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第7話 ライブ! Part B
『Febri』のライブは三曲目を歌ったところで解散となった。最後の曲は新曲だったようで、会場の興奮はますます上昇した。
熱気の冷めやらぬ中、友達どうし感想を言い合いながら体育館を後にする生徒たち。リーダーの花本によれば、文化祭では今日披露した曲に加えてさらに数曲の演奏とライブパフォーマンスを準備しているという。彼女たちはプロも顔負けの努力と工夫を積み重ね、生徒たちからの人気を獲得していた。
しかし、睡魔事件の謎を追う俺たちとしては興奮ばかりもしていられない。『Febri』メンバーにサインを求める生徒の集団が捌けるのをしばらく待ってから、俺と斎は楽器を片付けているメンバーに声をかけた。
初対面に話しかけるのは不得手なのだが、相手は人前でライブできるような度胸の持ち主だ。気取られぬようにせねば。
「こんにちは、ライブおつかれさまでした……。あの、リーダーの花本さんと話がしたいのですが。私たちは『聖徒会』の者です」
その瞬間、空気が凍りつくのが分かった。
「せーとかい? あんたたち、また特権階級を騙って他人のテリトリー荒らしにきたわけ?」
まっさきに反駁したのは、もっとも長身でもっとも気の強そうな木春菊子だった。ボーカルをやっているだけあって、威圧する声量も半端ない。俺は気圧されながらも、あらかじめ用意したセリフを必死に喉の奥から絞り出す。
「テリトリー荒らしじゃないです。少しご協力を……」
「私たちが人を眠らせる音楽を作ってるって言いたいんだろ? ふざけんなコラーッ! やっぱ、コテンパンにしてやるっ」
今にも噛みつきそうな(実際、木春は八重歯だった)勢いの彼女にすっかり圧されてしまった。どうして、もうこちらが疑ってるのがバレているんだ?
”そうそう、忘れてたけど、昨日彼女たちにアタック仕掛けたの。門前払いだったけどね~”
無線越しに耳元で響く聖徒会長の声。それを早く言え。
ならば、木春の反応も当然だ。一連の事件が彼女たちにとって身に覚えのないことであるなら、濡れ衣を着せられて怒るのは当然だ。他のメンバーも、怪訝な表情のまま硬直している。
助け船を出してくれたのは、珍しく斎だった。
「先輩、少しだけ話を聞いてください。『聖徒会長』からの説明が不足したのはお詫びします。確かに、私たちは事件について調査に協力していただきたいと思っています。でも、これはウィンウィンの契約でもあるんです」
「ほう、ウィンウィンと?」
表情を変えたのは、リーダーの花本由芽。
おそらく私物であろうキーボードをケースにしまい終えると、ゆっくり斎に歩み寄った。
「どうしてほしいんだ?」
「おい、ちょっと由芽」
「まあ、話を聞こう。昨日の会長よりかは良いだろう」
今のセリフ、無線を通して屋上の会長に伝わってるだろう。後が怖いな。それと、「あの」玉串斎が大人びた敬語を使えるとは驚愕だ。
「ありがとうございます。恩に着ます」
斎は姿勢を正すと、スカートのポケットから小型レコーダーを取り出した。
「『聖徒会』の平賀先生が造ってくれたものです。変哲のないレコーダーに見えますけど、実はけっこう凄いんですよ」
そして斎は、手品のタネを明かすように得意げに言った。
(たぶんつづく!)