機動戦士ガンダム 全話レビュー第29話「ジャブローに散る!」
あらすじ
ホワイトベースを追尾するシャアは、ついに連邦軍本部ジャブローの発着口の場所をつきとめた。ジャブローの地下基地に入ったホワイトベースは、ウッディ大尉の部隊の整備を受ける。彼は、先に戦死したマチルダ中尉のフィアンセであった。北米基地に、ジャブロー攻撃のための援軍を頼んだシャアは、先発隊を潜入させた。この先発隊のゾックが金属反応によりジャブローの出入り口を発見、モビルスーツによる総攻撃をかける。
脚本/荒木芳久 演出/貞光紳也 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和
コメント
ようやくのジャブローである。振り返ってみれば、ジオン軍に急襲されて命からがらサイド7を脱出して、目指していたのはここだった。地球を一周、逆回りしてようやく辿り着くのだ。しかし、サブタイトルは「ジャブローに散る」。ここへ来て、一体誰が散るというのだろう。心をまっさらにして、そういう視点で改めて見ると、ハラハラするのがこの回である。
「間違いありません、木馬はジャブローに向かっています」という部下の報告に、「スパイの情報通りだ。逃すなよ」とほくそ笑むシャア。前話では、ここまで連れてきてくれたありがたい木馬様を、副官ブーンの「仇を討ちたい」という言葉に絆されて撃ち落とそうとしていたことを考えると、つくづく場当たり的に、最大限自分の益になりそうな選択をする人、という印象は否めない。
そんなシャアに付けられているとは知らないホワイトベースは、ジャブローの秘密の入り口に向かって、川面上空を超低空で進んでゆく。その前を横切る蝶の大群に思わず声を上げるクルーたち、安堵の表情の彼らはもとの少年少女の表情を取り戻したかのようにも見える。
そんな中、一人物思いに耽っているのがカイ・シデンである。ミハルを死なせてしまったことを、まだ思い悩んでいるのだろうか。
いやな予感がする。
一方、マッドアングラーでは、木馬の反応が消えたことで「ふっふっふっふっ、ついにジャブローの最大の出入り口をつきとめたというわけさ」と、シャアが盛大にほくそ笑む。そして、ジャブローを基地もろとも、叩き潰すと宣言するのだった。
となると、散ってしまうのは連邦軍なのだろうか。しかし、ここであまりいやな予感がしないのは、なぜだろうか。
無事ジャブローの宇宙船用ドックに入ったホワイトベース、その傷み具合を「ホワイトベースこそ、実戦を繰り返してきた艦だからな」と好意的に受け止める士官に目が留まる。ウッディ大尉である。彼はブライトに、アムロがいるかどうかを尋ね、彼を一眼見て「彼がアムロ・・・あんな少年とは」と瞠目した。
君がガンダムのパイロットなのか? マチルダから聞いてはいたが・・・
マチルダさんから?
まさか、ここでマチルダの名前が出てくるとは・・・またもや、いやな予感がする。 身体検査のあと、案の定マチルダの名前が出てきたことが気になったアムロは、ホワイトベースの修復作業を指揮するウッディ大尉のもとを訪れる。そこで、彼にとっては衝撃的な言葉を聞くことになるのである。
すいません。大尉はマチルダ中尉とは・・・
彼女とは、オデッサ作戦が終わったら、結婚する予定だったんだ
ご結婚を?
