介護士は素敵な仕事だ。だからこそ地位を高めたい。
世間で高校生や大学生の就職率が落ちているというニュースを見る度にいつも、それなら介護士になってくれないかなと考えてしまう。介護施設はいつだって人手が足りていない。
人手の足りない介護施設と就職先を探す若者。みんな介護士になれば一瞬で2つの問題が解決するじゃないか!と思う反面、なかなかそうもいかない理由も実は分かっている。
理学療法士が介護士の心配をしたり、知ったように語るのは少し偉そうに聞こえるかもしれないが、これはすでに業種の問題では無く、社会全体の問題だと本気で考えている。
介護士へのイメージ
なぜ介護士へなりたがる人が少ないかと言えば『①きつい・②汚い・③危険』をまとめた3Kのイメージが強いことに加え、ニュースなどで他業種よりも『④給料が低い』という事が取り上げられた事にもよるだろう。
もちろんそれ以外にも理由はあると思うが、極論で言えば介護士が『きつくも、汚くも、危険も無く、給料の高い仕事』と考えられるているのであればきっと人手不足は解決しているはずだ。
ではこの4つの要因は実際にはどうなのか考えたい。
『①きつい』について
初めに当初から介護士のイメージとされている3Kについて考えてみたい。
まずは『①きつい』について。介護におけるきつさの一例をあげると、
『移乗動作(ベッドや車椅子に乗り移る事)の介助』や『入浴時の介助』など人を抱える作業が多い事や、高齢者が自分よりも低い位置にいる事が多いため、応対する際に『中腰姿勢を維持する事』が多いと言った身体的な疲労と、
『夜勤』があることによって、体調管理の難しくなったり自分の時間や家族との時間を作りにくくなったりする事、高齢者への『接遇』と業務の『時間効率』との間で起きるジレンマなどの精神的な疲労が存在する。
部分的に力仕事となる事はもちろん事実だ。人は高齢な女性で比較的体重が軽い方であっても30〜40Kgはあるので、それを一人で抱えるとしても結構な負荷がかかる。男性ともなればさらに負荷は大きくなる。そしてその移乗動作の介助が、車椅子生活の方や、寝たきりとなっている方の人数だけあると考えれば確かに重労働である。
しかし当然だが、移乗動作の介助のためだけに、介護士がいるわけではない。
見守り、食事の介助、更衣動作の介助、入浴介助にレクリエーション、さらには日々の会話も仕事のうちだ。つまり高齢者の日常生活に寄り添い『いつでも側にいますよ。』という安心感を与えるのが本来の姿なので、力仕事はあくまでその一部だ。
運送業や、土木作業の仕事を過去にした経験のある介護士によれば介護よりも体に負担となる仕事はいくらでもあり、介護に特別に力仕事のイメージはないという。
確かにデスクワークではないので、体を動かせばそれなりに疲れるのは事実だ。だがそもそもどんな業種でも全く疲れない仕事がそこまであるとは思えない。
また、夜勤に関して言えば、今の時代は、看護師、警備員、夜行バスの運転手、24時間営業のコンビニなど介護士以外にもたくさんある。
確かに人手不足である中、辞めずに頑張っている介護士は大変な思いをしている。だが、それを介護業務自体がただきついだけの仕事と断定されるのは少し違う気がしている。
人員不足が解消され、一人一人の負担が適正範囲に収まれば、特別きつい仕事であるとは思わない。むしろ適度に体を動かせて座りっぱなしのデスクワークよりも良いのではないだろうか。
『②汚い』について
次に『②汚い』について考える。
これは汚い=トイレの介助やオムツの交換という意見が圧倒的だ。他人の排泄の介助なんてできないとか、臭いがするだけでも耐えられないという言葉は実際に何度も聞いてきた。
だが排泄に関わるのは何も介護士だけではない。医師も、看護師も、理学療法士や作業療法士も、放射線技師だって医療や介護に関わる職種の人は少なからずそういう場面に必ず遭遇する。それは人の生活を支援する仕事の一部だと言えるだろう。
むしろトイレに一人で行けずに困っている人からすれば、そういうデリケートな問題を安心して任せられる人がいるという事は、本人にとっても、その家族にとっても本当にありがたい事である。
排泄はあくまでも生活の中のワンシーンだ。
介護士とは人間が生活するどの場面でも任せられるとても頼れる人達である。つまり介護士は生活支援のプロフェッショナルだと思っている。
『③危険』について
介護士の3Kという言葉を聞いた時、①きついと、②汚いはなんとなくわかると思うのだが『介護のどこに危険があるんだ?』と感じる人もいるのではないだろうか。
高所作業を行うわけでもないし、危険物を常時扱うわけでもない。介護士ほど人間の日常生活を舞台に働く人達はいないだろう。
ただ、実際には、働くリスクとして問題とされている事がある。
まずは、閉鎖的な空間で病気の方の介護も当然する事になるので、感染症のリスクがあること。当然だが感染症を発症しているからと言って介護を拒否することはできない。
その他には、認知症の方や精神疾患がある方から暴力を受けることなどがある。実際に杖で叩かれた事も、湯飲みや茶碗を投げつけられた事もある。
ただこれらの事は、常になんらかの対策がされているので実際に問題になる事は多くはない。
