健康保険証で良いんでしょ?だめなの?
娘さんの口座の開設を頼まれた。
緑区団地に住む波多野京(はたのみやこ)さんは、お歳は80歳を超えているけど、頭もしっかりしていて体も丈夫、そして、やや気が強い。
京さんの年齢が年齢だけに、娘さんのお歳も60歳前後。
娘さんは車で10分くらいの近所に住んでいて、月に2~3回くらい、頻繁に来ている。たまにお会いしてご挨拶をしているので、顔もわかっている。
その娘さんご本人が、「農協に口座を作りたい」と言ってくれたそうだ。
おそらく、年齢的に年金の受取口座のためだろうな、と思った。
京さんは娘さんから預かっていたらしい印鑑と千円札を持っていた。
口座開設は大変ありがたいことだけど、必要なものが1点足らない・・・。
「ありがとうございます。すみません、通帳をお作りするのに、今は免許証とかの身分証明書が必要なんです」
「そうなの?
じゃあ、免許証は預かれないけど、保険証を預かっておけばいい?」
うーん、、、マイナンバーができる以前はそれでOKな時代があったから、身分証明書=健康保険証という認識でいらっしゃるのはしょうがない。
でも、マイナンバーができて1年ほどで法改正があり、NGになった。
「ありがとうございます。ただ、顔写真が無いものの場合には、健康保険証と、もう一つ何か他の、2つで確認という形になってしまってるんです」
「どういうこと?」
「たとえば、
健康保険証と、電気・電話・水道・ガスとかの領収証で住所と名前が同じものとか、
健康保険証と、固定資産税や自動車税とかの税金の納付書で住所と名前が同じものとか、
健康保険証と、半年以内に発行された住民票や印鑑証明書とか、
親御さんが子どもの通帳を作るときには、健康保険証と母子手帳とか」
「母子手帳は、無いわねぇ。パスポートじゃだめなの?」
心の中でズッコケた。
「パスポートをお持ちなんですか。期限はまだ残っているものですか?」
「良く、海外に旅行に行っているから、たぶんまだあると思うわよ」
「それでしたら、パスポートは写真が付いてる証明書ですので、一つで大丈夫です。ただ、住所のページには、ご本人が手書きで住所を記入することになっていますので、まだ書いてい頂いていなければ、住所の記入だけ、お預かりの時にご確認していただけますと助かります」
いつものように、カバンから便せんを挟んだB5クリップボードを出して、パスポートの住所の事と、再度、印鑑と初回ご入金のお金のご用意のお願いをサインペンで大きく箇条書きした。
後日、京さんが預かっておいてくれたのは、マイナンバーカードだった。
「娘が、これでも大丈夫かって聞いてきたんだけど」
「おお!写真付きのマイナンバーカードですね。大丈夫です、おもて面だけ、このタブレット端末で写真を撮らせていただきます。よろしいですか」
給付金やポイントの制度によって、マイナンバー通知カードを写真付きのマイナンバーカードに変える人が急激に増えてきた。
これ1つで身分証明書になるので、免許を持っていない人でも便利だ。
ただ、裏面のマイナンバーが不用心にも不特定多数の人に漏洩しやすくなった感じがして、のちのち事件が多発しないか心配の種が増えてしまった。
娘さんも、僕と面識もあるし、農協とのお付き合いも長いから、信用をしていただいているんだと思う。けれど、僕としては少し心配になってしまった。