そのときはホワイトベースの人もジャブローにいるだろうから、
式には出てもらおうとマチルダは言っていた
そ、そうだったんですか。そんなことがあったんですか。
ここで早くも、ジャブローに散った心がひとつある。たとえその命を散らしたとしても、あるいはだからこそマチルダはアムロにとって永遠の恋人になるはずだった。だが、彼は、自分に向けられていた眼差しが、どういう意味合いのものだったのかを知ったのである。
このあとに続くウッディ大尉とのやりとりで、アムロはその矜持をズタボロにされてしまうのであるが、そのことについては後に詳しく取り上げることにしよう。
もう一人、思わぬところに、衝撃を受けている者がいる。ブライト・ノアである。ミライ・ヤシマとともに軍の高官の面接を受け、今後のホワイトベースの任務について聞かされたのだが、ここまでの経過について、処罰はしない、ミライさんの父上への恩返しにしよう、といわれ気分を害した様子である。ミライの父は、地球連邦の有力な政治家だったようなのだ。
ブライトが、ムッとしたのはなぜだろうか。ミライが政治家を父にもつ良家の子女であったことを知らなかったからだろうか。そうれもあるかもしれないが、先にウッディと対面したとき自らを「ホワイトベースの責任者」と名乗った彼の、素人集団を率いてここまで戦い抜き、戦果を挙げてきたという実績が一顧だにされなかったことに、愕然としたのではなかっただろうか。
のちに、ジャブローにシャアが攻撃を仕掛けると、高官らは「ホワイトベース、つけられましたな」「永遠に厄介者かな、ホワイトベースは」と、その本心をあらわにしている。そしてホワイトベースへの情報を遮断するという陰湿さを発揮し、さらにブライトを苛立たせることになるのである。
シャアの側では、ジャブロー総攻撃の準備を整えているが、ゾックという、どう見ても有能とは思えない水陸両用モビルスーツが届られたほか、北米・キャリフォルニアからの援軍は思ったほどには期待できない様子である。しかしジャブロー側が静かなる不協和音を奏でている間にも、刻一刻と迫っていく。ここで散るのは、あの傲慢きわまる連邦軍の高官たちなのか。だが、シャアらは気づかれていないと思っているが、実は連邦軍本部の側では、しっかりとシャアらの侵入に気づいていたし、シャアが2機のズゴックを随伴してようやく赤いシャア専用ズゴックで出撃したあと、ジャブロー入り口に辿り着くわずかの間に、随伴2機が次々に連邦軍に撃墜されており、そうは言っても連邦軍の優秀さは侮れないというべきであろう。むしろ、あまりに早くズゴックが落とされたので、ここで散るのはシャアなのか? と思ってしまったほどである。
参謀本部から情報を得られないまま、ジャブロー入り口の警備という名目で、ブライトはアムロとセイラをGブルで、カイをガンキャノン、ハヤトをガンタンクで出撃させる。
そのとき、コクピットに乗り込んだカイはつぶやく。
こんなところまで追いかけてくるのかよ、ジオンめ
ミハル、もう俺は悲しまないぜ、
おまえみたいな子を増やさせないために、ジオンを叩く。徹底的にな。
ここまでずっと、戦いからは逃げ腰だったカイが、はじめて闘志を見せるのが、この場面である。ミハルとの出会いによって、彼は自分以外の命を救うために戦う、という自分なりの使命を持つに至った。その意味で感動的なセリフではあるが、同時に、いやな予感がする。だいたい、仇を討とうと決意すると、その人は死んでしまうというのが本作のセオリーだからだ。
しかし、いよいよシャアがホワイトベースのいる宇宙船用ドッグの入り口を突破し、「マチルダが命をかけて守り抜いたホワイトベースを、私の前で沈めさせることはできん」とウッディ大尉が叫んだとき、ここまで積み重ねられてきた、すべてのいやな予感は吹き飛んで、「あっ!」という驚きに変わる。ここで散るのは、彼だったのだ、と。
素早い動きを見せる赤いモビルスーツを追うアムロのガンダム、その脇をすり抜けてゆくホバークラフトに乗っていたのはウッディ大尉だった。コックピットで3度目のほくそ笑みを見せるシャア、赤いズゴックの不敵な振る舞いと瞬殺されるジムを見て、「まちがいない、やつだ、やつが来たんだ」とシャアの復活を確信するアムロ。
再び対峙することになった宿敵だったが、その間に飛び込んでいったのが、ウッディ大尉だった。
