機動戦士ガンダム 全話レビュー第33話「コンスコン強襲」
あらすじ
中立コロニー<サイド6>に向かうホワイトベースの動きを受け、ジオン軍宇宙攻撃軍司令のドズル・ザビ中将は、ソロモンからコンスコンの機動部隊を出撃させる。ドズルは、弟ガルマを守れず幾度となく木馬を取り逃がしているシャアの無能さを、キシリア少将の前に明らかにしたかったのだ。<サイド6>で、ミライは婚約者と再会。一方食料品の買い出しに出たアムロは、街角で思いがけなく父テムを見かけ後を追いかけるが‥‥。
脚本/山本優 演出/貞光紳也 絵コンテ/ 作画監督/中村一夫
コメント
タイトルは「コンスコン強襲」だが、それだけでは収まらない、ものすごく密度の高いお話である。理由の一つには、次回34話が、一つの大きなターニングポイントになることから、どうしてもその前に描いておきたいことをここに入れる、ということがあったと思う。もう一つは、おそらくは打ち切りの影響が出始めていることがあるのではないかと思う。
もともと全52話で制作が進められていた「機動戦士ガンダム」だが、超合金玩具の購買層である小学生以下の子供にはあまりにも難解なストーリーであることから視聴率も玩具の売り上げも振るわず、中途で打ち切りが決定し、43話に短縮されるという憂き目にあっている。当時のアニメ雑誌記事によれば、ガンダムの終了が決定したとして行われた富野監督のインタビュー記事の日付が昭和54年10月8日となっている(「アニメック第16号ガンダム大事典 P67)。テレビでは、東京地区で第26話「女スパイ潜入!」が2日前に放映されたというタイミングである。実際に構想より話が短縮されるのは37話からだが、作話には、その影響が徐々に出始めているとみてもいいのではないだろうか。
そんな事情は置くとして、今回は大きく3つの、どれも重要な見所があることを指摘しておこう。一つ目は、ミライ・ヤシマと婚約者カムラン・ブルームとの関係のゆくえ。二つ目は、行方知れずだった父と再会したアムロ。そして三つ目は、異常なほどの強さに進化しているホワイトベース隊、である。
ドレン大尉の艦隊を退けたホワイトベースは、補給と修理のため中立コロニー<サイド6>に寄港する。その動きをつかんだドレン・ザビ中将は、宇宙要塞ソロモンからコンスコン機動部隊を発進させた。永井一郎のナレーションで、そのドズルの胸の内が明かされる。狙いはもちろん、木馬=ホワイトベースである。
一方、ホワイトベースは<サイド6>の領空に入る手前でGアーマー、ガンキャノンを出してパトロールが行われていた。ここで、毎度お馴染み変てこメカが登場し、番組開始から5分で片付けられるのだが、その前のアムロとセイラの会話が何気に意味深なので、ここに挙げておこう。
ねえアムロ、あなたフラウ・ボゥのことどう思ってるの?
え、な、なぜですか?
なぜって、あなた最近フラウ・ボゥに冷たいでしょ?
そんなことないですよ?
そうかしら? こんなときだからこそ、友情って大切よ?
別に嫌いになっているわけじゃあ‥‥
この会話の意味は、どうとでも捉えられる。あの子のことどう思ってるの? と聞かれたら、普通は「恋愛感情」のことと思うだろう。アムロが思わず「なぜですか?」と聞き返したのも、そういうふうに受け取ったからだと思う。それを、セイラは「友情って大切」という話にすり替えているが、そこには何か意図があるのかどうか。これだけではよくわからない。ただ、自分がアムロと組んで出撃するようになったことで、彼とフラウとの関係が悪くならないように気を使っていると見ることもできるし、のちにみるように、彼の父のようにアムロも何かに没頭すると、人との関係が疎かになる傾向があることを、さりげなく指摘しているのかもしれない。セイラもまた、アムロのことを気にしているとは言えるだろう。
そこに襲ってくるのが、ジオンのモビルアーマー「ブラウ・ブロ」である。どうやらテスト中に故障した様子だが、アムロらに発見されたため攻撃してきたのである。本体の位置とは別の場所から攻撃してくることに気づいたアムロだが、あっという間に本体を見つけて撃破してしまう。
こうしてアムロらが帰還し、ホワイトベースは<サイド6>領空に入った。そこへ登場するのがカムラン・ブルーム検察官である。戦争行為は一切禁止、修理も補給もできないという説明を受けたブライトは、彼をブリッジに案内する。そこで婚約者であるミライ・ヤシマと図らずも再会を果たすのだった。
船を降りたミライは、その場でカムランとの再会を喜び合うのだが、その表情は思いの外浮かない。カムランの話から、ミライは父の死後<サイド7>に移民したこと、そのことをカムランに知らせなかったことがわかる。そしてカムランは言う。
君の消息を知るために、僕は必死だった、必死で探させた、いくら費用がかかったか知れない。
ミライの表情が曇るのは、ここである。
なぜ、ご自分で探してはくださらなかったの?
