機動戦士ガンダム 全話レビュー第22話「マ・クベ包囲網を破れ」
あらすじ
指揮官としての重圧からくるストレスから、ブライトはついに倒れてしまい、ミライがかわって指揮をとることになる。一方ジオン軍では、目の上のたんこぶ的存在であったランバ・ラル隊が壊滅して我が意を得たマ・クベが、一気にホウィトベースを討ち取ろうと作戦を立る。その作戦とはホワイトベースに爆弾を仕掛けてミノフスキー粒子の射出口とECM探知機を破壊、敵に対して全く無防備な状態にしすることだった。不慣れな指揮官ミライはその罠にはまってしまう。
脚本/松崎健一 演出/貞光紳也 絵コンテ/ 作画監督/安彦良和
コメント
リュウが死に、心労でブライトが倒れる。そんな中、奇抜な作戦でホワイトベースを沈めようと動いてくるのがマ・クベである。艦の探知能力を無防備にする、というその作戦にハマってしまうホワイトベースと、ブライトのいないブリッジでの混乱ぶりが描かれる。「不在」であることを通して、その存在の大きさを感じさせる、そんなストーリーが楽しめる。その存在とは、ブライト・ノアその人である。
艦長席のブライトの様子がおかしく、明らかに体調が悪いようである。敵部隊の攻撃が止んだことから、ブライトは戦線離脱を命じるが、コース指示を確認したミライに答えることができず、ついに 艦長席から落ちてしまう。慌てて駆け寄ろうとするミライに「まだ戦闘中よ」となぜか冷たいセイラ。ジョブ・ジョンに抱えられてブライトは医務室に運ばれた。
ガンダムを整備中のアムロとハヤトは交換パーツが見当たらないため確認しようとブライトのいるブリッジへ向かうが、ブライトは医務室に運ばれたあとだった。アムロは医務室へ足を向けるが、ブライトとともにミライがいるのを見ると、何も聞かずに立ち去ってしまう。前回のリュウのことが心にあり、おそらくブライトにこれ以上の負担をかけるわけにはいかない、と思ったのだろう。
ガンダムのパーツがどこにあるか、まで管理しているブライトというべきか、あるいはそこまでブライトに任せきりにしていたその他のクルー、というべきなのか。ガルマ・ザビ隊、ランバ・ラル隊を撃破して「戦える部隊」として認識されつつあったホワイトベースだったが、組織としてはまったく未熟であることがうかがえる。艦長代理の立場にあるミライもまた、ブライトに依存し切っている。医務室でブライトを看病する彼女に対して「こんなときいないと困るのよね、サンマロに任せておけばいいのに」と冷ややかなセイラだが、セイラの視線はミライの弱さを浮き彫りにする役割を果たしている。
そんな、指揮官不在のホワイトベースを、罠にかけようとしているのがジオンのマ・クベ大佐であった。木馬の立体攻撃に悩まされ、ボーキサイト採掘基地の一つを失ったことに憤りを隠せずにいたのである。その作戦は、これまでにも見た覚えのある「時限爆弾」貼り付け作戦だったが、狙ったのはミノフスキー粒子の射出口とECM発信機(電波妨害装置)のみ。敵の探知機に対して完全に無防備になってしまったが、レーダーは無事で、マーカーは「なぜ一緒に破壊しなかったんでしょうか」と疑問を口にする。
そこに重要なヒントがあるのだが、ブライトの代わりを任されたミライに、その疑問をすくい取り考える余裕はない。そしてその場しのぎのちぐはぐな指示に、アムロらは翻弄させられることになる。
そのミライの指示は…
①ドップ編隊襲来
→ アムロ・ハヤトにコアファイターで出撃するよう命じるが、数が多すぎて対処できず
②さらに15機のドップが襲来
→ ガンタンクを後方に降ろして守らせてはどうかしら? とセイラに持ちかけ「そんなことできるわけないでしょう」と却下される。セイラがアムロとハヤトにホワイトベースの援護を要請
③コアファーター2機では対処できず
→ガンダム、ガンタンクのパーツを射出するよう指示を出す。コアファイターを発進させたのが間違いなら、正しい方へ変更するのが目的だというが、戦闘中に空中換装?とアムロは困惑。セイラの助言で、アムロは空中換装、ハヤトはホワイトベースで換装することに
④脱出路を探させるミライ
→ 右70度方向が比較的手薄、というマーカーの情報に飛びつき、その方向へ進路を取る。結果的に、マ・クベの包囲網にかかってしまう
と、敵戦力、戦況、そして何より敵の意図を見抜いて的確に対処する、という指揮官に求められる能力を、何一つ発揮できないミライの有様から、逆説的に、アムロやカイなど、日頃から口やかましく煙たい存在であるブライトの、指揮官としての能力の高さを表現している、といっていいだろう。
