あれが届いてないんだよ、ほら、あれ

「えーっと、なんだっけ、名前・・・」

米農家の佐々国さんちの玄関前で、トラクターの車庫から出てきたご主人、信夫さんに呼び止められ、話しかけられた。

年が明け、松の内も終わったところだけど、

「今年もよろしくお願いいたします」

と、ご挨拶しつつ、話の先を待った。


・・・・・

信夫さんが固まってしまった。伝えたい言葉がパッと浮かんでこない様子。

空を見上げながら、

「えーっと、ほら、あれだ、あれがまだ届いてないんだけどよ、なんつったけ」

ようやく言葉が出た

「消費税!」

察しがついた。

「あー!減価償却資産台帳ですね!」

「そうそう!そう、それ!もう送った?」

正解だったらしい。

12月が終われば、確定申告の準備に取り掛かれる。

農家さんは、「農業」という職業の自営業だから、確定申告を毎年行う。

領収書とか通帳の記帳とか、しっかり整理している人は、自分でほとんど出来てしまう。ほとんど。

でも、農業機械や設備についての減価償却だけは、専門家に任せないと、複雑な事情(中古品の購入とか)が絡んだりする。

だから、会員さんには農協の専門部署が計算して台帳を作成、それを発行する。

今年度の減価償却台帳は、もう年末に送っている。

再交付できるものなので、送ったとか送ってないとかの話題はスルーして、

「今日、集金で通帳お預かりするので、お返しの時にお持ちさせていただきますね。遅くとも明日にはお届けできますが、それで間に合いますか」

確定申告期限は3月15日(土日の場合は明けた平日)だから、間違いなく間に合うことは分かっている。けれど、届く日を確定させて安心していただくために敢えて質問した。

「ああ!大丈夫だ!カーちゃんに渡しといてくれ」




毎年、1月~2月は、農協の確定申告会の会員さんが集まり、「収支内訳書・決算書の記帳指導会」と「確定申告書記帳指導会」が複数個所で開かれる。

農協職員は税理士補助・記帳代行的な役割で、税理士先生の横で農家さんとの応対やパソコンの入力作業に追われる。

もう直ぐ第一会場の当番の日だ。ワクワクしてきた。

最初の言葉は決まっている

「前回の控えは、お持ちになってらっしゃいますか」

次は

「前の年と、大きく変わったところはありませんか」

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