このサイド6に移住する間際だったから、とその理由を説明するカムランだが、その理由は明白だろう。彼と家族は戦災を避けるために<サイド6>にやって来たのだ。彼は、ミライの行方を探させた、とはいうものの、なぜホワイトベースに乗って軍人になったのか、とは聞かない。何一つ、彼女の「その後」を尋ねようとはしていない。おそらくミライは、親の決めた結婚相手が自分をどう思っているのか知りたくて、わざと行き先を知らせずに<サイド7>に移民したのだろう。いってみれば、彼の愛を試したのだ。そして、その答えは彼女の期待していたものとは違っていた。
二人の様子を訝しんだスレッガー中尉が、強引に誘おうとするカムランからミライを庇おうと介入し、その場は収まる。だが。亀裂の入った二人の関係は、もう元へは戻らないのだった。
この次に繰り広げられるのが、アムロのドラマである。食料品の買い出しに出た先で、思いがけず、アムロは<サイド7>で行方不明になっていた父の姿を見かけ、後を追う。コロニーに開いた穴から吹き飛ばされてしまった父が、生きていたとは驚きで、アムロはその再会を喜んでいたことは間違いない。だが、それはすぐに失望に変わる。父の様子が、変だったのだ。
アムロか、ガンダムの戦果はどうだ、順調なのかな
と、どう見ても、生き別れかと思った息子と再会したようには感じられず、まるで昨日もその前も、ずっと一緒にいたかのような様子だったのだ。
父が住み込みをしているというジャンク屋の一室で、アムロは父から、新開発のすごいメカをガンダムに取り付けろ、と押し付けられる。
こ、こんな古いものを、父さん、酸素欠乏症にかかって
そのメカがどんなものかを即座に見てとり、父に酸素欠乏症による障害が出ていることを悟るあたり、メカ好き少年の面目躍如ではあるが、アムロがショックを受けたのは、おそらく、父が変わってしまったことではないだろう。気づいてしまったのだ、変わってしまったあとでも変わらない父の姿に。
ホワイトベースに戻ったアムロは、ホワイトベースの護衛を命じられる。ベルガミノという人物が同乗しており、彼の所有する浮きドックで修理が受けられるというのだ。彼はカムラン・ブルーム検察官から依頼を受けたのだという。ミライの船を守ってやろうとする、彼の心遣いだったのだろう。だが結果的には、それが裏目に出てしまった。 ドズル中将が派遣したコンスコンが潜伏させていたリックドムが、出てきたホワイトベースを見つけ、浮きドック内部から攻撃を仕掛けてきたのだ。罠だったのか、と疑うブライトに、ミライは「ブライト、カムランはそんな人じゃないわ」と反論するあたり、彼女はその思いを汲んでやいるのだろう。
コンスコンはリックドム12機を発進させ、ホワイトベースとの間で戦闘となる。ここでアムロはまるで何かに覚醒したかのような動きを見せ、一つ、二つ、と数えながら、リックドムを次々に撃墜していく。その数は九つまで数え上げられ、コンスコンは絶望の声を上げた。
全滅?12機のリックドムが全滅?3分もたたずにか‥‥化け物か
そこへ、シャアのザンジバルが現れ、ミライの進言でブライトはホワイトベースを<サイド6>領空に下げるのだった。
ザンジバルが攻撃してこなかったのは、これ以上の戦闘をやめさせようと、カムランがパトロール艇で間に入ったこともある。が、その思いがミライの心に伝わることはなかった。
正味24分という時間の中で繰り広げられるこのドラマは、そのセリフの一言ひとことの意味するものの重み、そしてキャラクターそれぞれの言葉によらない思いの表現が溢れ出て、これだけでは語り尽くせないほどの中身の濃い一話に仕上がっている。屈指の名エピソードとして挙げられる第13話「再会、母よ」と双璧をなす、あるいはそれ以上に、本作のエッセンスが詰まった一話ではなかっただろうか。
それは、この中で描かれる、二つの「別れ」の語るものが、作品全体の底流となるテーマにつながっているからである。
そのことについて、次に掘り下げてみようと思う。
この一言! そうじゃないの、ホワイトベースを捨てる私に、あなたは、あなたは何をしてくださるの?