しかし、それよりも印象に残るのは、リュウ・ホセイの不在である。指揮官不在の混乱の中で、みなが口々に言うのは「こんなときにリュウがいてくれたら」という言葉であった。実質、ホワイトベースにはブライトとリュウ、他整備関係にもとから正規のクルーだった軍人がいるのみで、そもそも何の訓練も受けていないミライが艦長代理ということ自体に無理があるのだが、ブライトを支えみんなが頼りにしていたのはリュウだった、ということを浮かび上がらせるために、今回サンドバッグ状態にされてしまった感があるのは少しかわいそうな感じがする。
そんなミライにとどめを刺すのは、「あなた、逃げることしか考えないの?」というセイラの一言である。ガンダムの整備と補給が追いつかない中、射出口から敵のメガ粒子砲を狙うアムロの攻撃、マーカーの発煙筒を使って偽装する機転などにより、辛くもマ・クベ包囲網を脱するが、満身創痍のホワイトベースがこの先どうなるのか、不安なまま幕を閉じる一話となった。
この一言! 「襟を直したまえ、連邦軍のカラーが見えているぞ」
22話は、ミノフスキー粒子の射出口とECM発信機(電波妨害装置)を破壊され、敵にその動きが丸見えになってしまったホワイトベースが、レーダーだけは破壊を免れ、敵の動きは察知できるという状況に陥ってしまったことで、敵の手薄な方向へ進路を取るだろうことを見越して待ち伏せ攻撃をする、というマ・クベの作戦にはまってしまったホワイトベースの惨敗ぶりが描かれるが、そんな中、本筋には絡まないエピソードに注目してみたい。
中央アジアの鉱山を手中に収めていたマ・クベだが、ホワイトベースの攻撃により重要な採掘基地の一つを失ったことで、痛手を被っていた。そんなマ・クベ大佐と面会しているミスター・ジュダックと呼ばれる士官に、エルラン少将への伝言を言い渡す(ちなみに諸資料ではエルランは中将となっているが、このときは少将。オデッサ作戦直前に昇進したようである)。明日1日、東ヨーロッパ戦線に配備した連邦軍の動きを極力抑えるように、という内容だった。
そして、立ち上がり敬礼したジュダックに言うのだ。
「襟を直したまえ、
連邦軍のカラーが見えているぞ」
この場面に注目したのは、一つには、見るものの読解力がためされる場面である、ということ。そしてもう一つは、この先の展開への伏線である、ということである。
一つ目についていうと、ジュダック、エルランという初出の人物の説明がまったくないので、エルランというのはジオン軍の将校なのかなと最初は思うが、「連邦軍のカラーが見えている」というマ・クベの一言で、ジュタックが、実は連邦軍の制服の上にジオン軍の制服を重ね着している、つまり「スパイ」であることを暗にほのめかしていること、そして伝言先のエルラン少将は連邦軍の将校で、どうやらジオンに内通しているらしい、ということが、それとなくわかるようになっている。短い対話のワンシーンで、複雑な状況を感じさせるテクニックが秀逸である。
もう一つは、オデッサ作戦へのホワイトベースの参戦、という今後の展開が示されている中で、このワンシーンにより、一筋縄ではいかなさそう、という先の読めなさが加味され、不甲斐ないホワイトベースの戦いぶりと相まって、不安感が増長されるという点である。これは、この先の展開への伏線なのだが、基本的に一話完結の話の多かった当時のロボットアニメにおいて、ことにユーラシア大陸を横断する16話以降、「この先どうなるんだろう?」と思わせる連続性のある展開となっていて、中だるみしがちな中盤において、見るものをぐいぐいと引きつける。アムロの脱走であらわになった、ホワイトベース内の不協和音が、ランバ・ラル隊との死闘とリュウの死によって乗り越えられようとしているとき、次にもっと大きな連邦軍上層部の不協和音を予感させる場面が挿入されることで、「ただでば済まない」緊張感が、継続していくのである。
それにしても、連邦軍の将校さえ手玉に取るマ・クベという人物。只者ではない。デビュー間もない塩沢兼人の怪演と相まって、作品中でも一、二を争うインパクトを視聴者に与えたのではないだろうか。ファーストガンダム放映後の翌年、同じくティーンエイジャー向けに制作された「宇宙戦士バルディオス」では主役のマリン・レイガンを演じ、影のある主役キャラという全く違った役柄で演技の幅を見せてくれている。