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第4話 決闘! Part B

扉を破壊して家の中に侵入する。外ではドローン軍団が飛び交っているが、さすがに主の家にむかって攻撃まではできないようで、奴らは索敵を続けながらも空中でアイドリングをするのに留まっていた。

いまのうちに会長を見つけ出してやる。

楓さんの安全を確保したとはいえ、彼女は足を負傷したままなのだ。もしドローンが身動きのとれない彼女を襲いでもしたら……と怖い想像をして、俺は肌が粟立った。結局、一刻の猶予もない。

扉、扉、また扉。
どれだけ進んでも、延々と白い部屋と銀の扉が続いている。

駆け足で広大な屋敷を進みながら、俺は違和感を感じていた。なにかおかしい……と思いながら、他に障害となるものがないので、俺は同じ扉を開けていった。

二十枚ほどの扉を前にしたところで、俺は前進を止めた。走りすぎて呼吸で肩が上がっている。

絶対におかしい。
これだけ前進していれば、とっくに敷地から出ているはずだ。それなのに、窓から見える景色は変わらないし、同じタイプの扉が現れるばかりなのだ。

ひとつ深呼吸して、もと来た道をふりかえる。そして、さっきから付きまとう違和感の正体はなにかと自問する。

落ち着け、落ち着け。よく考えればわかるはずだ。

ふと俺は、楓さんが渡してくれた「SS」のリストバンドを見た。思い出せば、他のみんなも同じバンドを身に着けていた気がする。「聖徒会」の会員証だと楓さんは言ったが、果たしてそれだけの機能しかないのだろうか。

俺は、平賀先生の声を思い出した。

――〈そこに無いものを見つける〉という、凡人には非常に困難なことが君にはできたからです。

いまの変な状況も、〈そこにないもの〉が分かりさえすればいいのか。

そこにないもの。通常はあるはずなのに、あるべきなのに、いまだけ存在しないもの。それが、俺の感じている違和感の正体なら、会長の部屋に辿り着くためのヒントが得られるはずだ。

感じろ、感じろ、感じろ……。
一度すべての理性を捨て去り、自分の感性に従うんだ。

ハッと瞳を開いた俺は、静寂すぎる部屋のなかで「あっ」と叫んでしまった。

「罠」だ。
この屋敷の中には「罠」がない。

外はあれほど厳重に罠を仕掛けていたのに、肝心の屋敷の中は拍子抜けするほど何も施されていなかった。爆弾もセンサーもドローンもなく、まるで「入っておいで」と誘導されているようだ。

試しに、胸ポケットに刺したボールペンで白い壁紙を真一文字に直線を引いてみた。さらに、ちょっと壁から距離をとって観察してみる。すると、ほんのわずかだが、自分の書いた直線が壁のラインに沿って曲がっていることがわかった。また、足元の床にボールペンを置いてみると、ボールペンはコロコロと転がり、壁際で停止した。

決まりだ。この屋敷は、全体が緩やかにカーブしているのだ。さらに床面もほとんど気づかれない程度に傾斜しており、地下に潜るようになっている。

「屋敷全体が、螺旋状に地下へと続く迷路になっているんだな」

やはりどんだけ金持ちなんだと思ったが、文句を言っている時間はない。
問題は、この迷路をどうやって攻略するかの一点だ。

しばらくの熟考の後、俺はひとつの試みをすることにした。
一か八か、やってみるしかない。

理屈は、単純な論法だ。
外に仕掛けられた罠に対しては、スタンガンで罠を攻略できた。楓さんや斎がそれが有効であることを照明している。
しかし、この屋敷には明白な罠がない。ゆえに悩むのだが、もしもこう考えることができるなら?

この屋敷全体が「罠」なのだと考えたら。
それなら、外の罠と同じように対処すればいい。

ゆっくり深呼吸した俺は、運を天命に任せて、思い切り壁に向かってスタンガンを振り下ろした。

すると――。

バリバリバリバリ! バリバリバリバリ!

けたたましい破裂音が響き渡り、目の前の壁が大きくひび割れた。あっと声を出す間もなく今度は床面や天井が崩れ去り、夕暮のまばゆい光が俺を包み込んだ。
あまりの光に目がくらんだ俺は、そのまま意識を失った。

………………。

………………。

…………。

……え?

ここはどこなんだろう。とっても柔らかくて良い香りのする場所で俺は眠っていたようだ。暗幕を張った小部屋に、ちょっと涼やかな風。薄い陽の明かりがカーテンの隙間から差し込んでいる。
次に、薄いグレーのチェック柄が視界に入る。あれ、どっかで見た覚えがある布地だな……と思った俺は、完熟トマト色のブレザー制服が見えたあたりで、一気に夢から現実へと引き戻された。

「ああ、あああ、あなたは……」

犯罪者でも見るような眼で、わなわなと震えているツインテールの少女。初めてしゃべるのだが、シチュエーションからしてこの少女が「あの人」に違いない。徐々に正しい記憶がよみがえってくる。
そのうち、俺は自分の置かれた状況を理解して青ざめ、もう一度意識を失いたいと切に願った。

薄いグレーのチェックとは、羽林高校女子のスカート柄であるわけで。
つまり俺は、女子のスカートの上で眠っていたわけで。
それはすなわち、知らない女子に膝枕をさせて眠っていたわけで。

「ド変態やろお~~~~~ですううううう!」

爆裂往復ビンタ100連の嵐!
からの、容赦ない回し蹴り!

後方に吹き飛ばされた俺は、本当にこの世からオサラバするところだった。

「んぐ……。なんだ、お前は……」

「なんだじゃないです! あなたのようなルーキーが『聖徒会長』に膝枕をさせるなんて、十億光年はやいのですう!」

がなり立てる「聖徒会長」、高宮奏。他のメンバーも同じ「聖徒会室」に戻っていて、あきれ果てた表情で俺たちの茶番劇を傍観している。

ああ、戻ってこれたんだな。
俺たちの「現実」の世界に。
ひどく顔を赤らめて怒る高宮を前にして、俺はホッとした。
身体は、めっちゃ痛いんだけど。

(たぶんつづく!)


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