機動戦士ガンダム 全話レビュー第32話「強行突破作戦」
あらすじ
ザンジバルの追撃を何とかしのいだホワイトベースは、アムロとセイラを休ませて、ハヤトのガンキャノンを出して警戒にあたらせていた。ザンジバルでは、トクワンの仇を討とうと、デミトリーがモビルアーマー・ザクレロでシャアの許可なく発進する。一方シャアはドレン大尉のキャメル艦隊と連絡をとり、ホワイトベースを挟撃する作戦に出ることにした。
脚本/松崎健一 演出/関田修 絵コンテ/ 作画監督/富沢和雄
コメント
ホワイトベースがベルファスト基地を出たあとから顕著になるが、毎回、すぐにヤラれてしまう1機限りのヘンテコな敵メカが登場する。それをアムロが適当にやっつけるというロボットアニメの体裁を取りながら、だんだんと話は新たな展開へと舵を切っていく。
前回から、クローズアップされているのが、シャアとセイラの関係である。宇宙に出る前後から、Gアーマーで共に出撃するようになったアムロとセイラとの、ちょっとしたやりとりも、二人の関係に生じている変化を感じさせて面白い。劇場版ではセイラの搭乗機がコア・ブースターに変更されており、こうしたやりとりもカットされているために、アムロとシャアとの因縁も「ララァという女性をめぐって」と単純化されてしまったと思う。ここから繰り広げられてゆく、複雑な人間心理を楽しむ意味でも、ぜひ「ガンダム」はテレビ版を強く推していきたい。
何とか、シャアとの遭遇戦を切り抜けたホワイトベースだが、敵からは、さらに1機のモビルアーマーが接近してくる。ガンダムに撃墜されたトクワン大尉の敵討ちをしようと、シャアの許可なくデミトリーが勝手に出撃してしまう。対するホワイトベースでは、アムロ、セイラを休ませるため、ブライトはハヤトをガンタンクで出撃させる。が、敵のモビルアーマー、ザクレロに苦戦するハヤトを援護しようとアムロが出撃、難なく撃墜するが、ガンダムの右腕を損傷してしまう。
当面の敵は片付けた、と一息つくスレッガー中尉にに対し、アムロは「中尉はシャアという人を知らないから、そんなこと言うんです。あの人、すぐに次の手を打ってきます」と警戒を怠らない。そんなアムロに休むようにすすめるセイラだが、アムロはセイラがスレッガーと二人きりなるのを気にする様子を見せる。一人になったセイラは「ことごとに、兄さんか」と、つぶやく。
あっという間に1機のモビルアーマーを失ったシャアだが、彼は次の作戦を考えていた。副官ドレン大尉が率いるキャメル艦隊を呼び出し、ザンジバルとキャメル艦隊で木馬を挟撃しようというのである。
後ろにザンジバル、前にムサイか。強行突破しかないな。全員、第一戦闘配置だ
いいか、シャア大佐と同じ戦法を取る。リック・ドム6機とキャメル、トクメルは木馬に攻撃をかけるぞ。各機最大戦速!
適当なやられメカが消えた後のここから、ボルテージが上がってゆく。
ここで今回、予備のGファイターに搭乗して初出撃を果たすのが、スレッガーである。高速戦闘になることを見越して、1機でも多い方がいいとブライトが判断したためである。セイラも出撃するのだが、「気分がくさくさしているから、暴れてさっぱりしてくる」 などと、いつになく荒れた様子で、思わずアムロが「おかしいですよ?」と突っ込むほどである。
前方のムサイの艦隊に対して強行突破を試みる木馬の作戦を見抜いたシャアは、ドレン大尉が木馬を足止めしてくれると信じて、木馬を追い込もうとした。しかし、シャアは自らの予想を超えて木馬の実力が確実にアップしていることを知ることになる。
パイロットとしてもいいところを見せてやらにゃあな、と意気込むスレッガーは、カイやハヤトに先んじて発砲し、戦端を開いてしまう。
カイ:スレッガーさんかい、早い、早いよ
ハヤト:こういうとき、あわてた方が負けなのよね
とすでに手慣れの感が出てきたカイとハヤトだが、足の遅いガンタンクがカイとスレッガーに置いていかれるのを見たセイラは、それでは勝ち目がなくなる、とハヤトに話しかける。そしてハヤトとともに、カイ、スレッガー機の後ろにつくことにした。
それが功を奏し、カイがリック・ドム1機を撃墜した後、すぐに迫る僚機2機をセイラが撃墜し、彼らはチームとして機能しはじめていた。
右手の修理に手間取っていたガンダムも遅れて出撃するが、そのときには、リック・ドム隊は数を減らされており、ホワイトベースとムサイとの艦砲戦に入っていた。トクメルのムサイが沈み、押され気味だがドレンは「シャア大佐が来るまでに木馬をやっつける」と意気込む。
