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第7話 ライブ! Part A
ギターリフというのだったか。音楽に疎い俺は専門用語がわからないのだが、ステージで展開される演奏の見事さは十分に感じていた。
マイクを前にエレキギターを弾く茶髪女子の流れるストローク。
強く安定感あるドラムを打つのは、意外と小柄な生徒だったりする。
ほとんど目を閉じてキーボードを弾くバンドリーダー。
そして,激しいピッチのベースをこなす人物は、なぜかカエルの着ぐるみを着ていた。
四人で奏でる音楽が体育館中に反響し、心臓を打つ。
目覚めれば そこは
青く光る海のように
波打つ世界だった
擦り切れた指先は
ぼくらの行く道を示す
センターでギターを弾く彼女がボーカルを兼ねている。歌詞の一つひとつが明確に届く。まったく,なんて歌唱力だ。音痴の俺は天地がひっくり返っても不可能だろう。
どうやったって
ドヤったって
現実を変える力が手に入るわけじゃない
きょうも渦潮は残酷に
ぼくらを呑み込んでいく
それでも溢れて止まらない
それでも零れて留まらない
言葉をすべて 無駄にしないように
ふと隣を見ると、斎が瞳を潤ませて惚けている。……って、本来の任務を忘れてないよな。レコーダーのスイッチ、大丈夫だよな(俺も他人の事は言えないが)。
語る死す
この世に生まれてきたからには
ぼくらを衝き動かす
物語を終えるまで歌い続けるよ
カタルシス
いちどの感動で別れたくないから
きみの人生をも巻きこんだ
最高の音楽を奏でてみせるよ
目覚めれば そこは
青く光る海のように
波打つ世界だった
ボーカルが歌い終わると、地の底から(正確には体育館の床底から)沸き立つように生徒たちの間から大歓声が上がった。
……いやはや。目がテンとはこのことだ。悔しいが、ミイラ取りがミイラになっちまった。それだけ、『Febri』の歌と演奏はレベルが高かった。
マイクを片手に、ボーカルが挨拶をする。
「どうも~、改めましてこんにちは! 今日は定期テスト直前ライブに来てくれてありがとう!」
ボーカルの発言に、すかさず後ろのキーボードが反論する。
「ちょっと菊子〜、テストの現実を突きつけないでよ。今日はテスト後にやってくる文化祭のプレイベントでしょ~!」
「いよっ、失言王!」
仲間同士の掛け合いに、会場がドッと笑いに包まれる。
「ボーカル兼ギターの木春菊子。羽林高校の歌姫と呼ばれる実力者で、ついでに失言王としても有名だよ。そんで、彼女に突っ込んだキーボード担当が、『Febri』リーダーの花本由芽。トーク中もリズムを刻み続けてるドラマーが畠中芳美で、私たちと同じ一年生」
「あのカエル……着ぐるみを着たベーシストはだれだ?」
「彼女は『フロッグ』の愛称で親しまれる謎のメンバー。『Febri』の仲間しか正体を知らない、いわば覆面枠ってところね」
俺は、ピエロのお面を被ったメンバーのいるバンドがあったな、とぼんやり思い出した。それにしても「フロッグ」って、まんま過ぎないか。
「お前、『Febri』に詳しいんだな」
「これくらい、羽林高校の生徒ならだれでも知ってるよ。人気者だもん」
俺は高宮会長の推理を反芻してみた。確かにこれほど一般生徒の支持を集めている彼女たちなら、仮に「演奏で人を眠らせる」なんて芸当もできるわけだ。……あくまでも、本当にそんな演奏が可能ならの話だが。
「さあ、二曲目行ってみよう。『暗い死す』!」
リーダー花本先輩の合図をきっかけに、生徒が両手を高く上げてハンカチやらタオルやらを(とある男子はブレザーも)振り回し始める。
こりゃあ、すごい熱気だ。任務どころじゃないかもしれん。
(たぶんつづく!)