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「はじめて記念日」——ある日通りがかった家の前でおじさんと目があった話——

これを目に留めてくださったあなたは、自分が初めて歩いた日を覚えているでしょうか?
初めて「ありがとう」って言った日は?
初めて自転車に乗った日、初めて自分のおこづかいでおやつを買った日、初めてお風呂に1人で入った日、初めて家の壁にらくがきしてみた日、初めてダンゴムシをポケットに入れて帰ってお母さんに絶叫された日、初めてともだちの悪口を言ってみた日、初めてゴキブリが飛ぶ瞬間を見てこれ以上の恐怖映像はないと思った日、「ああ、自分って意外となんにもできないんだな」と初めて家族と離れてみて感じたあの日…。

きっとたくさんの「初めて」が、今もこの瞬間にも、世界中のいろんな人の中に生まれては、消えていってることでしょう。
いつだったかともだちが、「人生初めての瞬間は、あ、これが初めての時だってその時わかるけど、人生最後の瞬間は、これが人生最後になるんだなあ…ってその時はわからないもんだよね。もしかしたら、今こうやって会ってるのがさ、死ぬ間際にようやく、あの時が最後だったんだなってなるかもしれないもんね」
なんてことを、セミがジリジリ鳴いてる長谷寺で言っていた。その頃のともだちは、何かにつけて文学的だったので、
「文学的だねえ」って返事したのを覚えてる。

今日の私にも、「初めて」の瞬間があった。
目的の場所があって、住宅街をとぼとぼ1人で歩いてた。
梅雨入りもしてないのに、今日は30℃超えるだろうってヤフー天気が言ってて。たしかに今日は、あっついなーって思いながら歩いてた。
ふと、右を見た。
家があった。
玄関が見えた。
おじさんが出てきた。
おじさんが出てきて、
おじさん、玄関のドアを閉めながら、

「ぐえーーーーーーーー」

めっちゃでかいゲップして、
ちらってこっち向きながら目があって、
目が合いながらおじさん、
ゲップした瞬間私が見てたのに気づいて、
たぶんおじさん、私が見てたの気づかずにゲップしたんだろうなって
そのことに気づいた自分に気づいて、
何でもないようにお互い前向いて、
「たぶんこれ、『初めて、ゲップした瞬間のおじさんと目があって気まずくて可笑しな気持ちになった瞬間』だ」って。
私はだれにもわかんないようにくすっ、て笑って。

勝手に今日を、
「初めてゲップした瞬間のおじさんと目があって気まずくて可笑しな気持ちになった記念日」
に制定した。



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