しかしブリッジに近づいてきたリック・ドムから「ガンダムがいないそうです‥‥やつは、ガンダムを見てないといっています」と伝えられた直後、彼のいたムサイのブリッジは、ガムダムのビームサーベルで切り裂かれた。さらにアムロはリック・ドム1機を撃破、残り1隻となったムサイにビームジャベリンでトドメを刺した。 そのときの「ガンダムだ、あの白いやつだ‥‥」という最後の一言、これが、白いやつ=ガンダムの脅威的な強さ、を表現する最初の一言だったのではないか。
そして、気づくのである。最初にシャアと宇宙で対戦したときと、ちょうど真逆の立場になっていることを。通常の3倍のスピードで近づくザクに驚いたのはアムロたちだったが、今は白い奴がシャアの側を脅かすようになったのだと。
結局、ドレンの艦隊は、シャアのザンジバルが到着するまで持ち堪えることはできなかった。そして、この戦闘の最中、ジャブローからはティアンム艦隊がルナツーに向けて発進し、ホワイトベースはまさに、囮としての役割を見事に果たしたのだった。
このままの進路を取れば、いずれシャアのザンジバルと遭遇する見通しが出たことから、ブライトは、修理と補給のため、中立サイドである<サイド6>へ進路を取ることにする。 そのブライトの決定に、なぜか躊躇するミライ、これからまた、人間関係に何か波乱がありそうである。
この一言! 私は認められない、兄さんのやり方
ジャブローの地下空洞で、実の兄、シャア・アズナブルと再会し、その真意を知ったセイラ。シャアは妹に、軍を離れるように告げて立ち去るが、それが、かえってセイラの心に火をつけてしまったようである。
31話では、アムロとともにGアーマーで出撃した際、「アムロ、あのモビルアーマーのパイロット、どういう人だと思って?」と問いかけアムロに不審がられていたセイラだが、一人で休息をとっている間にまどろみ、夢を見る。そこに出てきた兄、シャアはこう叫んでいた。「アルテイシア、私はザビ家を許せないのだ、私の邪魔をしないでくれ」と。
彼女は悟ったのだ、兄がジオン軍にいる理由は、ザビ家への復讐に違いないことを。そして、こうつぶやく。
「私は認められない、兄さんのやり方」と。
セイラと同じように、シャアも連邦軍に入ってジオンと戦う、そのことによってザビ家への復讐を果たす、ということもできただろうが、そうしなかったのは、ジオン軍にいて戦功を上げた方が、はるかにザビ家の面々との距離を近づけることができる、という計算があったからだろう。そして、それを「認められない」とセイラが強く思うのは、それが兄であるシャアの、ザビ家に対する個人的な恨みにすぎない、ということがあるだろう。父、ジオン・ダイクンの教えていたことから、外れた行いだと感じているのかもしれない。また「赤い彗星」と異名を取るほどのパイロットであるシャアを相手にすることによって、自分の仲間たちが命の危険にさらされていることを、心苦しく思っている、ということもあるだろう。本当は、戦うべき相手ではないのに。
このように捉えると、次の場面でのアムロとの会話への理解が、より深くなると思う。損傷したガンダムの右腕の補修について指示を出すアムロに「ちょっといいかしら」と声をかけたセイラは、こう切り出す。
あたしね、どうしたら早くいいパイロットになれるかしら。
セイラさんは今でもいいパイロットですよ。
お世辞はやめてよ、アムロ。あたしは、どうしても生き延びたいんだから。
おかしいですよ、急に。
私だって、シャアぐらいと。
無理です。そりゃザクタイプのときには僕でも戦えました。でも、今は‥‥
たとえ話よ、アムロ。私があなたみたいならね。
ここで注目したいのは「私だって、シャアくらい」というセイラの言葉である。シャアくらい、何なのだろうか、最後まで言わせずアムロは「無理です」と言い切っているが、ここはもちろん「シャアぐらい撃墜したい」と言わんとしているとみていいだろう。兄さんのやり方を認められない、と言い切った彼女は、それならばむしろ兄を止めたい、撃ち落としてでも‥‥、という強い意志を持ち始めたのではないだろうか。
しかも、最後にはアムロに「私があなたみたいならね」と煽ることさえしている。そしてそれは、「僕がガンダムを一番上手く使えるんだ」という矜持を持って戦ってきたアムロの心にも、火を点けることになったかもしれない。
もし、そのままの流れでいけば、やがてシャアとアムロとの間で板挟みになってしまいそうだが、さて、どうなるのだろうか。
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