父と再会したアムロ、そして婚約者のカムランと再会したミライ。二人がそれぞれに抱くのは、一言でいえば「ああ、やっぱり彼はそうだったのか」という失望である。では、二人は何に失望したのか。そして、それはどんなことにつながっていくのか。その底流となるものを、見てみよう。
まずは、アムロである。父の様子がおかしいことに気づいたアムロは、父から手渡されたメカを見つめつつ、こう切り出す。
父さん、ぼく、国で母さんに会ったよ
しかし、父は何の反応も示さなかった。
父さん、母さんのこと気にならないの?
アムロは、父が自分のことも、母のこともまったく気にかけていない様子に、気づいたのだ。それに対する父の反応も、彼の気持ちを和らげることはなかった。
う、うーん。戦争はもうじき終わる。そうしたら地球へ一度行こう。
ここで沈黙してしまったアムロの心には、一体何が去来していただろうか。地球で再会したものの、その手を振り切ってきた母のことではなかったか。母と再会したとき、アムロは気づいてしまったのだ。幼い息子と別れて地球で暮らすことを選んだ母にとって、自分はそれほど大切な存在ではなかったことに。
そしてまた、ここでも気づいてしまった。生き延びるために自らの手を汚してまで必死で戦ってきた息子のことよりも、父は自分の仕事の成果の方が大事なのだと。外の世界を知らずにいたときには、自分なりに幸せな境遇にいると思っていた家族の間に、愛と呼べるようなものがなかった、ということに。
第1話で、避難民より先にガンダムを搬出しようとした父に、アムロは言った。 「父さんは、人間よりモビルスーツの方が大切なんですか?!」
その時の問いの答えを、彼は得たのだ。
そんなアムロの心の変化は、ホワイトベースを護衛するため出撃したあとのスレッガーとの会話に表現されている。
よう、アムロ。少しは元気になったか?
ずっと元気です
いい子だ
その、いい子だっていうの、やめてくれませんか
仕事に忙殺され息子を放任してきた父、宇宙には馴染めないからと、息子と離れて地球に住むことを選んだ母。その二人の前で「いい子」であろうとした自分だったが、自分がいい子であろうとしたほどに、父も母も、自分にとっていい親であろうとはしてくれなかった。それが、彼の感じた失望ではなかったか。
そして、ミライである。コンスコン隊との戦闘を終えて<サイド6>に戻ってきたとき、カムランはいう。(発砲禁止のためホワイトベースの砲塔に貼られた)封印を破った件は父がもみ消してくれる、父の力で君が<サイド6>に住めるようにしてやれる、と。それに対して、ミライはこう言うのだ。
そうじゃないの、ホワイトベースを捨てる私に、あなたは、あなたは何をしてくださるの?
何が、彼女の心に引っ掛かっているのだろうか。カムランにとって、ミライは父が決めてくれた結婚相手であり、それゆえに、彼女のために「父の威を借りる」ことには何の衒いもなかったのだろう。では、その「親」という存在を抜きにしても、彼は自分を選び、愛してくれるのか? 私にホワイトベースを捨てろというなら、あなたも、親であったり、安全な場所である<サイド6>を捨てることができるのか? と問うているのではなかろうか。
それにしても、カムランは決してミライが思うほどには親に依存してばかりではないとは思うが、父が頼りになることをアピールした方が、彼女にとって心強いと思っているふしがあることとと、それ以上に、まるで彼女を人格のある一人の女性としてでなく、自分の思うがままに振る舞うのが当然の所有物のように思っているふしがあることが気になるのである。もし、本当の彼女のことを大切に思うなら、まず、<サイド7>でどうしていたのか、なぜホワイトベースで戦っているのか、彼女の話に耳を傾けるべきだった。ミライは、その虚しい会話を通して気づいてしまったのである。彼は、自分にとっての最善しか考えていない、ということに。
家のつながり、血のつながり。これまで、無条件に「いいもの」と信じて疑わなかったものが、そうではなかった。アムロとミライがそれぞれに、そのことに気づくというこのテーマは、どこへつながっていくのだろうか。これまで、自分を守ってくれていた、そのつながりを離れて自立していくとき、たとえようのない孤独が彼らを襲うだろう。だが、それは、他の孤独な魂と出会うために、必ず通らねばならない道なのだ。
聖書はいう。
それゆえ男は父と母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりは一体となるのである、と。(創世記2:24)
今回の戦場と戦闘記録
この記事が参加している募集
最後までお読みくださり、ありがとうございます。 ぜひ、スキやシェアで応援いただければ幸いです。 よろしければ、サポートをお願いします。 いただいたサポートは、noteでの活動のために使わせていただきます。 よろしくお願いいたします。