例えば、感染に対しては防護用品として、マスク、ガウン、手袋などはしっかりと準備されている。そして、暴力行為に対しては、なぜそのような行動に至ったかなどの行動分析をし、利用者や職員が怪我する事のないように生活環境を整えるために常に話し合いが行われている。状況によっては医師の治療も行われるため、近年では介護士も安心して働けるようになっている。
『④給料が低い』について
今述べてきた①〜③は仕事の中身へのイメージなので、イメージと実際にズレがあり、本当はそんな事ないよ!と思う所もあるのだが、この『④給料が低い』は統計の元なので、数字は間違いない。
5年程前の統計では平均月収は他の産業に比べ約10万円安いと言われた。その後、処遇改善加算、さらに去年新設された特定処遇改善加算などにより少しずつ上向きになっているのだが、様々な条件があるため全ての人の給料に反映されるわけではない。
実は、先に述べてきた3Kと言われている3つの問題は個人的には大きな問題では無いと思っている。もちろん仕事のイメージが良いには越した事は無いのだが、人に直接関わる仕事がしたい。役に立ちたい。という高い志で福祉の道を選ぶ人にとっては、これこそが介護だからだ。
だが給料が低いという問題は生活できるかどうかに直結するので我慢や努力で乗り越えるような事ではない。
現に知り合いの介護士に『子供ができてちょっと生活がキツいので介護やめてトラックに乗ります。』と言われた事がある。
志高く、真面目で家族思いの優しい優秀な介護士が給料が低いという理由で辞めざるを得ない状況は残念で仕方ない。絶対に改善されるべきだと思うし、このような事では人手不足は解決するはずもない。
つまり僕は『④給料が低い』という問題こそが1番の問題だと思っている。そして、需要が高い介護士はもっと評価され、より高い賃金水準で仕事ができるようになるべきだと考えている。
人手不足の実態
では介護士はどのくらい足りないのかというと、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、実に38万人も不足する事になるのだ。
そして肝心の採用状況はと言えば、新卒で介護士となる人は、介護事業所の採用全体の約7%しかなく、卒業と同時に新たに介護を仕事にしようとする人はかなり少ない。また1つの事業所での勤続平均は約6年となっており、施設における介護職員の入れ替わりが激しい事がわかる。
介護士を目指す人の多くは、他業種で仕事をしていたが、介護に興味を持ち介護士として働く。一定期間1つの事業所で働くが、労働環境や条件の不満からまた別の事業所へ転職する。しかし転職してもなかなか労働環境等が向上することは少なく、また他業種に移るというパターンがとても多い。
人手不足の弊害
人手が足りないというだけでも介護士1人あたりの仕事量は増えるのだが、介護士が入れ替わると新たなスタッフは仕事に慣れるまでは仕事の効率は下がるし、指導に当たるスタッフも通常業務に当たれない。結果的に十分なサービスの提供が難しくなる上に、スタッフに慢性的にストレスが高まり人手不足以上の問題が必ず起こる。高齢者への虐待問題も労働環境への不満から起きる事がとても多い。
人手不足の解消はサービスの向上に繋がるので働く介護士の労働環境を改善させるだけでなく、利用する高齢者へのサービスの質を向上させる。つまり国民全ての人に良い影響を与える事になる。
介護士を増やすしかない
人手不足が解消されるための方法は2通り。
①介護士という職業に就く人を増やす
②被介護者となる高齢者の人口が減少する
このいずれかの事象が起きるまではずっと人手不足が続く事になる。
ただ、2025年には、約2,200万人になると言われている高齢者人口だがピークを迎えるのは2042年と言われ、その数は3,935万人にもなる。②被介護者である高齢者の人口が減少するのはその後となるため、まだ20年以上も先となる。
つまり介護士を増やす以外に今は無いのだ。
介護士の仕事はやりがい十分
3Kのイメージがあると最初は大変かもしれないが人を助ける事が直接仕事になっているので、それ以上に介護はとても楽しくやりがいのある仕事だ。しっかり仕事をすれば目の前でちゃんと『ありがとう!』と言ってもらえてお互いが笑顔にもなる。高齢者が好きで、人のお世話が好きな人には特におすすめしたいと思っている。
介護士の地位向上は多くを解決する
なぜ頑張っても給料がなかなか上がらないのか?それは介護施設が国の定めた介護報酬により収益を得ている、つまり簡単に言えば売り上げ額が国の決めた額で一定なのだ。人員基準、施設基準で報酬が決まっているので個人の努力ではどうにもならない。それならば介護報酬を上げれば良い気もするが、介護報酬を上げれば利用する高齢者の負担は増えるのだ。そして下げれば働く側が苦しくなる。
もはや介護保険料や税金では賄えない程、介護士が不足しているということだ。このままでは介護保険制度自体が機能しなくなる。
それならもう介護士は公務員としても良いのではないか?
公務員として介護士の給料を保証し、介護士を増やす。働き手を確保する事でサービスの質が高まり高齢者の生活を安心できるものにする。給料が高くなり就職できる人も増える。
町を守る警察官が公務員であるのだから高齢者を守る介護士だって公務員でも良いじゃないか。
もちろんこれはあくまで1つの提案だ。
しかし、間違いなく介護士の地位を高めることで今ある多くの問題は解決する。そして介護士はそれにふさわしい仕事だと思っている。