10【10年以上続く事業】となるための事業計画作成法④~事業の実現可能性を上げるための分析手法(PEST分析)を簡単に実施する方法
「私の住んでいる地域を元気にしたい!」そんなあなたの想いをサポートしたい!Мの行政書士・上杉哲哉です。(福島県会津若松市と栃木県日光市に在住しています)
事業とは、【誰かの課題を解決する】こと。よって、事業で解決するべき課題を見つけなければ、事業そのものが成立しません。
事業課題の発見こそが、事業の成否を最も左右するといっても過言ではありません(マガジンの第一回目の記事参考)
前回は、事業課題を発見するための手法の基本について学びました。今回は、事業課題を実際に発見しやすくするフレームワーク「PEST分析」について考えていきましょう。
(1)PEST分析とは?
PEST分析とは、事業で解決するべき課題を発見するためのフレームワークです。この分析は、現在から5年後、10年後でも課題となっているものを探すことができる分析といわれています。
スタートアップ関連の書籍として近年注目されている『起業の科学』(日経BP社 2017年)の著者である田所雅之氏は「3日間だけでも、このリサーチ(=PEST分析)に時間を割くと、どこにビジネスチャンスがあって、どこに”地雷”があるか、大分見えてくるはずだ」と述べています。それほどに優れたフレームワークとして注目されています。
この分析手法は、以下の4つの領域ごとに、自分が集められる限りの情報をまとめていく中で、事業を始めるために一番重要となる〈社会で課題となっているもの〉が見えるようになっていきます。
①Politics(政治)
市場の枠組み・規制に影響する話題
(例)法律、政治、条例の動きは?
②Economy(経済)
バリューチェーンに影響する話題
(例)経済の動向は?所得や消費の動きは?
③Society(社会)
需要構造に影響する話題
(例)人口の動きは?文化・流行の動きは?
④Technology(技術)
競争ステージに影響する話題
(例)技術確認の進み方は?GAFAMなど大手テクノロジー会社の動きは?
以上の4つの話題を思いつく限り書き出し、分類して行く中でだんだんと課題が見えるようになってきます。そして、その中から自分が取り組みたい課題をチョイスし、そこから事業を考えていくと事業が継続しやすくなります。
(2)PEST分析の分析法
それでは、PEST分析のそれぞれの領域のまとめ方について考えてきましょう。
①Politics(政治)
政治や法律の領域は、ビジネスの大前提がひっくり返るくらいの影響力があるので、非常に重要な課題が出やすい領域です。
よって、新聞・雑誌、ネット等で常に政治や法律の領域で重要な変更や規制緩和などを掴んでおくと、事業課題を見つけやすくなります。
例えば、2018年に施行された民泊新法は、ハードルが高かった旅館業許認可・簡易宿所許認可事業以外での宿泊形態への道が開かれたことにより、民泊営業希望者が増加することにつながりました。
その結果、民泊営業希望者がどのような課題をもっているのかを分析した民泊営業車向けサービスの需要が増加していきました。
すでに、日本以外の国では広まっていた「Airbnb」は、日本関連の事業における業績を伸ばす結果ともなりました。
近年では、新型感染症の影響による時短要請や在宅勤務への課題に応えるネットショップやオンライン会議システム等の利用率が増加し、その利便性を経験したユーザーが、コロナ後も在宅・オンラインでのビジネスを求める声があります。その声に応えるための感染症後のオンラインサービスを提唱する事業が成長傾向を示しています。
②Economy(経済)
経済の動向は数値化されやすいので、何が社会で不足しているのかが明確に示されます。
よって、様々な媒体を通じて、重要そうだと思う経済の動向に関する数値やグラフなどをまとめておくと、数値的な分析を通じて課題を見つけやすくなります。
例えば、アメリカでは近年、平均所得が伸びてきています。しかし、国民全体が富裕になったから平均所得が伸びているのではなく、貧富の差の拡大により、富裕層によって平均所得が引き上げられていたことが判明しました。富裕層のみによる平均所得の成長であるので、貧困層はより貧困の傾向が高くなっており、貧富の差拡大により社会状況は不安定な状況となっていました。
貧富の差を是正するという課題。早くから、この問題に注目していた事業者がいました。
貧困層を対象として教育サービスを展開すKhan Academyです。貧困層がサービスの受益者なのですが、貧困層から代価を受け取らず、代価を支払うのが富裕層から寄附によって事業を成立させています。
富裕層の中には、貧困の差が社会問題を引き起こし不安定な社会になることを不安に感じる方も多い傾向にあります。富裕層がこの不安を解消するために貧困層が貧困状態を脱却するための方法の一部である教育事業〈Khan Academy〉に、自分たちが抱いている社会不安という課題を解決する事業として代価を支払うという仕組みを構築し、成長しています。
③Society(社会)
人口動態や人間の嗜好性の傾向は、人々が何を求めているのかを直接的に示すものです。これも様々な媒体、もしくは自分の周囲にいる方などからのヒアリングを通じて情報をまとめておくと、直接のニーズを示しているので、課題を発見しやすくなります。
