《シリーズ》政府のお財布 その③ 歳入 ー 政府の収入(1)
前回までは政府の支出、すなわち歳出について取り上げた。
今回取り上げるのは歳入の方だ。
今回も財務省のページをなぞって行く。
前回の記事 ↓
財務省の解説ページ ↓
財政はどのくらい借金に依存しているのか
財務省の解説ページで歳入の次に取り上げられているのがこのテーマ、借金についてだ。
収入についての話の冒頭に借金の話が来るなんて、なんともうら寂しいが。
掲載されているグラフを見てみよう。
政府の収入である歳入は、所得税、法人税、消費税、その他税収と、約半分が税収によって賄われていることが分かる。
そのために税金を納めているのだから当たり前だ、という感覚だろうか。
解説文にはこうある。
●2021年度予算の国の一般会計歳入106.6兆円は、①税収等と②公債金(借金)で構成されています。
●現在、①税収等では歳出全体の約2/3しか賄えておらず、残りの約1/3は、②公債金(借金)に依存しています。
●この借金の返済には将来世代の税収等が充てられることになるため、将来世代へ負担を先送りしています。
(1)「税収等」:所得税、法人税、消費税等の税による収入とその他の収入
(2)「公債金」:歳入の不足分を賄うため、国債(借金)により調達される収入
(太字は原文ママ)
ここから読み取れるのは、次の4つだ。
①歳入が税収と借金で構成されていること
②税収が足りなくて借金依存だということ
③借金の返済は将来の税収で行われるということ
④そして、財務省は借金が多いことを強調したいということ
①はグラフを見ての通りだからまあ良い、②③もその通りだというのが一般の認識だろう。
でもどうだろう。本当にそうだろうか。
政府のお財布と家計のお財布
いきなり財務省の解説に横槍で申し訳ないが、ここで私見を差し挟む。
それは、政府財政と企業や家庭の会計・家計は全く違うものということだ。少なくとも私はそう思っている。
私は財政専門家ではないので誰にでも分かる違いが分かっているというだけだが。
だれでも分かる違いとは、収入から支出に至るまでの方向性だ。
つまり、企業会計や家計では、まず収入があって、その後に使いみちを考え、長期的な返済計画を立てた上で借金をするという風に、どちらかと言うと使える範囲内で使う。
もちろん、一番最初の立ち上げ時は自力ではなく、他者からの投資を受けることによって成立する。これは返済不要の資金だ。
法人の場合は資本家(もしくは創業者自身)からの投資という形で資金(資本)を得るし、個人の場合は生まれてこのかた働き出すまでの間に親に支援されているのが一般的だろう。
これに対して政府は、まず使いみちと金額(予算)を決めてからそれに収入を割り当てる。割り当てられた金額は原則使い切る。
計画と実際は違うから、普通の考え方なら使いみちを決める際には多めに見積もっておかなければならないだろう。
実際には、予算を立てる段階では来年の収入だって良く分かっている訳ではないので、あくまで見込額でしかありえない。
つまり、まず収入があってからそれを分け合う企業や家庭と違って、政府の場合は使った後でそれを収入で穴埋めする。
収入と支出の流れの違い
いやいや、企業だって従業員の給与や機械購入などは計画的に予算を立ててから運営しているだろうと思うかもしれない。確かにその通りだが、少なくとも借金が膨らんでどうしようもない状態になったら倒産や個人破産になってしまうのだから、借金も含めて計画の枠内でやることが大前提だ。
考えてみれば、政府が予算を立てる段階で「約半分が借金です」と言うのはどうなんだろうか。
もし、結婚しようと思っている男性が、
「オレ、稼ぎ悪いからさ、家計の半分は消費者金融で賄おうと思ってんだ!」
なんて言っていたら、あなたは
「子供に借金を残すことになるけど仕方が無いね!」
とでも言うんだろうか。
老婆心ながら、悪いことは言わないからそのような相手とは婚約しない方が身のためだ。
万が一結婚してしまった後に相手のそんな考え方に気付いた時、
「分かった。家計の収入を増やして借金を返すために親戚から借りまくるわ。親戚なら踏み倒せるし。それで資金を作って競艇で一発・・・」
なんて言われたらどうだろうか。
でも、政府の場合「収入の4割が借金です」と言いながら、経営は順調。世界の中では相対的に価値が下がりつつあっても、倒産の「と」の字も聞こえてこない。
これは何故だろうか。
そもそも、公債金や国債のことを「借金」と言う表現に置き換えているのは何故だろうか。本来、公債と借金は別物なはずだ。
どれくらい借金に依存してきたのか
話が脱線したが、財務省の話の流れに戻そう。
「どのくらい借金に依存してきたのか」に掲載されているグラフを見てみよう。
●これまで、歳出は一貫して伸び続ける一方、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はワニの口のように開いてしまいました。また、その差は借金である公債の発行で穴埋めされてきました。足もとでは、新型コロナウイルス感染症への対応のため、歳出が拡大しています。
ここではワニが可愛そうな使われ方をしているが、私は爬虫類好きではないので何とも思わない(爬虫類嫌いでもない。ちなみにワニは両生類ではない)。でも、ワニって口を開けっ放しではないよね。
このグラフから分かることは、政府はこの30年、税収よりも多すぎる歳出計画を立てて、それを加速して来たということ。
それまで右肩上がりで増えてきた税収が1990年を境に大きく落ちたのはどうしてだろうか。財務省の解説ではバブル経済崩壊ことを理由に挙げているようにも読めるが(そうは書いていないが)、1990年以前と以降で何かが違うことは明らかだ。
何の雑念もなくこのグラフを眺めると、政府の財政が計画的に行われていることを考え合わせれば、「日本政府は1990年以降、借金を増やす政策に転換しました」というように見える。それでいて今更「みなさん、借金が大変です・・・」と言っているのだろうか。
日本の借金を諸外国と比べると
続けて、諸外国と日本と比べたグラフが掲載されている。
●財政の持続可能性を見る上では、税収を生み出す元となる国の経済規模(GDP)に対して、総額でどのぐらいの借金をしているかが重要です。
●日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。
とにかく、日本は借金が多いことを、これでもかと印象付けたいらしい。
確かに、これが家庭だとして、借金まみれなのに旦那が無関心で「ちょっくらパチンコ行ってくるらぁ」と家を出ていったとしたら、不安を通り越してこんなグラフでも作りたくなるだろう(ならないか)。
国内総生産に対する債務残高の割合は、企業に置き換えれば、売上高に対する債務残高の割合ということだろうか。つまり売上高債務残高比率か。
少し古そうな資料だが、こんなグラフがある。
売上高債務残高比率は例えば不動産業では平均200%、最大300%であるのに対し、建設業では平均30%、最大70%と桁が違う。業態によってこれだけ違うということは、国においても平易に比較は出来ないということにならないか。
不動産業の債務残高が多いのは、土地や建物といった不動産を購入するための債務、つまり、資産の身代わりとしての借金だからだろう。だから債務残高が多くても、いざとなれば土地を売って現金化し借金返済に当てられると。
国の場合はどうだろうか。
次回予告
私の余談が多かったせいでここで紙幅が尽きたため、今回はここまで。
財務省のページでは続けて、「なぜ財政は悪化したのか」と題して振り返りをしているようなので、次回はここから見ていくことにする。
「だれがこんな借金まみれにしたんや!」という問にどんな答えが用意されているだろうか。
つづく