その振る舞いといい、あっけない最期といい、マチルダと通じるものがあるのがなんとも悲しいが、ブライトが憤っていたように、参謀本部がホワイトベースに情報を与えず、ブライトらが独自の判断で出撃したことがウッディ大尉らに伝わっていなかったことも、彼が防戦のため飛び込んでいくことになった要因の一つではないかと思う。
ある意味、ウッディ大尉に「男の生き様」を見るような話ではあるが、そこに「わかり合えない人たち」の奏でる不協和音」が流れていたことも、覚えておかねばなるまい。
ホワイトベースのブリッジに戻ったアムロは、ブライトにウッディ大尉が死んだことを報告する。そしてもう一つ、何気なくこう付け加えた。
あ、シャアが帰ってきました
その言葉を聞いたセイラの手から、持っていたグラスがすべり落ち、そう、ジャブローに砕け散ったのである。
この一言! うぬぼれるんじゃない、アムロ君。ガンダム1機のはたらきで、マチルダが助けられたり、戦争に勝てるなどというほど、甘いものではないんだぞ
今回、ウッディ大尉の命のほかにも、ジャブローではさまざまなものが散った。その一つが、アムロの憧れであり初恋の人、マチルダへの一途な思いだったわけだが、続く会話で、ウッディ大尉はさらにアムロの心を粉々にした。その場面を振り返ってみよう。
アムロはウッディ大尉に、「お休みにならないんですか? ・・・お手伝いできることがあればと思って」と声をかける。この近づき方は、思えばマチルダに最初に声をかけたときとよく似ている。マチルダに声をかけたとき、彼はブリッジに行く近道を案内した。今回は、ホワイトベース(と、ガンダム)の修理を手伝おう、と言っているが、いずれも、自分の方がこの艦、この機体のことをよく知っているという自信から出ている言葉である。
このあと、アムロは気になっていたマチルダのことをウッディに問いかけ、彼がマチルダと婚約していたことを知る。そしてアムロはこう言った。
すいませんでした、ウッディ大尉、僕がもっと、もっとガンダムを上手に使えれば、マチルダさんは死なないで済んだんですよね。すいませんでした。
これはアムロの立場から言える、精一杯の哀悼の意をこめた言葉だっただろう。振り返ってみれば、マチルダの散った戦場を去るとき、ホワイトベースの艦上で敬礼しながら、セイラがつぶやいていた言葉もこれと似ていた。「私が不慣れなばかりに。すみません、マチルダさん・・・」
リュウが戦死したときもそうだったが、アムロをはじめホワイトベースの面々は、いくら最前線で戦い抜いてきたとはいえ、正規の軍人ではなく、なんとかうまく生き延びてきた素人集団にすぎない。そんな彼らが、大切な人を失ったとき自らの力不足を悔いるのは、自然な心模様といえよう。
だが、職業軍人であるウッディ大尉は、そうは捉えなかった。そして、こういう言葉を返すのである。
「うぬぼれるんじゃない、アムロ君。ガンダム1機のはたらきで、マチルダが助けられたり、戦争に勝てるなどというほど、甘いものではないんだぞ」
実際にこれまでの戦いの軌跡を見てみれば、ガンダム1機のはたらきでピンチを脱したことは少なからずあったし、そのことが、アムロ自身の矜持になっていたことも確かなのだが、ウッディ大尉はそれを自身の力に対する過大評価と見做して、彼を叱責したのである。
裏を返せば、所詮君は一兵卒なのだから、戦況に対する責任を負う必要はなく、ただ淡々と己の役割を果たせばいい、と言っているようなもので、これは、これまで精一杯の重荷を背負って戦ってきたアムロにとっては、心がバキバキに折れてしまう一撃になったのではないだろうか。
そしておそらくは、この一言が、アムロを「戦いの道具」とでもいうべき立場へ自ら追いやっていくことにつながっていくことになるだろう。
と同時に、主役ロボ1機のはたらき、宇宙戦艦1隻のはたらきで地球を侵略者から守ってきた従前のロボットアニメや某SFアニメに対する宣戦布告ともとれる発言で、それなら本作のラストはどうなるのか、と、別の期待が高まる一言であるとも言える。
このように言い放ったウッディ大尉だったが、シャアがジャブロー内に侵入した際には、まったく戦力になるとは思えないホバークラフトで出撃し、自分一人の活躍でホワイトベースを守ろうとした。彼はシャアのズゴックに特攻する気だったのかもしれないが、ビューンと伸びたズゴックの腕でコクピットを払い落とされ、あっけない最期を迎える。1機のはたらきで勝てる戦いはない、ということを、身をもって教え散っていったのであった。
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