case01-17 :訪問
新川崎駅。19時。
川崎駅はかなり発展した印象が強いが、新川崎となると雰囲気がだいぶ違う。寺や神社、住宅街が広がるいわゆる何の変哲もない街だ。ちょうど武蔵小杉での貸付予定が済んだ後、その足で新川崎に向かったのだった。
結局、返済日である25日が過ぎた後、狩尾から連絡は来ないままだった。経験上だいたい3日以内に連絡が来ない場合は、ほぼ逃げたと思って間違いない。今の時代、コンビニだろうが何だろうが連絡手段があるのにしないのだから。逃げたとまでいかなくても連絡が出来ない状況にある時点で、こちらからアクションを起こす必要はある。
新川崎駅の改札を抜けるとスマホを取り出す。事前に確認したところ徒歩では狩尾の自宅までは30分程度かかるようだった。スマホひとつで何でもできる便利な時代である。
タクシーを使ってもよかったが、既に寒さも和らいだ季節である。知らない街を歩き回るのも悪くない。そういった散策をするのは昔から好きなのだ。
途中コンビニで肉まんと缶コーヒーといくつか菓子パンを買い込み、ぷらぷらと散歩をするようにゆっくりと歩く。
南北に延びる交通量の多い国道を超え、鶴見川近くの木造アパート1階、3部屋ある住居の中央が狩尾の住まいだった。築30年以上はたっていようか。あたりも薄暗い。住民票を見た時に軽く場所は確認はしているものの、実際に来てみると妙なリアリティが圧倒的な重さでのしかかってくる。
こじんまりした駐輪場を抜け、まずは郵便受けの中から狩尾の家であることを確認する。水道料金の請求書は確かに狩尾の名前だった。間違いないだろう。家の中の電気はついていないようであったが電気メーターも回っている。確かに生活をしている空気がそこには漂っていた。
(さて、ちょっと様子を見るか・・・)
川沿いの方へ回り込むと、夜の川は不気味な雰囲気を漂わせている。草の生い茂った土手から狩尾の住まいの様子を伺うと、自然と見下ろすような形になる。
薄い緑色のカーテンの隙間から明かりは見えない。まだ小学生の子供がいる家庭だ。この時間に既に子供と一緒に寝ているというのも考えづらく、まだ帰ってきていないとみるのが自然だろう。
(どこいってんだか)
この時点である程度はもう覚悟はしていた。稀に協力者を使って張り込むようなこともしたことがあるが、自分以外の人間を使うのはよっぽどの場合である。あいつらはやりすぎてしまうし制御を効かせづらい。
もう一度玄関先に回り込み、隣の家を確認する。こちらは中に人がいる様子があった。まだ時刻は20時前。夕食のカレーの臭いが少しづつ漂ってきていた。郵便受けはそれほど郵便物がたまってはいなかったが、しばらく待っても現れなかったら、最近この家に帰ってきている様子があるかなどくらいは聞いてしまってもいいだろう。
(・・・あー、めんどくさいし腹減った・・・)
長期戦を決め込んでおいてよかった。しゃがみこんでコンビニの袋の中から、菓子パンをガサゴソと探る。カレーパンを買っていたはずだ。
すると「ガシャン!」と背後から自転車を止める大きな音がした。こういった時に特に隠れたり逃げたり大きな動作はしない。
そのままコンビニ袋を漁っていると
「あの、どなたですか」
見上げると、そこには白髪交じりの初老の女性と小学校中学年程度の女の子がいた。ゆっくりと立ち上がり、一応の挨拶のようなものをする。
「ああ、すみません。ここの狩尾さんにちょっと用がありまして」
初老の女性は難しそうな顔をして隣の女の子と顔を見合わせると
「狩尾はわたしですが」
そう答えた。