があることを確認する。だが、データを観測したジェミーは、この惑星の質量が地球の2倍以上もあることを指摘する。マリンは、これが人工惑星ではないかと疑い、オリバーと二人で様子を探ってくることにする。

 2006年の国際天文学連合の総会の決定により、冥王星は惑星でなく「準惑星」とされるようになったが、本作はそれ以前の作品であり、冥王星も惑星と数えた上で、太陽系には9つの惑星があるというのが一般的な常識だった。その外側に、10番目の惑星が発見された、という話と、スイスラーで住民の大半が連行される、という2つのミステリーが結びついてゆく、というのが今回の話の面白いところだが、タイトル「亜空間に架ける橋」は、明らかに1957年公開の映画「戦場に架ける橋」からとったものだろう。

 しかも、単にタイトルをもじっただけでなく、内容的にもオマージュといえるものとなっている。「戦場に架ける橋」は第二次世界大戦中、日本軍の捕虜となった英国軍人らが、泰緬鉄道建設の強制労働に動員され、クワイ河に架ける橋の建設が進められるが、一方、収容所を脱走した軍人の手引きで、この橋の爆破作戦も開始され…、という話である。「クワイ河に架ける橋」=「人工惑星」、「強制労働に動員される英国人捕虜」=「クラン博士とスイスラー住民」という構図である。

 海王星上の施設接近したマリンとオリバーは、そこに、スイスラーから連れてこられた地球人らが入ってゆくのを目撃する。この人工惑星建設のために地球人を攫ったのだ、と気づくマリン。クラン博士の手を借りなければできないことがあるにちがいない、とオリバーは指摘する。それを確かめるために、二人はさらに施設へと近づいてゆく。

 その施設では、クラン博士がアフロディアから叱責を受けていた。もう少しで完成なのに、なぜ作業をやめて帰ってきてしまったのか、というのだ。クラン博士は労務者らを代表し、私たちは疲れ切っている、しばらく休ませてほしい、と嘆願した。その間、アルデバロンにも働いてもらいたい、というと、アフロディアは「おまえたちの地球を救うために、科学力と機材を提供しているのだ」と反論する。そして、地球を愛するのならば、もう一度あの人工惑星に行くのだ、と命じるのだった。残り時間はあと5時間だという。

 地球を救う、残すところはあと15時間、というアフロディアの言葉に首をかしげるマリンとオリバー。労務者らが閉じ込められた監獄に侵入し、クラン博士との面会を果たす。しかし、あんたたちを助けに来た、という二人に対して、博士はなぜか、「私たちは逃げない」と、その助けを拒否する。そして、あの人工惑星に連れてこられたわけを明かすのだった。

 あの人工惑星はSー1星人が造ったものだが欠陥があり、その修正のために危険な作業を行わねばならなかった。そこで目をつけられたのがクランは博士だった。自身が亜空間の権威者だったことが大勢を死に至らしめたが、我々にとってもそこに巨大な重力場を作ることが必要だった、と博士はいう。地球の科学力ではとらえることのできない、恐るべき彗星が太陽系に向かっているのだというのだ。
 あの人工惑星を彗星にぶつけて、ブラックホール化し、亜空間へ送り込もうというのが、地球救出のための作戦だった。博士はそれを「亜空間に架ける橋」と呼んだ。

 実現可能性は50%だというが、だからといって、おれたちはあなたたちを見捨てることはできない、とマリンはいう。ガットラーがみんなに地球を守らせ、そのあとに地球を奪うつもりだ、とマリンは見ていた。しかし、博士は折れなかった。二人はポイントXP地点で待機している、と言い残し、その場を去るのだが…。

 ここまでが前半だが、非常に内容の濃い話である。第10惑星の出現、地球へ近づく巨大彗星、それを防ぐために連れてこられたクラン博士、果たして地球の運命は? と、映画が一本作れそうなほどの内容を、ぎゅっと24分程度に濃縮して描いた贅沢な一話である。もっとも、そのような作話が本作の特徴でもあり、ある意味「ネタの宝庫」といえるかもしれない。

 この19話についても、ベースとなる映画作品があり、そこに積み上げられたバルディオスの世界観、事件発生から謎要素の提示、解明への手がかり、博士との接触と裏切りなど、展開がテンポよく進み、惹きつけられる内容となっている。やや中だるみが見られる本作の中でも引き締まった一話といえるだろう。加えて作画もよく、メリハリの効いた構成で惹きつけられた。

