case01-19 :発見
狩尾の家を後にする。
かなりの時間、狩尾の母の愚痴に費やされはした。その中で聞き出せた有益な内容としては、月に数回週末こどもに会いに来ていることからそれほど親子関係は悪くない程度であった。狩尾からこどもへは一定の愛情があるように感じる。
しかしそれを見込んで毎週末家を張り込むことも現実的に難しいし、失うコストも大きすぎる。
ただ狩尾が現れる可能性が高い日を選ぶのは容易だった。今は既に3月末。それなら「こどもの始業式」が絶好のポイントだ。
意外に崩壊していない親子の関係性から言っても必ず来る。冷蔵庫に貼ってあった給食の献立表から、小学校は既に分かっているのだ。学校名が分かれば始業式の日取りなど調べるのは今の時代は簡単なものである。
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4月初旬。
狩尾の娘の始業式当日。昼少し前程度に校門前に着く。周りにはお祝いムードの紙で作った花の飾りや、大きな看板、家族連れの姿ばかりだ。
新しい門出にみな期待と不安でいっぱいなのだろうと、ありきたりなどこかで聞いた文章を思い出していた。あたりは桜が色鮮やかに咲き、足元には点々とピンク色の花びらが散らばっている。
土に落ちて茶色に汚れた数枚の花びらがどこか彼女の姿に重なった。
タバコが吸いたいのを我慢しながら校門に入る手前の木の陰でぼんやりと待つ。本来既に顔が割れている自分が出ばるのはリスクしかなく、そうでなかったとしても俺自身が出て行くこと自体が珍しいことだったが、最後まで自分の目で確かめたい気持ちが勝っていた。
特別な気持ち?そんなわけがない。
暫くするとゾロゾロと親子連れが校門から現れる。ここで逃してしまっては意味がない。1人も見逃さぬように、しかし相手から気づかれないようにどこかの親族のようなふりをする。
5分程度たったころだろうか。狩尾が現れた。ラッキーである。
狩尾はいわゆる母親が始業式で着るシックな紺スーツに身を包み、普段の印象とはだいぶ違った。左手は娘と手をしっかりつなぎ、娘も家で見たような冷たい目ではなくどこか気恥ずかしそうな、温かみをもった目をしていた。斜め後ろには先日あった狩尾の母も、その様子を暖かい目で見守っている。視界の端に入る桜に彩られ、絵に描いたような「ただただ幸せな家族」だ。
思わずぼうっと見入ってしまった頭をハッと切り替え、このまましばらくついていくことにした。今この場で捕まえても仕方がないのだ。
どういうわけか、狩尾の家族はそのまま家には戻らず新川崎駅へ向かっていた。このままどこかへ行くのか?そうなるとこのまま尾けるのも長丁場になってくる。どうなることかとヤキモキしながらそのまま「幸せな家族」をつけていくと突然3人が改札前でピタリと止まる。
どこに行くか相談しているのか?とその3つの背中を見ていると突然、狩尾だけが何故か改札に入る。
(やばい)
しかしいきなり走り出して目立つわけにもいかず、急ぎ足で改札にむかう。母親と娘に見つからぬように注意していたものの、すれ違いざまに思わず娘と目が合ってしまう。
その時にはすでに家で見た冷たい、感情の無い目をした少女になっていた。
「ね、こういうひとなんだよ」
少女にそう言われた気がした。口元は薄く笑っていた。
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