人口動態からいえば、日本は明確に高齢社会となっているので、高齢者が多く、介護をする側の世代が減少しているので、確実に福祉業界への人材難の現状が課題となっています。
福祉業界の待遇改善などにより、福祉業界を魅力的なものにすることは当然の対策ですが、もともと介護する世代の人口が減少しているので、これだけでは抜本的な解決につながりにくい状況にあります。
この問題に目を付けた事業が排泄予測デバイス「D Free」です。介護の現場に必要な人材が少なくても介護を可能にするために、介護の効率化を目指すデバイスを開発しました。
介護を受けている方の排泄時間を予測することで、仕事の効率化を実現したのです。結果として、人口動態からくる構造的な人材難の問題を解決する可能性を広げたのです。
④Technology(技術)
PEST分析の4領域のうち、明らかに特徴が異なるのがテクノロジーの領域です。他の3つの領域は、前時代の傾向に戻る可能性があり、情報を集めてもその前提が大きく覆ってしまう可能性もあるので、事業を始めてからも常に課題の動向を追っていく必要があります。
しかし、テクノロジーの領域に関しては、前時代に戻る傾向はなく、確実に進展し続けていく領域です。よって、テクノロジーの情報は、現在の傾向から将来起こる課題を予測しやすい領域ともいえるので、事業が軌道にのれば、その先起こることも予測しやすい領域です。
特に現代は、Z世代と呼ばれる、生まれた時からスマホがあった世代が将来を担うようになるので、テクノロジーの傾向をしっかりとつかみ、課題を掴んでおくことは重要となってきます。
ただし、気を付けるべき点は、テクノロジーの分野は革新の速度が速いので、最初に課題を設定する時は、必ず10年後の社会を予測しながら課題を設定しておく必要があることです。
では、10年後の社会を予測してテクノロジーの課題を見つけるためにはどのように情報を収集すればよいのでしょうか?
様々な情報を発信する媒体からの情報収集は当然のことです。それとともに、GAFAM【Google、Apple、Facebook(現meta)、amazon、Microsoftの5つの5大テクノロジー事業者の頭文字をとった略称】など、テクノロジーの巨大事業者の動向をしっかりと見ておくことです。これらのテクノロジーの巨大事業者が見逃している技術面での課題は何か…ということを思いつくままにまとめておくと、テクノロジーの課題が見つけやすくなります。
例えば、amazonが解決できなかった課題を扱ったことで成長した「インスタカート」という事業者がいます。
【ECの限界となっていた生鮮食品販売を可能とした「インスタカート」】
様々な商品を取り扱うamazon…しかし、生鮮食品だけは取り扱いが困難でした。というのも、amazonが築き上げてきたのは、配送センターを利用したeコマース(以下EC)だったからです。短期間で在庫を処理しなければならない生鮮を扱うのは困難だったのです。
そのような状況中でamazonの1人のエンジニアが、いずれは、生鮮食品をはじめとするすべての商品をネットショップで購入する時代となることを予測し、どいうにか生鮮食品をあつかうことができないか…どのような解決方法があるのかを考え始めたのです。
そして、ネットショップの欠点を補うべく、配送センターを使わない方法を思いつきました。それは、既存のスーパーを利用した買い物代行サービス「インスタカート」でした。
近隣のスーパーで購入可能な生鮮食品をアップし、注文が入ったら、買い物代行員がそのスーパーで代わりに買い物をし、注文主に配送するという仕組みを開発し、amazonから独立したのです。
注文主にとっては、今まで困難であった生鮮食品をネット上で購入することができるようになりました。
また、amazonの成長の影響を業績が下落傾向にあったスーパーにとっても売上増につながる仕組みでした。
そして、インスタカートにとっても在庫を管理する必要がなくなるので費用が削減できる仕組みとなりました。
注文主、スーパー、インスタカートの三者にとって利益があるシステムでした。その後、生鮮食品以外のスーパーの雑貨の代行も行うようになり、Amazonを脅かす存在にまで成長し、一時期、amazonがインスタカートとの提携も考えるようになるまでになったのです。
―まとめ―
★PEST分析とは
PEST分析とは、P(政治・法律)、E(経済動向)、S(社会情勢⇒人口動態、人々の嗜好の傾向)、T(技術)の4つの領域ごとに、自分が集められる限りの情報をまとめる分析手法です。
この分析を行うことで、事業を始めるために一番重要となる〈社会で課題となっているもの〉が見えるようになっていきます。
分析手法というと難しく感じる方も多いと思います。でも、実際にやり方を見てみると、「こんなに簡単にまとめられるんだ!」と感じる方も多いと思います!
この分析をするだけでも、事業の成功率は高まっていきます!是非、お試しください!
次回は、事業計画の骨格の第二項目である「顧客セグメント」の掴み方について考えていきます!
最後までお読みいただきありがとうございました。