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case01-15 :食事

確かに今日は何も食べていなかった。

しかし俺はそもそも基本的に1日1食、もしくは3日2食程度の食事量というエコ生活なのだ。あまり空腹も感じてもいなかったが、お言葉に甘えて<俺の金で奢られる>という不思議な話が始まった。

「西船橋やけに詳しいな」

狩尾は都内でも西側だ。西船橋という駅を使うことはあまり考えられなく不思議に思い、言いかけたところで口をつぐむ。上川に呼び出されたことがあるのかもしれない。

複雑な思いがありながら、いつもの笑顔に戻りつつある狩尾の顔を斜め後ろから見ながらついていった。

「ここですここです!」

遊園地のアトラクションに乗る前の子供のように指さして狩尾がはしゃぐ。おいしいところというものだから、どこか個人店のような<こだわり>のお店が出てくるものだと思っていたが…そこは何の変哲もないチェーン店だった。

「へぇ、行ったことないや」
いや、確か他の地域で行ったことはある店だったはずだ。

「おいしいんですよー入りましょー」
でも、狩尾と行ったことはないから嘘じゃない。言葉が足りないだけだ。

・・・
・・

入ると店の中は意外なくらいに広々としていた。どこにでもあるような券売機が入口の横に設置され、ギラギラと<新発売!><おすすめ!>のような煽る文字が躍っている。

「トーアさん何にします?」
「ちいさいラーメンでいいよ」
「えーーまた痩せちゃいますよそれじゃ」
「そんなに腹減ってないからいいんだよ」

言うと席をとりに奥のカウンターへ向かう。何か後ろで言っているような気がしたが(何でラーメン屋の床はいつも油っぽいのだろう)などと考えていた。

しばらくカウンターから手際のよい厨房の様子をぼうっと眺めていると、すっと視界を<ラーメン小><味付たまご>の2枚で遮られる。

「たまご頼んでない」
「いいんですよ、サービスです」

悪戯っぽく微笑むとカウンターにその2枚と<チャーシューメン大>を置く。狩尾は華奢な体つきに対して意外なほどよく食べるのだ。

再び厨房の様子を伺っているとまた狩尾から声をかけられる。

「最近、なんかいいことありました?」
いわゆる"何も話すことないですね"という意味だ。

「いや、特にないな」
本当に特にないのだ。そもそもあってもなかなか語れない内容も多いのだが。

「そうですか」
「あ、いっこあった」
「なんです!?」
「あじたま貰った」
「トーアさんてそういうところありますよね…」

取り留めのない話をしながら、出てきたラーメンを二人並んで食べる。やはり半分ほど食べたところで正直かなりの満足感だ。

「そういやお前の色々が片付いてよかったな。まぁ俺の返済はあるけど」
「そ、そうですね!私の最近いちばんの良いことはそれです」
「そりゃよかった」

しばらくの沈黙のあと狩尾が口を開く。

「トーアさん実は私、本当に離婚しようとは思ってるんですよね。実際、色々なことがありすぎて夫婦関係としてはもう破綻してますし…これだけ色々あっても主人は助けてはくれませんでした。もちろん直接、闇金がとか言ってはいませんが」

「そうか、生活はしていけんのか」

「はい、ちょっと今は閑散期ですけどそれなりに本指名かえしてくれる人とかいますし・・・いつまでもできるとは思ってませんけどね。別れてからお金もですし色々と頑張らなきゃです」

「まだまだ大変だな」

「そうですね、トーアさんへ返済もしながらなので少しバタバタしちゃいそうです。でもちゃんと返しますので」

「当たり前だな」

「はい、そうですね」

チャーシューをつまみながら狩尾は最後に少し寂しそうに笑った。

返済は1ヶ月後である。

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