ヨルガオ殺人事件|感想・レビュー(★3.5)|前作が気に入ったならオススメ
今、一番話題になっているであろう海外ミステリ作家、アンソニー・フォロヴィッツ氏の『ヨルガオ殺人事件』を読了したので感想です。
短くまとめると
面白くないことはないけれど、傑作にはほど遠い。
作中作は相変わらずおもしろいが。
『カササギ殺人事件』などの著者の作品が気に入った人は合うだろうけれど、そうでない人はやっぱり合わないのではないか。
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カササギ殺人事件
私は『カササギ殺人事件』から同氏の作品に入りました。海外ミステリとしては珍しく話題になっているようだったので、試しに読んでみた感じでした。
感想としては、まぁ面白くはあったけれど、ミステリとしての傑作にはとても分類できないという感じでした。
その後、氏の『メインテーマは殺人』も読んでみたのですが、だいたい同じような感想でした。
”ストーリー”によるものか”文体”によるものか分かりませんが、私は全体的に間延びな印象を受けてしまって、よりハッキリ言ってしまえば「無駄に長い」というのが、これらの作品から共通的に感じたもので、「氏の作品はこれ以降読まなくても良いかな」と考えていました。
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前作より評判が良さそうだった
さて、『ヨルガオ殺人事件』ですが、ストーリーとしては『カササギ殺人事件』の続編にあたり、”作中作が現実世界とリンクする”という構成も同じであると聞いていました。
先述したように、私は著者の作品はもう良いかと思っていたので、出版されたことを知ってもすぐに読もうとはしませんでした。本屋に平積みされていることが多かったので、まぁ気になってはいたのですが。
ただ、Amazonレビューを見ると、どうやら前作の『カササギ殺人事件』よりも明らかに評価が高そうでした。
まぁ、Amazonレビューというのは往々にして当てにならないものですが、私は『カササギ殺人事件』よりも面白く仕上がっているのだろうという直感を得ました。
帯によれば『このミステリーがすごい!(このミス)』の海外編で1位をとっていたようですし、期待して読んでみることに決めました。
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前作と似たテイスト
本作のテイストは『カササギ殺人事件』と非常によく似ています。
先述しましたが、作中作が現実世界とリンクしてくるという構成も同じですし、主人公も前回に引き続きスーザンです。
そのため『カササギ殺人事件』の文体や雰囲気などが気に入った方は安心して読めると思いますが、一方であまり合わないと感じた人はやっぱり本作も合わないのではないかと思います。
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安定の作中作
『カササギ殺人事件』を読まれた方はご存知かと思うのですが、本シリーズにはアラン・コンウェイという作家が書いたミステリ小説が作中作として登場します。
小説の時代設定は現代であるのに対して、作中作は1950年代を彷彿とさせるような、通信インフラが発達していない古き良きミステリとして描かれているのですが、いやはやこれが実に面白いのです。正直、作中作だけで出して欲しいくらいです(笑)
逆に言うと、現実パートの面白さがそれに追いついていないという印象を前作・今作ともに受けました。私は現実パートを読みすすめるほうが面倒に感じてしまったくらいです。
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無駄に長く感じる
本作は上下の2巻構成で、どちらも400ページ以上もあるので、それなりに分量のあるミステリ作品に分類されると思います。
こういった長編の醍醐味は、物語の世界に没入して楽しめ、先をどんどん読み進めたくなる点にあると思うのですが、正直なところ私は無駄に長いなぁと感じてしまいました……これが何に起因するのかわからないのですが。
とくに上巻の展開の遅さにはかなりやきもきさせられました。すでに起こってしまった事件に対して、主人公がずっと聞き込みで情報を収集するというのが延々と続くからです。
冒頭で、”作中作が8年前の事件の真相を明らかにしている”という面白いネタで読者を掴んでおきながら、肝心の作中作がずっとあとになってようやく紙面に登場するというのは、エンタメ小説としては完全にアンチパターンだと思います。
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”作られた話”感は強い
技巧的なミステリにはありがちな話ですが、”作られた話”感はかなり強いほうかと思います。
まぁそれはノンフィクションですから、どれにせよ”作られた話”であるのは違いないのですが、あまりにも偶然的な人間関係が多すぎると、作者が駒を動かしている感が強くなりすぎるのが難点だと感じます。
より分かりやすい言葉で言うなら、物語に没入しづらくなってしまう感じでしょうか……「それさすがに無理がない?」と読んでいて突っ込んじゃうんですよね。
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まとめ
個人的に、作中作だけを評価するなら『カササギ殺人事件』のほうが上ですが、総合的に見るなら『ヨルガオ殺人事件』のほうが面白かったように感じます。
ただ、Amazonレビューでそれが顕著に現れるほどの差があるかと聞かれれば、そこまでの差は無いと答えざるを得ません。なので、『カササギ殺人事件』がそれほど気に入らなかった人は、本作もそれほど気に入らないだろう、というのが私なりの予想です。
逆に言えば、『カササギ殺人事件』が気に入ったのであれば本作も安心して読めるであろうと思います。間違っても決してつまらない作品ではないと思います。実際、私も短期間で読み切りましたしね。
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Amazonレビューについて
この記事を書くにあたって、あらためてAmazonレビューを観てみたのですが、不自然なほど具体的なレビューが少ないことに気づきました。
上下巻ともに150ほどのレーティングが付いているにも関わらず、書かれたレビュー文はそれぞれたったの6件でした。
『硝子の塔の殺人』などを覗いてみると、370のレーティングに対して、書かれたレビュー文は62件もあったので、ちょっと異常な数値のようにも感じました。
割合にすれば2%と16%ですから8倍もの差が開いていることになります。これは国内・海外の差や、作家の知名度などを考慮してもどうもおかしいように感じます。
レビュー評価の偏りも個人的には不自然に感じました……あまり考えたくないことですが、出版関係者などがレビュー評価を意図的に操作しているような疑惑を持ってしまいました。
私の考えすぎでしょうか。
―了―
P.S.
海外ミステリにつきものですが、英語が絡んでくるとフェアじゃなくなってしまうこともあって、その点は難しいですよねぇ。
ところで海外ミステリ自体それほど読んでないのですが、ここ数年の海外ミステリだと『第八の探偵』が一番おもしろかったように記憶しています。
やや好き嫌いが分かれそうな印象はありますが、作中作が登場する点も似ているので、そうした構成が好きな人にはおすすめしたいです。
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