 だが、バルディオスという作品全体の流れの中で、この19話を見てみると、やや物足りない感じは否めない。今回は、そんなところを掘り下げてみたい。

キャラクター紹介

クラン博士

 スイスラーで研究活動に取り組む科学者で、亜空間研究の権威として世界的に知られる。クインシュタイン博士の恩師で、月影長官によれば、ブルーフィクサーはクラン博士と協同で亜空間研究を続けていたのだという。しかし海王星の施設まで救助に来たバルディオスチームの待機場所をアフロディアに密告してまで、彼は人工惑星完成に精力を尽くすのだった。

メカ紹介

透明エイ

 正式名称は不明。アルデバロンの主力量産メカ、透明円盤が集合して結合、一体化することで発動する、エイのような形状のメカ。触手で敵を捉え、電撃攻撃を仕掛ける。その威力は強力で、バルディオスは亜空間ビームによって辛うじてこのメカを退けた。

今回のスポットライト:マリン VS アフロディア

 強制連行されたクラン博士とスイスラーの住民が収容されている施設へ潜入し、コンタクトを取ったマリンとオリバーだが、脱出を手助けする、という彼らの申し出を博士ははねつけ、アフロディアに、バルディオスの待機するポイントを明かしてしまう。その理由を博士は「私はこの任務を彼らに邪魔されたくないのだ」と説明した。

 そこで、アフロディアとの間にこんな会話が繰り広げられる。

命を懸けて地球を守る男たち。
それはどうやら、ブルーフィクサーだけではなさそうだ

あなたがたもSー1星のために命を落としている。同じことだ。
 

 この言葉をきっかけに、アフロディアは博士と住民らを人工惑星へ戻して、作業完了を急がせる。巨大彗星によって地球が滅亡するかもしれない、という危機を前に、地球をわがものにしたいSー1星と、地球を守りたい博士ら地球人との利害が一致したのだ。  

 そこで蚊帳の外に置かれてしまうのがバルディオスチームだが、振り返ってみれば、このような、地球人の「裏切り者」が敵に協力すると見せかけて、真の目的を達成する、という話のパターンは、今までにも繰り返されており、正直「またか」という印象は否めない。これが、ぎゅっと中身の詰まった濃厚な話でありながら、物足りなさを感じる理由の一つである。  

 ある意味中身が詰まりすぎて、人工惑星とはどんなものか、なぜ巨大彗星に人工惑星をぶつけるとブラックホール化するのか、そして、亜空間に封じ込めるのに、なぜブラックホール化する必要があるのか、といったSF要素の部分がなおざりにされ、話の展開を急ぎすぎた感がある。それは、本作が基本的には一話完結スタイルの積み重ねで構成されているからだが、そこがまた、中だるみで飽きられる原因にもなっているように感じる。  

 物足りなさの理由のもう一つは、全体の中での各話の連続性に乏しいことである。前話は前後編で、地球に裏切られ、アルデバロンに降ってガットラー、そしてアフロディアと会って、しかも彼女の温情?で助けられるという展開となっていた。そもそも、ガットラーに父を殺されたマリンと、マリンに弟を殺されたアフロディア、この二人の因縁から始まっているのが本作なのである。二人の間にある感情に何か変化があるとすれば、それは描かれるべきだし、それを見たいと期待するのが視聴者の自然な感情ではないだろうか。

 さらに付け加えれば、マリンとアフロディアの関係とともに、本作全体の伏線になっている「謎」がある。なぜSー1星と地球とは、同じ言語が通じるのか、なぜマリンは地球の風景に「見覚えがある」と感じたのか、そしてそもそもSー1星人とは何者なのか。そうした謎が、まだ点としてしか見えず、作品全体を貫く線にまで成長していないことがある。     

 話の展開として、毎度アルデバロンの起こした事件や襲撃があり、そこからバルディオスチームが動き出し、戦いや駆け引きの末に一件落着、という筋がパターン化しているが、ブルーフィクサーとしては、出てくる敵に対処するだけでは「勝ち」は見えない。月影長官は、そろそろ敵を封じる策を考えねばならないし、そのためには、Sー1星はどこにあり、彼らはなぜ地球に侵攻してきたのか、という理由を地球側が調査研究する必要があると思う。そこでキーとなるのはやはり、地球側に立つSー1星人としてのマリンの存在だが、彼の能力に頼るばかりで、彼から情報を引き出すに至らないところにもどかしさを感じる。  

 その意味で、19話ではクラン博士にスポットが当てられる回となったが、一回限りのゲストキャラよりも、本当にスポットを当ててほしいのは、そもそもこの話、どこへ向かっているの?というところ。それがいつまでたっても見えてこないところに、本作が「打切り」という不幸な結果を迎えた原因の一つがあるのではないだろうか。

評点

  ★★★
 一話でみれば面白いが、全体としての進展がなく次が楽しみにならない。

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