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第3話 会長! Part B

なんじゃこりゃ、と言わせてくれ。

目の前の尋常でない現実に対してあれこれ修辞を並べてみたけれども「なんじゃこりゃ」としか言い表せない。いま「聖徒会」メンバーが立っている場所は、絵に描いたような田舎の散居村。秋の収穫を控えた稲田がずっと向こうまで続いていて、あちこちでトンボが飛び交い、カエルが鳴き、懐かしい土の匂いが漂っている。

カントリー感が満載の場所に、目指すべき「聖徒会長」の暮らす家は建っていた。

家というより、もはや上流貴族の邸宅だ。プリンスエドワード島のお家にありそうなモスグリーンの切妻屋根を数倍でっかくした感じだ。何坪かはわからないが、敷地を一周しただけで足が疲れるということは、学校のトラックの距離は超えている。視認できる窓の数をカウントすると、最も高い場所で六階建てだった。

そんな巨大邸宅が、広大無辺な水田地帯に幾重にも囲まれる格好で屹立している。俺たちは、その外堀に相当する最も遠い地点から、指を咥えて立ち尽くしていた。

「会長、どんだけセレブなんだ……?」

「ね! やばいっしょ、ここのお家!」

ピクニックに来たようなテンションで斎がはしゃいでいる。無理もない。好天に恵まれた放課後、みんなで平賀先生の車に超満員で乗りこみ、わいわい騒ぎあっているうちにいつしか県境を超え、見晴らしの良い散居村にやってきたのだから。しかし、会長の復帰という重大な目的があるんだが。

「もちろん忘れてなんかねえよ、安心しろ」

笑いながら、おもむろに準備体操を始める徹。顔色ひとつ変えずにトランシーバーの具合をチェックしている楓さん。一体、何が始まるんだ? それに……。

「さて、どっから攻めていきましょうかねえ!」

俺にとって最大の懸案事項は、一番の責任者たるはずの平賀先生が一番この状況を楽しんでいることだった。

「あの、先生。攻めるって何ですか? 会長に学校に来るよう説得しに行くんじゃ?」

俺の素朴な疑問は、先生の言葉によって後悔へと変わった。

「どうやら勘違いしているみたいだね。僕たちは説得に行くんじゃない。戦うのさ」

戦う? 誰と?

「おいおい、国語の勉強をしたまえ。会長と戦うに決まってるじゃないか」

あのう、まったく話が読めないんですけど……。俺がお手上げ宣言をしようとした矢先、徹が助け舟を出してくれた。

「要するにな。会長は学校に『行けない』のではなく絶対に『行かない』んだ。一度そう決めたが最後、本当に来なくなる。こっちが電話しても固定回線は切っちまうわスマホの契約は変えちまうわで、音信不通。通信アプリのアカウントも自己凍結。そして先月、しびれを切らした俺たちが会長宅へ出向いたとき、どうなっていたかといえば……」

そのとき、けたたましいアラート音が散居村に木霊した。なんじゃなんじゃ。

ガシャン! ガシガシャン! シャキン! バン! シャン! 

金属の擦れる音が反響したかと思うと、邸宅周りの田んぼ一反一反がそれぞれ二つに分離セパレートし、地中からSF映画に登場しそうな自律型レーザースコープがせり上がり、ヤバそうな赤光線を放ちはじめた。

「蜘蛛の巣状に対人センサーを巡らせて、捕まれば即退場。田や畦道には無数のトラップを仕掛けている。落とし穴や催涙ガスくらいは容易してるだろ」

は?????
俺の脳内でたくさんの「?」が飛び交う。
こんなの、高校生の芸当かよ。

「気をつけて。来る」

楓さんが頭上を見上げた。すると、切妻屋根にくっついた太い煙突から、無数のドローン部隊が浮上してきた。獲物を集団で襲撃する前のスズメバチのようだ。

「あれ、BB弾を装填してるから、注意して」

さらっと告げる楓さん。そんな情報、どうせならもっと早く教えてほしかった。

つまり、俺たちの「聖徒会長」って……。

「学校に行きたくないあまり、自宅じぶんちを要塞にしちまったのかよ~!」

「大正解!」

メンバーから満場一致で承認されても、一向に嬉しくない。
やっぱりここの生徒会は、狂っている!

(たぶんつづく!)



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