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苦手意識を全体化すること

2学期も中盤になると、いよいよ本年度の学校生活もヤマ場に入ったという意識スイッチが入るのか、毎日ご家族からたくさんの学習相談が寄せられます。そのときに多く耳にするのが「うちの子は〇〇が苦手だから」というフレーズです。

数日前も、ある中学生のお母さんが、「うちの子が「僕は数学が苦手」と言うばかりで宿題が手につかない」と電話で相談を寄せてくださったのですが、しかしその子を教えている私からすれば、その子は計算問題が抜群にできる子なんです。その子が苦手なのは図形とグラフの問題に限られるのです。だから、この子の場合、苦手なのはあくまで数学の一部分であって、数学全般ではありません。ということは周りの大人は、子どもが「数学が苦手」とつぶやいたときに、それに同調すべきではありません。「あなたは計算ができるんだから数学が苦手なわけではないけれど、図形とグラフの問題で躓くことがあるね」と丁寧に話し直してあげることで、苦手意識を「数学」という科目全体に拡げてしまっていることに気づかせなければいけません。

このように、苦手な単元や問題傾向を分析しないまま、苦手意識を全体化する子どもがたくさんいます。これは自分がこれ以上「苦手」に傷つかずに済むようにするための一種の防御反応なのですが、「数学」と聞いただけで怯んでしまうようでは、その子は今後、できるはずの内容であっても「数学」というだけでできなくなってしまいます。「数学が苦手」と思い込んでいる子にも、必ず得意な単元、解ける問題があるはずですから、子どもが自分で得意なところを見つけられないときは、そこを大人がいっしょに発見することで苦手意識の全体化を防いであげることができれば、子どもにとって大きな力になるでしょう。

一方で、このような全体化は、時にいい作用をもたらすことがあります。

例えば、歴史が大好きな子がいて、その子が興味があるのは「歴史」の中でも「日本史」、その中でもさらに「戦国時代」の部分であったりします。その子は戦国時代が好きだから、歴史全体も好きな気がして歴史ならいつでも点数が取れるようになり、さらに歴史は社会科の一部だから、地理でも公民でも社会なら点数が取れるようになる。そういうふうに、その子が「できる」という意識を全体化させることで「得意」な範囲を拡げていくことがあるのです。これは良い全体化の例です。

以上のように、全体化しようとする思考自体は必ずしも悪いことではありませんが、それが負の面に働きそうなときは、そこを分析しつつ制御することが大切です。

*このエピソードはフロイトの防衛機構の考えをもとにしています。『自我と防衛』などを参照のこと
*登場する人物や出来事のプライバシーを保護するため、一部事実を改変し、フィクションとして構成されています。
*西日本新聞「こども歳時記」2022/10/17

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