珊瑚の印鑑、指輪の印鑑、翡翠の…

印鑑とかハンコとか、三文判とか、みとめ(みとめ印)とかいろいろ呼び名は有るけれど、金融機関の取引は「お届け印」か、「届け出印」と呼ぶ印鑑での取り引きが絶対だ。

あ、融資(ローン)と相続は実印だった。

ま、まあ、ほとんどがお届け印(オトドケイン)での取り引き。

お客さんは「銀行印」と読んで区別していたりする。

以前に総代をされていた幡山佐一さんのお宅にお伺いしたら、

「農協の銀行印だろ?」

と、一瞬、心の中で「(農協は銀行じゃないんだけど)」と、つっこんでしまいたくなる言葉を言われた。

意味合いはわかったから

「そうです」

と返答した。


今日はケーブルテレビの引き落とし口座設定用紙のことで伺っていた。

奥に行き、金庫を開けてる音が聞こえる。

しまった、予め電話で伝えておくんだった。

幡山さんの家では、家のどこかにある金庫に大切な物は仕舞ってある。

金庫は開けるのに時間を要する。

お届け印が必要なのはわかっていた事だから、来る前に電話でお伝えしておけば良かった。

3~5分くらい待っただろうか、ようやく佐一さんが印鑑を持って現れた。

その手には2つ。

一つはガラスっぽい感じで緑の色味の入った2㎝くらいの小さな印鑑。

もう一つは金色の指輪だった。

小さな印鑑を見て、

「珊瑚かなにかですか?」

と聞くと、

「翡翠だよ」

と教えてくれた。

翡翠は初めて見た。

珊瑚の印鑑はおみやげで人気があったみたいで、他の家でも見たことがあった。

でも、この印鑑は初めて見たし、この印鑑がお届け印じゃないことは直ぐにわかった。

佐一さんの口座の印鑑は、もう一つの指輪の方だと知っていたからだ。

純金ではないらしく、重さはそれほどでもない。

指輪の石が付く場所に、長方形のハンコの形が、少しカーブをしながら掘られている。

押すのにちょっとコツがいるけど、しっかり印鑑として使える。

佐一さんは印鑑に凝っている。

純粋に好奇心でしつもんし、そこからお話を広げ、佐一さんはたくさん話してくれる。

珊瑚の印鑑をお持ちのお客さんも、その質問の流れは嬉しいらしく買ったときの話をしてくれる。

お金に絡む印鑑は、みなさん思い入れがあるものだと実感している。

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